第5話 二人で登校


「あー……。その、なんだ」


 僕たちは窓越しに再会した。もちろん僕は見なかったけれど、多少は触らないといけなかった。それを分かっているのだろう。僕の姿のマイは複雑な顔をしている。


 そんなマイがポツリと言う。


「学校、行かないと」


「うん」


「ご飯食べたら、家の前で会いましょう。お母さんに正体バレないようにね」

「おー」


 そうだ。これから中身が僕だということが知られないようにしないといけない。まさか、入れ替わっているとは思われないだろうけれど、頭がおかしくなったと思われるかもしれない。


「それじゃ、また後で」


 制服姿の僕は、階段を下りてダイニングに向かう。マイの部屋と同じで鶴ノ原家は白を基調とした家具で統一されている。テーブルには既にパンとサラダ、スクランブルエッグが並んでいる。


「おはよう、マイちゃん」


 これまた美人のマイのお母さんが、白いエプロン姿で出てきた。


「おはよう、お母さん」


 ふっふっふ。昔からのお隣さんだから、これぐらい序の口だ。僕は椅子に座って、朝ご飯を食べだす。余裕、余裕。と、そう思っていたんだけど、


「そういえば良かったわね、マイちゃん。陣ちゃんと同じクラスで」


「え」


 僕の話題がいきなり出てきた。マイのお母さんはこっちをニコニコしながら見ている。だけど、僕は返答に迷った。いつもの僕に対するマイなら、僕と一緒のクラスなんて最悪だと言うだろう。だけど、母親相手にそう言うだろうか。


 えーい、ままよ!


「うん! すっごく嬉しい!」


 満面の笑みで言ってみた。


「マイちゃん……」


 え、やっぱり不正解だった? マイのお母さんは驚いているようだ。だが、すぐに笑って言う。


「そうよね。ママもマイちゃんのこと応援してる」


 応援してる? なにを??


 よく分からないけれど、僕はおいしい朝食を食べ進めた。





「マイ」


 僕が玄関から外に出るとマイは既に自転車を壁に立てかけて、待っていた。目があった途端、目を細めるマイ。


「ちょっと、その髪で学校に行く気?」


「クシで一応といたけれど」


 そういえば鏡に映る僕はいつものマイとは違う感じだった。まぁ、多少髪が広がっていても、美人には変わりない。


「ポーチが鞄に入っているから」


 そう言ってマイは僕が持っていた通学バッグの中を探る。ポーチを取り出して、中にあったシュシュとクシで僕の髪を一つに結った。


「じゃあ、行きましょうか」


「うん」


 僕とマイは並んで自転車をこぎ始めた。もともと履き慣れないスカート。それで自転車こぐのなんかすごく不安だった。女子ってよく平気で漕げるな。


 途中、新緑の街路樹の大通りを通る。まだ通学には早い時間で、同じ制服で歩く学生はほとんどいない。


「なあ、マイ、入れ替わったのに落ち着いているな」


 ちょっと不自然なほどマイは冷静だと思う。マイは前を向いたまま言う。


「まぁ、これがどこの誰かも知らない人だったら大混乱でしょうけど、相手が陣だからね」


 おお、そんなに信頼してくれているのか。


「どうにでも指示出来るじゃない」


 ……なるほど、ぎょしやすいからか。


「ねぇ、どうして栗亜学園に行こうと思ったの?」


 逆にマイが僕に質問してくる。


「どうして? どうしてって、単純に家から近いし、なんとか行ける学力だったし、ちょうどいいところだなって」


 マイと違って僕に特別な理由はない。


「じゃあ、部活は運動部に入らないの?」


「……まあね。適当に楽な弱小文化部にでも入るつもり。マイは決めているんだろ?」


「そうだけど……」


 マイは続きを言わない。よく考えたらテニス部に入りたくても、身体が僕じゃ思いっきりプレイできないよな。僕は特別運動が出来ない訳でも、出来るわけでもない。


「仮入部が終わる五月までに入れ替わりが解けるといいな」


「今日解けてもらわないと困るわよ」


 それから僕らは無言で学校へと自転車をこいだ。


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