第4話 帰宅
「――ただいま」
日が暮れ肌寒くなってきた頃、俺は帰宅した。ここは村外れ、木造の平屋で父ディクトと住んでいる家だ。
「おかえり、デイル。今日も傷だらけだね、誰かにやられたのかい?」
父は奥の書斎からこちらに来て、心配そうに尋ねてきた。
「鍛練をしていたら少し、力が入っただけだよ父さん、すぐにご飯作るから」
「そうかい、身体を鍛えるのは良いことだけど、できるだけ怪我には気を付けるようにね。料理、父さんも手伝うよ」
「父さんは仕事があるだろ、いいよおれだけで」
「そういうなよ、たまには息抜きもしたいんだ。下手だけどそれも味だろ? 料理だけにね」
結局、2人で料理を作ることになった。食卓に料理を並べ席に付き、食事を取る。
父は学者だった。職名は『未知なる観測者』。滅んだ文明の足跡を辿る仕事だと、以前言っていた。なぜこの村を拠点にしているのかというと、母の故郷だかららしい。資料集めの為に旅をしていた父が母と出会い、俺が生まれた。だが母はもういない。物心つく前に村を襲った怪物達によって命を落としたと、父は悲しみに暮れた表情で語った。救援が間に合わなかった。もともと、この村の人達によく思われていないのだ。女性は基本的に主職の強い者の血を継ぐことが推奨されている中、ただでさえ余所者、それも支援職。厳しい視線があったのだろう。
「それにしてもデイルもそろそろ10歳になるのか、時が経つのは早いね。近くの教会は歩いて5日か、僕たちの護衛をしてくれる人はいなさそうだなぁ、次の行商団にお願いして連れていってもらおうか」
「うん」
「せっかくの誕生日だし何か欲しいものはないかい?」
「ないよ」
「そっかー、でもなぁ何か思い出に残る物あげたいしなぁ、うーん、じゃあこれにしよう」
周囲を少し見渡した後、棚に掛けられていたそれを手に取った。
「なにそれ」
「これはね懐中時計って言うんだ」
銀の鎖で繋がれ首から下げれるようになっている、表面には幾何学模様が描かれた時計がある。
「最近帰ってくる時間も遅かったし丁度いいんじゃないかな。それに時計はね、自分が歩んだ時間を刻み込んでくれるんだ。ふとした瞬間に時計を見て、共に過ごした思い出を振り返るなんてこともあるし、自分を見つめ直すには良い物だよ」
どこか懐かしむような視線を時計に向けていた。
「さて、楽しみになってきたね!」
「……そうだね」
言い淀んだのを気にしたのだろう、おどけたように話を続ける。
「不安かもしれないけど大丈夫、いざとなったらこいつで父さんが全部やっつけてやるからさ」
父は懐から金属で出来た『拳銃』というものを取り出した。かつての文明の
型番はSH-02。俺の手のひらと同じくらいの大きさで少し頼りないが、以前何度か撃たせてくれたことがあり、大木を貫き、石を穿つ弾丸は確かな殺傷能力を示していた。
僅かな間をおいて、父が語る。
「デイル、たとえ支援職で、思わしくない結果だったとしても、そこで諦めるな、知識を集め、鍛練を重ね、可能性の先を広げるんだ。君の努力は君を裏切らない」
そう言った父の目は優しさに満ちていた。
「わかってるよ」
父の言葉は俺の指針だ。どんなに自分のやっていることが愚かで、意味のないことでも、何も出来ないまま終わりたくないから。
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