第6話 クラスメイトたち


 僕らは1年3組の教室に一番乗りで入った。


「今日から授業か。しかも、一番前だし」


 考えただけで気が重い。僕は入り口から入ってすぐの自分の席に鞄を置く。苗字が秋野でア行の最初だから、出席番号ではどうしても一番になり、一番前の席になってしまうのだ。


「違うでしょ」


「何が?」


「陣の席はあっち」


 マイが後ろの方の席を指さす。


「あ! そっか、こっちがマイの席か。いやー、参ったな」


 僕はちょっとウキウキしながら、指さされた席に行く。先生が目の前の席じゃなくなって良かった。


 ……だけど、僕とマイの席、かなりはなれているな。いや、不安って訳じゃないけど。僕、上手くマイを演じることができるだろうか。


「マーイ! おはよう!」


「ひゃい!」


 後ろからいきなり抱き着かれた。だ、だれ? 


「今日は珍しくポニーテールなんだ? 運動している時以外にはしないよね」


 振り返るとショートカットで目がくりくりした女の子が小首をかしげて立っていた。


「えーと、おはよう」


 僕はマイの顔で何とか笑顔を作る。見覚えのある顔だけど、昨日初めて一緒のクラスになったばかりだから名前なんて覚えていない。マイのやつ、いつの間に名前で呼ばれるほど仲良くなったのか。


「二人ともおはよう。朝早いね」


 ぎこちない笑みを浮かべて対応に困っていると、僕の身体のマイが話しかけてきた。


「あ! 同じ中学の、えーと」


「秋野陣だよ。確か、鶴ノ原さんと同じ部活で仲良かった子だよね。名前は確か……」


谷遥歌たにはるか。よろしくね、秋野くん」


 二人の会話で基本的な情報が手に入った。ショートカットの彼女の名前は谷遥歌で、中学の時はマイと同じテニス部。その上、僕と一緒の中学だったらしい。全然知らなかった。


「今日、午後から部活動紹介があるでしょ。秋野くんはどの部活に入るとか決めている?」


「ああ、決めてないかな」


 おいおい、僕は適当な弱小文化部に入るって言っていたじゃないか。


「マイはもう決めているって。でもまさかテニス部に入らないなんてなぁ」


「えっ! テニス部に入らないの?!」


 マイ本人であるはずの僕は思わず声を上げた。


「あ……」


 僕は口を押える。谷さんは目を見開いているし、マイは顔をしかめていた。


「あはは、えーと、そう! テニス部に入らないで別のとこに入るって決めていたんだったね! まだ寝ぼけているのかも。てへ」


 自分の頭をこつんと叩いて見せる僕。それを見て谷さんは心配そうに僕の額に手を当ててくる。


「マイ? 今日なんかおかしい。熱でもあるの?」


「えーと、そうかも?」


 僕は曖昧あいまいに笑うしかない。そこにクラスのドアから声がした。


「おはよう! 一番乗りかと思ったけど、三人早いな!」


 犬歯を見せて爽やかに笑う男子生徒だ。スポーツバッグを斜め掛けにしている。たしか、僕の隣の席だった人だ。昨日、少しだけしゃべった。名前は、えーと……。


「おはよう、上城かみしろくん」


 マイが右手を軽く上げて挨拶した。なるほど、上城くんか。というか、マイのやつ、もしかしてもうクラスメイトの名前を覚えている?


「おっ、覚えていてくれたんだな。俺、北中出身の上城司かみしろつかさ。なぁ、三人、何を話していたんだ」


 上城くんは人懐っこい性格のようで、僕たちの輪に混ざってくる。


「えっとね。マイがテニス部に入らないって話をしていたの」


「え!? そうなの? 確かテニスで全国行ったんじゃ。もったいない」


 だよな。そう思うよな。僕は上城くんの意見に心の中で同意する。


「それで、どこに入るの?」


 自然な流れで質問された。谷さんも知らないらしく、視線が僕の顔に集中する。


「えーと」


 どうしよう。マイはどこに入るか決めていること公言しているんだよな。勝手に適当な部活を言っても後で怒られそうだし。とりあえず、秘密とだけ言っておこうか。


「ひみ……」


「鶴ノ原さんは僕と一緒に応援部に入るんだ。そう、約束していたんだ」


 マイは僕の肩に手を置きながら、笑って言う。


「「「応援部??」」」


 聞いたことのない部活に、マイ以外の三人がポカンとした。

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