第621話 大詰めの攻防(前編)
ようやく第三砦の防衛態勢の目途が立ち、ゴブリンの巣穴までの道の設営にゴーサインが出た。
待っている間、俺は巣穴の入口を上空から眺めて出てきたゴブリンを狙撃し、その遺体に近付くゴブリンを狙って狙撃を繰り返していた。
一定数を倒し終えたら、その場で炭化するまで焼却する。
これを複数ある巣穴の出入口で繰り返して、ゴブリンの個体数を減らしたつもりなのだが、正直どの程度の効果があったかは分からない。
「それじゃあ、道を切り開く作業を始めます。暫くの間うるさくなりますが、悪しからず……」
我先にと巣穴に向かいたい冒険者たちに断りを入れてから、砲撃と粉砕の魔法陣を併用して、障害となる木や灌木を吹き飛ばす。
「ズダダダダダダ……ズドーン!」
凄まじい爆音と共に朦々と土煙が上がるが、巨大な風の魔法陣で巣穴の方向へと吹き飛ばす。
第三砦からゴブリンの巣穴までの間には、誰も立ち入らないように通達が出されているので、手加減無しで作業を進める。
たぶん、何頭かゴブリンも巻き込んでいるのだろうが、気にせずガンガン作業を進めた。
少しでも早く巣穴に辿り着きたい冒険者は、耳を押さえながら粉砕されて出来上がっていく道を進もうとする。
あんまり近付かれて、粉砕に巻き込みでもしたら大変なので、空属性魔法で柵を作っておく。
「その柵より前に出ないで下さい。柵を潜ったり乗り越えたりして近付くなら、粉々になっても責任持ちませんよ」
空属性魔法で作ったスピーカーを通して警告すると、渋々といった様子で冒険者たちは下がっていったが、また暫くすると別の一団が近付いてくる。
木も岩も粉々にしていく魔法をみても、近付こうとするのだから余程金に困っているのか、危険が大好きな連中なのだろう。
チャリオットのみんなは防衛要員として第三砦に残っているが、こんな連中がいると分かっていたら制止役を頼めば良かった。
作業自体は順調に進んでいるが、巣穴の方向から接近するゴブリンも倒しておきたいと思うのだが、なにしろ土埃が酷くて視界が全く効かない。
「まぁ、こんな砲撃と爆破の中を突っ切って来るようなゴブリンなんて居ないでしょ」
地上の様子は見えないので、巣穴がある丘陵地に近付いたところで、砲撃は止めて粉砕オンリーに切り替えた。
朝から手加減無しで作業を進めたので、昼過ぎには巣穴までの道を切り開けたのだが、粉砕して吹き飛ばした木や土砂で、巣穴の入口が埋まってしまっていた。
「うにゃぁ……これは予想外だったにゃぁ……」
土砂を除けるように横方向から粉砕の魔法陣を発動させたが、入口の形は分かるようになったが、ビッチリと土砂が詰まっていた。
「すみません、吹き飛ばした土砂で埋まってしまったようです」
「大丈夫だ、最前線の防塁を築くつもりだったし、出来上がるまでゴブリンを足止めしてもらった方が助かる!」
どうやら、第四砦と呼ぶほど大掛かりではないものの、巣穴の近くにも防塁を作るようだ。
巣穴近くまで辿り着いた冒険者達は、すぐさま作業に取り掛かった。
「巣穴の出入口は、ここ一ヶ所だけじゃないので、周囲への警戒は怠らないようにして下さい」
土属性の冒険者が中心となって作業を進めていたが、空が茜色に染まり始めると作業を中断して第三砦を目指して走り始めた。
今回、巣穴まで来た冒険者は三十人ほどで、巣穴への攻撃もせず、この人数だけで留まれば、ゴブリンが溢れ出て来た場合には対処できない。
そのため、夜は第三砦まで駆け戻るのだ。
俺も第三砦まで戻って、ギルドの職員に巣穴までの道が完成したと伝えた。
ギルドの職員は、すぐさま第三砦に居る冒険者に通達が出され、明日からの巣穴への攻撃に参加するかどうか各パーティーに対して意向の確認が行われた。
チャリオットは、明日も今日と同様に第三砦の防衛要員として駐留することになった。
