第20話 遭遇
土曜日。僕とマイは一緒に出かける。目的は招き猫んじゃーのフィギアを集めることだ。繁華街やショッピングモールを回って、ガチャガチャを探す。
「はにゃーん、マイちゃん。陣ちゃんとお出かけするの? ママ嬉しい」
僕が玄関に出て来ると、二人で話すのを見てマイのお母さんがそう言う。
「でも、マイちゃん、デニム? スカートの方がいいと思うわ」
「いや、自転車でいくから」
「行こう」
マイはさっさと自転車に乗って、こぎ出す。
「待ってよ」
僕も自転車にまたがった。
僕らはまずはショッピングモールに向かった。僕はマイに並走して、話しかける。
「最初に買ったのがそこなんだ。まだ置いているかも」
「ねぇ、ガチャガチャに使うお金は貸しだからね」
「……分かっているよ」
僕の財布にはほとんどお金が入っていない。だから、マイから借りるしかない。早いとこ全色揃いますように。
ガチャガチャの並んでいるコーナーで招き猫んじゃーのフィギアを探す。
「お、あったあった」
「さっそく回しましょう」
二百円を入れてレバーを回す。それをマイに渡した。どれだけ運が良くても五回は回さないといけない。一度で揃えられればいいんだけど。確認する前に、どんどん回した。
「黄色とピンクと緑」
僕が回している横でマイがカプセルを開けて言う。その三つは出やすいんだよな。
「って、あれ?」
お金を入れてレバーを回しているのに次のカプセルが出てこない。横から見ると、中にもうカプセルは入っていなかった。
「三つで売り切れとは……」
「他の所に行かないとね」
「うん。繁華街にガチャガチャいっぱい置いているゲーセンがあるから、そこになら置いていると思う」
「そこに行きましょう」
「なぁ、その前にちょっと早いけど昼飯にしないか? フードコートあるし」
「しょうがないわね」
僕らはフードコートに向かった。そこで、ファストフードのハンバーガーを買って席に着く。
「期間限定のこれ食べたかったんだ」
僕は卵の挟まったハンバーガーにかぶりついた。この肉と卵のハーモニーがたまらん。
「なるほど、それ目当てだったのね。これも貸しね」
マイも僕の口を大きく開けて、かぶりつこうとした時だった。
「鶴ノ原さん? やっぱり、鶴ノ原さんだ」
知らない女性がこっちを見ていた。たぶんマイの知り合いで、高校生ぐらい。
「えと、こんにちは」
マイ援護よろしくなと思いながら、
「鶴ノ原さんでも、こんなところに来るんだ? しかも、彼氏?」
「い、いや、ただの友達で」
僕は必死に話を合わせようとする。しかし、そんな必要もなかった。
「彼でしょ。こんな人がタイプだったんだ。どうりで」
なんか、僕の身体をジロジロ見て失礼じゃないか、この人。
「鶴ノ原さんって、土日も家で練習しているんだと思っていた。それか勉強? なんか、テニスも勉強も命懸けてますって感じで必死だったよね。まぁ、結果だしているんだから文句なんてないんだけどさ」
すごく
「あ、私、友達と約束あるから。じゃあね」
そう言って、荒らすだけ荒らして去って行った。
「ねぇ、今の誰?」
僕はすぐに顔を近づけてマイに聞いた。
「中学の部活の先輩」
「先輩……」
感じの悪い先輩だ。でも、あの態度を見てマイが何もどこでも歓迎されているわけじゃないことを知った。
「もしかして、テニス部に入らないのは、またあんな意地悪な先輩がいるかもしれないから?」
「違う」
マイはハンバーガーを
「自分で言うのはあれだけど、子供のころから妬まれたりすることはあったから。あの先輩は口を出すだけで、それだけだから」
じゃあ、口だけじゃない場合もあるのか。僕と疎遠になった時から、マイはいったいどんな嫌がらせを受けていたのだろう。簡単には想像できないけれど、
「なぁ、マイ。今度何かされたら、僕にちゃんと言うんだぞ」
「……今は、陣が私だけど」
「あ、そうだったな。じゃあ、僕は身を守るから、って、今日フィギアが揃えば入れ替わりも解けるかもしれないじゃん」
「そうだったね」
マイは少し顔を俯かせる。もしかしたら、本当は入れ替わりを解きたくないのかもしれないと僕は思った。
僕はどうだろう。マイの身体も慣れてきたけれど、だからといって戻らないわけにはいかない。たぶん、まだ四月だから放っておかれているけれど、テニス部の部長だけでなく、他の運動部の部長もマイをこのままにしておくはずがない。
僕はなんでマイのことをこんなに真剣に考えているんだろう。やっぱり入れ替わったからだろうな。
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