第3話 職と魂核と才覚

 ティックが恐れられている理由は乱暴者だから、というだけではない。彼は『魂核こんかく』の発現者だった。


 魂核とは、彼の身体を僅かに光らせていたものの正体、神の恩恵とも呼ばれている『主職しゅしょく』の者達が持つ力の根源、オーラのようなものだ。これを纏っている時、生物の身体能力を大きく引き上げ、岩を拳で砕いたり、助走も無く木の上に飛び乗ったりと、超人のような力を与えてくれる。また優れた防護壁となり、外敵の攻撃から身を守ってくれる力でもある。これがあるからこそ、人類は怪物達との戦いでも抵抗を続けられている。


 本来子供が10の歳になった頃に最寄りの町や大きな村にある教会の神官に天啓を授けてもらうことで己の職がなんなのか判明する。また、他にも鑑定系の技能を持つ者が判別することが出来るというが、そもそも鑑定持ちが少ない為確証は取れていないという。

 以前なぜ「10の歳になるまで教会に行かないのか」父に聞いてみたことがあった。父が言うには、幼いうちは力の制御が効かず、周りを巻き込んで大きな事故を起こしてしまうことがあるというのと、そもそも最寄りの町や村までがそれなりに遠く、徒歩で5日以上かかる時もあり、その間外敵から身を守るのに幼すぎると危険だからなどの理由が上げられると言っていた。

 だとすれば、時が来るまで自分の職について何も分からないのだろうかとも思うが、それも違う。主職の者は生まれたときから主職である為、己の中に眠る力を知覚した時から魂核を纏うことができる。逆に考えれば魂核を纏うことができないのが『支援職』だと考えることができる。


 主職の者は魂核を発現し、強化された身体能力や戦う為のスキルなども所持している。そして彼らは怪物を倒すことによって己の力を高め、より強力なスキルを獲得することができる人類の要だ。

 ならば支援職とはなんなのか、それは魂核を持たず、一部を除いて戦う為の力を持たない者のことを言うのだろう。戦い以外のことに対する才覚やスキルは所持しているが、怪物を倒しても大して強くならない、戦闘で使えないスキルを獲得する、そもそも生身では倒すことが難しいのがこの職の性質だ。怪物と戦うことは出来ない、弱い、ゆえに主職の者達から虐げられる対象となっている。


 ここで問題なのは俺の職がなんなのか、ということだ。魂核を発現出来ないことから支援職であることは間違いない。だが他の者達はある程度己の才覚を知覚することが出来るようだが、俺には出来なかった。何をしてもその分野の才覚を持っている者には及ばず、さりとて得意なこともなく、この村の誰よりも劣っているという自覚だけが、そこにはあった。

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