「ライオス、俺は最前線の様子を見に行っていいかな?」
「それは構わないが、どうかしたのか?」
「うーん……なんか引っ掛かるんだよねぇ。巣穴のすぐ近くまで迫られているにしては、静かすぎるというか……」
「ニャンゴが間引いたから、ゴブリンどもも余力が残っていないんじゃないか?」
「かもしれないけど、余力を残していたらマズいよね」
「確かに、そうだな」
明日は、今日よりも人数を増やして巣の討伐に取り掛かる予定だが、最前線には砦のような立て籠もる場所が無いから、数で押し込まれると苦戦をまぬがれない。
メインの出入口と思われる洞窟は、俺が粉砕した土砂で埋まっているが、他にも巣に繋がっていると思われる洞窟がある。
そちらの動きを無視して、埋まった洞窟を掘り返していたら危険だろう。
「まぁ、何にしても明日になってからだ」
「そうだね」
明日の話は、明日になってから考えよう……なんて思っていたら、夜中に鍋を叩く音で起こされた。
「来やがったぞ! ゴブリンだ、応戦しろ!」
「アーチャーが居るぞ! 盾を忘れるな!」
冒険者たちの叫び声に混じって、ゴブリンの悲鳴や盾にぶつかる矢の音が響いてくる。
「ミリアム、俺達は上からだ」
「了解よ!」
ミリアムを連れて空属性魔法で作った繭状のシールドに乗り、第三砦の空に上がる。
ゴブリンどもが押し寄せて来る方向に、明かりの魔法陣を並べて発動させる。
「何あれっ! オーク?」
「いや、ゴブリンの上位個体じゃないかな」
押し寄せて来るゴブリンの群れの中に、明らかにサイズが大きな個体が混じっている。
通常のゴブリンの二倍以上、下手な冒険者よりも大きい。
「ミリアムは狙える奴を片っ端から倒して。俺はデカいのを狙い撃ちにする」
「了解!」
ゴブリンと直接対峙して戦った経験からか、ミリアムの魔法の精度がまた上がっているように見える。
砦から撃ち出される冒険者の魔法や矢を邪魔しないように、少し高度を上げて移動しているにも関わらず、ほぼ一撃でゴブリンに致命傷を与えている。
ゴブリンの動きを先読みして、確実に首筋の急所に風の刃を送り込んでいるようだ。
たぶんミリアムは、俺を除けば猫人最強の冒険者になりつつあるし、一般の駆け出し冒険者なら瞬殺するぐらいの腕前になってきている気がする。
「こっちばっかり見てないで、あんたの仕事しなさいよ」
「ははっ、その通りだね」
手下のゴブリンどもを追い立てるようにして進んで来る上位個体に狙いを定め、砲撃を食らわせる。
ドンっという発射音と同時に、魔法陣と火線で結ばれた上位個体の上半身が消失し、その後ろにいたゴブリン数頭も吹っ飛んだ。
すぐさま次の上位個体に狙いを定め、砲撃を加えていく。
「まったく……チマチマ倒してるのが馬鹿らしくなるような威力よね」
「そう言う、ミリアムの魔法だって捨てたもんじゃないと思うよ」
「あんたに言われても、慰めにしか聞こえないわ。まぁ、文句言わずにやるけどね……」
繭状のシールドの中では魔力回復の魔法陣を発動させているので、ミリアムはいくら魔法を撃っても魔力切れにならない状態だ。
まぁ、魔法を連発している状態でいきなり魔法陣を消すと魔力切れの反動が大きいのだが、魔法を撃つのを止めて少ししてから切れば大丈夫だ。
ゴブリンどもに最初は押し込まれそうになったが、俺が明かりを灯して冒険者たちの攻撃精度が上がると、一定ラインを越えて近付けなくなった。
それに加えて俺が上位個体を狙い撃ちにしたので、一時間ほどでゴブリンどもは退却を始めた。
戦闘終了後、若手の冒険者が中心となって倒したゴブリンからの魔石の取り出し作業が始められたが、俺は明かりの魔法陣を維持するだけで参加しなかった。
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