第5話 魔術と鍛練
朝、俺の日課は畑の世話から始まる。小さく、それだけで賄えるものではないが、幸いなことに、家にはそれなりの余裕があった。詳しく聞いたことは無いが、恐らくアーティファクトや遺跡で得た情報を売ることで収入を得ているのだろう。村の者との交流は一部と最低限の物々交換しか行っていないが、行商人からも衣類や食材を購入することで、問題なく生活出来ている。
次に料理などの家事を一通り行い、鍛練の時間になる。最初に向かうのは父の書斎だ。
基本的に日が頂点に昇るまでの間はこの場所で本を読んでいる。学者の書斎というだけあり、研究に使っている資料や生き物の生態系、植物の図鑑、果ては料理本など多くの本が揃っていた。
中でも俺が毎日のように読む本は魔術書だ。生き物の中には様々な力があり、その中の1つに魔力がある。奇跡のような現象を起こし、時には天候すら操るという。しかし、宿っている者はそれなりにいるが実際に行使できる者は少ない。魔術師は力を秘匿とすることが多く、魔術書も貴重な為、覚える機会が少ないのだ。
また魔力を操作することも難しく、継続した鍛練が必要、大きな術は術式の構築に時間がかかるなど欠点も多く、あるかどうか、使えるかどうかも分からない魔力に時間をかけるくらいならば、武器を持ち身体を鍛えたほうがいいと思う者もいるだろう。実際、俺は魔力の知覚すら出来ない。
ならばなぜ俺はこの本を読んでいるのか、それは父が魔術を使えるからだ。そうはいっても出来るのは薪に火をつける程度、とても戦闘に使えるようなものではなかったが、父の瞳は魔力を捉えることが出来た。その父が俺の中には僅かだが魔力が眠っていると言った。ほんの僅かでも使える可能性があるのなら、覚えておいて損はないだろうという考えだ。
日が頂点に昇る頃、俺は家の外に出ていた。身体を鍛える為に村周辺の林の中を移動し、誰も来ない場所を探している。ティックや他の村人に出会わないように慎重に移動する。また、ぼろぼろにされては敵わないからだ。
しばらく探索を続けたあと、誰もいない空き地にたどり着いた。
鍛練の方法は書斎にあった本を読んで考えた。『人体の基礎』『果てなき森の歩き方』『最初の剣』『限界掌握術』を主に参考にしている。
『人体の基礎』とは、その名の通り人の身体における各部位の役割や失った場合の対処法などが記されている。これをもとに鍛えたい筋肉の関係性や怪我をした時の応急処置などを学んでいる。
『果てなき森の歩き方』は、自然と一体化する心得と森の中を進む時の注意点などが書かれている。林を移動する時もこの本を参考に行動していたが気配を消す、足音を無くすとか本当に出来るのだろうか。抽象的な部分も多く、書いてある通りに出来ているのか分からない。
『最初の剣』は、名も無き村の少年が剣を取り、旅をする中で1人の戦士になっていく物語だ。彼は主職ではあったものの、魂核が無いに等しく他の村人達には馬鹿にされていた。そこでただ1人剣を基本に投脚法や道具を活用し、怪物を倒し魂核を高め、やがて周囲の者達から認められるようになる。剣の振り方や各種道具の作成方法、旅の途中で遭遇した怪物達についてや街の様子なども記されている。
『限界掌握術』、動作の精密さの重要性、力の伝達、意識の切り替え、精神統一、感覚の拡張、思考の加速など様々な視点から人体を最大限まで活用する為の鍛練法。かつての文明の本を翻訳したものらしい。正直半分も理解していないが、具体的な鍛練方法が複数載っている数少ない本なので参考にしている。
これらの本を用いて、今日も鍛練を開始する。
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