第15話 いろいろって?


「それじゃ、学校で見かけたら声をかけるね」


 そう言って原西さんとは第三資料室の前で別れた。僕はマイのこぐ自転車の後ろに乗って運ばれる。


「ねぇ、陣」


「んー?」


 マイが自転車をこぎながら話しかけてきた。


「部長が青春を無駄にするって言っていたけれど、どういうことかな?」


「そりゃ、やっぱ、雑用ばかりで楽しくない部活だって意味じゃないの?」


「……そうかな」


「そうだろ」


 まぁ、あの意味深な言い方だと気にはなるが、特に深い意味は無いのだろう。僕はそう思っていた。





「たっ、たっ、助けてー!!」


 僕はこの日も夢を見ていた。夢だともう分かっているのはいいのだけれど、今日の僕は縄でぐるぐる巻きにされ、大きな橋の真ん中で宙ぶらりんにつるされていた。


 橋の上にはケケケと笑って黒い全身タイツの軍団がいる。その手には大きなハサミが。


「やめろー!」


 しかし、無情にもジョキンという音が響いた。


「わあああああ!」


 僕は重力に従って、地面へと落下していく。


「危ない!」


 ふわっとした感覚がして、僕は誰かに抱き留められた。


「イエロー!」


 助けてくれたのは、やはり招福戦隊招き猫んじゃーで少したれ目のイエローだった。地面に降ろすと、レッドも近づいてくる。


「やあ、陣。危ないところだったね」


「本当だよ。なんで僕は夢を見るたびに危険な目に合っているんだ」


 つまり入れ替わって、毎日悪夢を見ていることになる。ぐったりしている僕を無視してレッドは言う。


「それはそうと、陣。部活に入ったんだね」


「仮入部だよ。本当には入らないよ」


「いい部活じゃない。そこでナンバーワンを目指すといいよ」


 イエローがのほほんとして言う。


「言っていること分かっている? 入っているの応援部だよ? それも、仮入部!」


「一位って言っても、いろいろあるさ」


「いろいろって?」


「いろいろはいろいろだよねー」


「ねー」


 レッドとイエローは顔を見合わせて、ふふふと笑っていた。


 何なんだよと思いながら、意識が薄れていく。目覚めの時間だ。





「って、夢だったんだよね」


 僕は髪をマイに整えられながら、夢の内容を話していた。マイは髪をまっすぐにしていたアイロンの手を止める。


「もしかしたら、陣が何かの一位になれば入れ替わりは解けるんじゃない?」


「え……」


 言われてみたら僕らが入れ替わったのは、僕がなんでもいいから一位になりたいと願ったからだ。しかし、マイになったからと言って一位になったとは言えない。なにせ頭の中身は僕だし、マイのスーパーボディも僕では上手く扱えない。


「じゃあ、一生このまま?」


 ゴン!


「いて!」


 頭に衝撃があって振り返ったら、マイがクシを持ってすごんでいた。


「一生、このまま? 陣、あなたずっと何にも秀でないつもりなの?」


 いや、いつでも一位のマイと違って、案外トップをとるのって難しいんだぞ。


 ――とはいえず、


「と、とりあえず次の実力テストがんばろうかなーって思っていたとこだし」


 僕は目をそらしながら言う。


「そんなに先のこと、待ってられない。私に考えがあるわ。木曜日に応援部の振り付けを部長に見せるでしょ? そこで一番うまいって、部長に言ってもらうのよ」


「おお!」


 レッドが言っていたいろいろって、このことか! 


 僕らは土日を使って、振り付けの猛特訓をすることにした。

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