第13話 部活見学


 クラスメイトたちとの会話にギクシャクしつつも、この日も授業が終わる。


 これで後は帰るだけだ。足も怪我しているし、バレないように、さっさと帰る方がいいだろう。僕は帰り支度を済ませて、マイのところに行く。


「マ……、秋野くん。今日も一緒に帰る?」


 僕から話しかけるなんて視線を感じるが、そう声をかけない訳にはいかなかった。


「自転車で来てないでしょ。一緒に帰らないと」


「あ、そっか」


「その前に、今日木曜日」


「木曜日?」


 木曜日だから何だと言うのだろう。マイの好きなドラマでもあるのだろうか。分かっていない僕に、マイは呆れ気味にはぁと息を吐いた。


「木曜日は応援部の活動日って、部活動紹介の時に言っていたよね。だから、見学に行きましょう」


「あ……」


 そうだった。僕がテニス部の先輩と対決していたから忘れていたけれど、マイは応援部に入りたいんだった。


「本当に行くの?」


「もちろん」


 仕方がない。今はマイの言う通りにしよう。仮入部期間は一か月。一か月経つ頃には、さすがに入れ替わりも解けて、マイの気まぐれも終わっているだろう。


 僕とマイは鞄を持って、応援部の活動がある第三資料室に向かった。第三資料室は実習棟の三階にあり、かなり遠かった。


 栗亜学園は部活棟があるのに、こんな校舎の隅っこにあてがわれているなんて。本当、どんな部活なんだ?


 そんな疑問を感じながら、マイが第三資料室のドアをノックする。すぐにハイ、どうぞと返事があった。


「失礼します。入部しに来ました」


 おいおい、いきなり入部しに来ましたかよ。応援部がどんな活動しているか、どんな先輩たちがいるのか、全く知らないのに。マイの言うことにちょっとビビる僕。


 第三資料室に入ると、そこはやはり資料室だった。壁には本が並び、丸まった地図や地球儀がある。どうやら地理の授業で使う資料が押し込められているようだ。狭い部屋の中央には長机とパイプ椅子が並んでいる。


 その中央にある椅子に女子生徒が座っていた。眼鏡に二つの三つ編み。部活動紹介で出てきた応援部の部長だ。


「入部、ですって?」


 彼女は眼鏡を光らせて、陣とマイを見つめてきた。特に僕を。


「あ、いや。とりあえずは見学に」


 僕は身を引きながら、口元をひくつかせた。


「早坂部長ですよね。入部に来ました」


「おいっ!」


 僕はひじでマイの脇腹を突く。


「あなた、鶴ノ原マイさんじゃない?」


「え」


 名前を呼ばれたのはマイだけど、見つめられたのは僕だ。


「首席で入学のテニス部の次期エース」


 さすがはマイ。三年生にも知られているらしい。


「まだ、テニス部に入部もしていないのに」


 ぼそりとマイがつぶやく。確かにテニス部の先輩とは試合をしたが、入ったわけじゃないのに、次期エースと言われているのには驚きだ。まぁ、それだけマイがテニス部に入部することは当然だと思われているということだ。僕もそう思う。


兼部けんぶも出来ないことはないけれど、うちはチアリーディングじゃないし、テニス部の部長は認めないんじゃない?」


「で、ですよねー。失礼しま……」


「いえ。兼部はしません。応援部だけに入部します」


 ドアから出て行こうとする僕をマイが肩を掴んで阻止する。そして、お前のせいでこうなったんだよなと言う顔でにらんできた。


「そ、そうですー」


 僕は背を向けていた早坂部長に向き直った。


「私たち応援部に入部します」


 無理やり笑顔を作って宣言する僕。横でマイが頷いている。


「……。」


 早坂部長は、しばらく僕らの顔を見つめていたけれどやがて口を開く。


「青春」


「え?」


「無駄にするよ」


 青春、無駄にするよ。


 早坂部長の言葉。じゃあ、部長は無駄にしているの? とは、とても言えなかった。


「無駄なんて」


 マイが口を開きかけたその時、後ろでノックの音がした。

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