第14話 応援部の活動内容
後ろのドアを振り返る。早坂部長がハイと言うと、失礼しますと言ってドアがスライドした。
「あの、ここ応援部の部室ですよね」
入ってきたのは、背の低い女生徒だった。ゆるふわパーマで、声が蚊の鳴くように小さい。
「見学が三人も。今年はどうかしているわ」
早坂部長はやれやれといった様子で首をふる。
「え、あの……、迷惑でしたか?」
ゆるふわパーマの女子は戸惑っている様子だ。
「なんだか、新入部員はあまり歓迎されていないみたい」
僕は親切心を出して教えてあげた。よく分からない部活だ。訳の分からないことを言っていたし、三人とも他の部活に入った方がいいだろう。
「そう、なんですか? でも、私、上の学年にいる姉から応援部のこと聞いていて。普段はあまり活動しないけれど、学園の運動部が大会の上位に行くと必ず応援に行くんだって」
確かに、そう部活動紹介で話していた。というか、普段は暇な部活なのか。
「私、子供の頃から病気がちで。あまり活発に動けないんです。それで、応援部に。実際に応援するときは、あまり役に立たないかもしれません。でも、テレビでスポーツを見るのが好きで。だから、勇気を出して来たんですけど……」
ゆるふわパーマの女子は少し涙目で言う。
な、なんか、いじめているような気分になるな。いや、僕は本当のことを言っただけだし。
しばらく黙っていた早坂部長だが、僕とマイの間を割って入り、ゆるふわパーマの女子の手を握った。
「あなたのような部員を待っていたわ」
「態度変わりすぎじゃないですか!?」
僕は思わず、思ったことを口にしてしまった。
「なに? 入部の
「そんな権限聞いたことありません」
マイが不機嫌そうな口調で言う。
「あ、あのぉ。とりあえず、座ってお話しませんか? 大体の活動内容とか聞きたいです」
ゆるふわパーマの女子が遠慮がちに提案した。
「そうしましょうか」
マイが真っ先にパイプ椅子に座る。いや、僕はもう帰りたいんだけど。だけど、マイの手前それは出来なかった。
「まずは自己紹介から。三年部長の早坂さつきです」
「1年5組の
「1年3組、秋野陣です」
「同じく1年3組、鶴ノ原マイ」
早坂部長を前に三人、面接を受けるような格好で並んで座っていた。
「ところで、今日活動日ですよね。他の部員は……」
僕は部室を見渡しながら聞いた。
「部員は3年が私一人。2年が二人。いずれも幽霊部員よ。本格的な活動がある時だけ、引っ張りだされるの。まあ、それにも応じなかったりするんだけど」
それを聞くとほとんど機能していない部活なんじゃないのかと思えてくる。
「活動内容を詳しく教えてもらえますか」
マイが率先して聞いた。
「原西さんが言った通り、運動部が大会の上位に行くと応援に行く。チアのユニフォームを着てね。これよ」
早坂部長は立ち上がって、部室の片隅にある段ボールを開ける。
「おぉ……」
それは白いシンプルなユニフォームで胸にはCLEAと黄色い文字で書かれている。プリーツの効いたスカートは案外短いように見えた。
僕はマイや原西さんがチアのユニフォームを着た姿を想像してみた。
……可愛い、気がする。まぁ、入れ替わったままなら、僕が着ることになるんだけど。
「男子は?」
マイがユニフォームを見ながら早坂部長に聞く。
「ないわよ。今いる部員は全員女子。まぁ、特注してもいいけど、部費では無理よ」
そうですかと、マイはあっさり引き下がった。
「それで、活動内容なんだけど、はっきり言って雑用よ」
「「雑用?」」
僕とマイは声を揃える。
「そう。地区の大会なら少人数でいいんだけど、大会が大きくなるにつれて応援団も大きくなる。だから、一緒に応援してくれる人を募るの。それで、振り付けの指導とか、ユニフォームの手配とか、応援団の陣形とかを一切合切任されるという訳。どう? 雑用でしょ」
確かに雑用だ。
「でも、誰かがしないといけない仕事ですよね。わ、僕、やっぱり入部します」
マイははっきりそう言った。
が、ちょっと待って。僕の身体だから、僕が入部したことになるんだよな。基本的には楽そうだけど、夏ごろは忙しい部活なんじゃないの? その頃には入れ替わり解けているんじゃないの?
「マイも入るよね」
別に応援部が悪い部活という訳じゃない。だけど、マイの身体的には宝の持ち腐れというか。
「入るよな」
念押しされた。僕は
「私も、もちろん入ります」
原西さんが言う。
「……まあ、とりあえず三人とも仮入部ってことにしときましょうか。五月までだけど。それで、新入部員には、まずこの振りを覚えてもらうことになっているから」
そう言って早坂部長は紙の束を渡してきた。紙には振りが図で解説されている。
「基本的な振り付けよ。出来ないなら入部は認められないわ。そうね。来週の木曜日までが期限かしら」
いや、そんなルール知らないけど。まあ、これで出来なかったら入部は……。
「覚えられるよね、鶴ノ原さん」
マイが笑顔で言うけれど、その眼は覚えないと許さないと言っていた。
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