第18話 気にしていること
「「はあぁ……」」
自転車で家に帰りながら二人そろって、大きなため息をつく。僕は一番をとれなかったからだ。
「私だって応援部に入りたかったのに」
マイが僕の身体でそうつぶやく。マイは結局入りたいわけでもない僕の身体を入部させただけだ。
「だけど、このまま入れ替わりが五月までに解けないと、僕はもしかして応援部に入部ってことに……」
「そうなるわね」
そうなるわねって、マイが入部を辞めてくれれば、すぐ解決することなんだけど。
「それより、私って笑顔が無かった?」
「え。うん」
早坂部長が言った通り、マイは真顔で踊っていた。
「……笑っていたつもりなんだけど」
マイは頬をむにっとつまんだ。
「僕の身体だからじゃないの? 表情筋の使い方が違うとか」
「たぶん、そうじゃないの」
マイは黙りこむ。確かにマイがニッコリ笑ったところなんて何年も見ていない。僕の前だけじゃなくて、他の人の前でも笑顔がないってこと?
「ま、まぁ、それより、入れ替わりのこと、解決しないとな」
「うん。新しく陣が一位になれそうなこと考えておく」
その夜。
「今度は何?」
僕は目隠しをされて、縛られていた。どこか不安定な所に立っている。もしかしなくても、分かっている。これは夢だ。久しぶりに見たな。
「待たせたな、陣!」
ほらほら、レッドが助けに来たぞ。しかし、その活躍場面も、目隠しされていては見ることが出来ない。バキバキと敵を倒す効果音が聞こえてくるのみ。
「こっちだ」
誰かの手にひかれて、僕は移動した。すぐに拘束と目隠しが外される。
「危ないところだったな」
目の前にいるのは、招き猫んじゃーのグリーンだ。黒タイツが周りに倒れている。
「ここは……」
「サメのエサにされる所だったよ」
「ええ!?」
足元が不安定だと思ったら、船の上だった。板の上を歩かされて、海に落とされる所だったのだ。船の下を覗き込むと、サメの背びれが何匹も海面を漂っている。夢とはいえ、ぞっとする。
「それにしても、応援部のオーディションで一位になるなんて、志が低すぎじゃないか?」
「いや、何でもいいから一位になろうと思って」
「しかも、一位になれていない」
グリーンが辛辣なことをズバッと言った。
「何でもいいけど、本当に何でもいいわけじゃないよね」
レッドもすぐ横に来た。
「え? 僕は何でもいいんだけど」
「やっぱり一位になるからには誇れるものじゃないとね」
「そうだな。誇れるものこそ、本当の一位じゃないか」
「いや、僕はゆるゆるの性格だから。ちょっと一番になれたら、いいなぁぐらいの気持ちで」
「男には一位にならないといけない時がある」
グリーンは聞いちゃいない。
「まぁ、陣なら大丈夫さ」
何が? そう、聞きたかったけれど、僕は目を覚ました。
金曜の朝。僕らは自転車で学校に向かう。足ももう全快したので、二人乗りはしていない。
「私、入れ替わりを解く方法を思い付いたわ」
自転車をこぎながらマイが言う。
「お! 僕が一位になれそうなこと?」
「ううん。違う」
違うんかい。
「もう一度、その願いが叶うおもちゃを新しく集めるのよ。そこで、入れ替わりを解いてくださいってお願いするの」
「なるほど!!」
裏技的だけど、それなら招き猫んじゃーたちも納得いくはずだ。ちょっとやそっと、一位をとったぐらいじゃ納得しなさそうだし。
「それじゃ、さっそく行きがけに回そう」
招福戦隊招き猫んじゃーのガチャガチャが置いている駄菓子屋は、通学路の途中。だが、その駄菓子屋の前に来て僕らは絶句した。
閉店しました、という張り紙がシャッターに貼られていたのだ。もちろん、ガチャガチャも撤去されている。
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