第4話 大事なこと


 僕の顔を真っ赤にさせたマイはぶつぶつと不満をらす。


「全く、こんな時に話題にすることじゃないでしょ。それよりも、家族やクラスの子に中身が入れ替わったことをバレないようにしないと」


「待って。待って」


 僕は鼻を押さえながら、マイに待ったをかける。僕は真剣に語り掛けた。


「これは大事なことだよ。だって……、いましてないんだから、着ないといけない。しないで学校に行ってもいいの?」


「……。」


 黙り込むマイ。僕は部屋をきょろきょろと見回した。


「それにブラジャーってどこにあるの? 着方は何となくなら分かるけど」


「え、陣。ブラジャーする気?」


「いや、その言い方だと、僕が変態みたいじゃないか」


 僕はマイのために言っているんだぞ。


「分かった。私が着せる。だから、陣は何も見ないで、触らないで」


 うん。もう触っちゃった。


 そう言えずにいるうちに、マイが窓をまたいで、こっちの部屋にやってきた。小学生の時はこうして互いの部屋を行き来していたんだよな。危ないからって止められていたけれど。


「じゃあ、ここに立って、いいって言うまで、ずっと目を閉じていて」


 部屋の中央を指して言うマイ。言われた通りに立って、目を閉じる。すると、前に来てボタンを外し始める気配がした。


 う。なんか布が擦れてくすぐったいな。それになんか変に緊張する。


 全部のボタンが外されて、ストンとパジャマの上を脱がされた。すると、上半身何も着ていないことになる。


「ちょ、ちょっと寒い」


 春とはいえまだ四月。朝の空気は冷たい。鳥肌が立つ。


「窓、閉めるから」


 カラカラと窓が閉められる音がした。そして、ガタガタと音がする。きっとタンスを開けているのだろう。僕の身体で開けているんだよな……。想像すると本当に変態っぽい。マイの身体は上半身裸だし。


「じゃあ、今からブラをするから、手を……」


「手をどうするの?」


「ちょっと待って、着せたことなんてないから、……えーと、前へならえをしてくれる?」


 僕は言われた通り前に向かって、腕を伸ばした。


 その腕に紐を通す感触がする。そして下から胸を包むようにして、ブラは装着された。


「これで、よし」


「おー、ブラって窮屈きゅうくつだな。夜は外している気持ちが分か、へぶっ!」


 僕はなぜか頬を引っ叩かれた。


「な、なんで叩くんだよ!」


「なんで目を開けているのよ。着替えが終わるまで目を閉じていて」


 マイは殺気のこもった目で僕を睨みつけた。……僕って、こんな怖い顔出来るんだー。背筋を振るわせて、僕は大人しく再び目を閉じる。


 ちぇっ。黄色いブラをちょっと見たぐらいで叩くなよ。自分の身体だろ。


 というか、ちょっと見ただけだけどマイのやつ美人で才色兼備で胸もあるって最強か。最強女子高生を体感してみるって言うのも面白そうだな。問題は入れ替わりがどれぐらい続くかっていうことなんだけれど。


 そうこう考えている内に、着替えが終わる。栗亜学園のブレザーの制服だ。まったく、嫌みなぐらい似合っているな。


「じゃあ、まずは家族にバレないように……」


「もう一つ大事なことがある」


 僕はほぼ同じぐらいの視線にあるマイの目を見る。


「なに?」


「トイレ、行きたいんだけど。ほら、冷えたし朝だからさ」


 僕がもじもじしながら言うのを聞いて、さっと顔を青くするマイ。


「……私も、行きたい」


 だよね!? 


「どうする?」


「どうするも、こうするも。こればっかりは……」


「絶対に見たり触ったりしないでね!」


 そう言って、マイは僕の部屋に戻っていった。僕の家のトイレに行くのだ。僕の場合は、絶対に見たり触ったりしないでとは言えない。じゃないと用を足せないからだ。


「くっ」


 すまん。僕の身体。僕もトイレに行くために、マイの部屋を急ぎ出た。

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