第619話 手間取る理由
ケンテリアス騎士団の認識票を回収した後、一旦第二砦まで戻った。
第二砦から第三砦の救援に向かう間に、結構な数のゴブリンを討伐したと思ったのが、それでも相当数のゴブリンが押し寄せて来たらしい。
「ライオス、うちのみんなは怪我なんてしてないよね?」
「それは大丈夫だ。かなりの数のゴブリンが襲ってきたが、第二砦にいる冒険者の数も増えているから危ない場面は無かったな」
ギルドの方針で、ゴブリンの巣の討伐はなかなか進んでいないが、冒険者の犠牲も殆ど出ていないらしい。
砦を築き、安全地帯を確保した上で先に進む方法が、今のところは上手くいっているようだ。
「ニャンゴ、第三砦はどうだったんだ?」
「冒険者は大丈夫だったけど、騎士団は全滅みたい」
「騎士団が全滅だと?」
回収してきた認識票を見せると、ライオスだけでなくセルージョも驚いていた。
「奴ら、装備だけはしっかりしてたのに、なんで全滅したんだ?」
「それが、騎士団だけ巣を目指して先に進んでいたみたい」
ケンテリアス騎士団が全滅した経緯を話すと、冒険者との揉め事を期待していたレイラやシューレも呆れ顔だった。
「期待はずれもいいところね」
「ホント、役立たず……」
「とりあえず、俺はギルドの職員にこれを預けてくるよ」
ギルドの職員に回収してきた認識票を預け、回収した経緯を説明しておいた。
「確か、騎士団は早期に巣を討伐するために助力しろって命令を受けてたんですよね?」
「隊長からは、そのように聞いていましたが、第三砦からは手伝うどころか邪魔になっているという報告しか来なくて、私どもも困惑していたのです」
第三砦にいた冒険者の全員が、口を揃えて騎士団は役立たずだと話していたので、報告に間違いはないのだろう。
「それで、ギルドとしては、この後どうする予定ですか?」
「第三砦を現在の第二砦レベルまで充実させてから巣を討伐する予定でしたが、氾濫の規模が大きくなってきているので、前倒しで巣の討伐を進める予定です」
規模が大きくなっていることから、クィーン以外にも繁殖可能なメスのゴブリンが増えている可能性が高くなっているようだ。
いずれにしても、討伐を急ぐ必要がありそうだ。
「第三砦から巣の入口まで、道を切り開きましょうか?」
「非常に有難いお申し出ですが、少し待っていただけますか?」
「何で、ですか?」
「道が開けてしまうと、ゴブリンも一気に襲って来られるようになります。第三砦の防衛態勢が整う前に、今日のような襲撃が繰り返されると、詰めている冒険者が疲弊してしまいます」
ギルドとしては、明日にでも第三砦に人員、資材、補給物資を届け、明後日には巣に向かう態勢を整えたいらしい。
「持ち込む物資は準備出来ているんですか?」
「はい、明日の朝には出発できます」
第二砦には森の外から、第三砦で使用する資材や食料などの補給物資が届いていた。
運搬に使う大型馬車は全部で十二台もあって、その馬車を護衛して第三砦に行く冒険者の半数以上は、そのまま巣の討伐に向かう要員らしい。
「明日の午後には第三砦に到着出来るでしょうが、砦の強化が間に合いません」
「それでは、明後日まで砦の強化に専念して、巣に向かうのは三日後ぐらいからですか?」
「今は、その予定でいます」
「それじゃあ俺は、明後日の午後ぐらいから道を切り開く作業をする感じで良いですね」
「はい、よろしくお願いいたします」
ライオス達の所に戻り、ギルドの予定を伝えると、明日、馬車の護衛をしながら第三砦へ向かうことになった。
第三砦からゴブリンの巣までは、歩いて半日ほどの距離しかない。
第三砦を朝出発したら、午後から巣の討伐作業が出来る。
勿論、ゴブリンどもの妨害が無ければの話だ。
「ライオス、僕らも巣の討伐に参加するの?」
「そいつは状況次第だな」
巣の討伐が始まれば、クイーンを倒し、魔石を手に入れるための小競り合いが予想されている。
そこに巻き込まれるつもりは無い。
「じゃあ、行っても巣の入口まで?」
「そうなるな、巣の内部は汚いらしいしな」
汚いというなら、森の中もかなり酷い状況だ。
俺が砲撃や粉砕の魔法陣で吹き飛ばしたゴブリンの死体はそのままだ。
第二砦の周囲も、冒険者たちが討伐したゴブリンの死体が放置されたままだ。
誰が倒したか分からない場合、魔石を取り出した者が死体を処理しなければならないのだが、今はみんな疲れていて作業に取り掛かれていない。
ゴブリンどもは、倒された仲間を共食いし、栄養として活用する。
それをさせないための死体処理は、冒険者にとって重荷になっているのは事実だ。
たぶん俺は誰よりも多くのゴブリンを討伐しているが、誰よりも多くの死体を放置している。
状況が状況だったので、仕方なかったとはいえ、これから先は少し倒した後も考えて討伐した方が良さそうだ。
ギルドの職員との打ち合わせを終えて、チャリオットのみんなの所に戻ろうとしたら、熊人の冒険者が声を掛けてきた。
「エルメール卿、さっきは危ない所を助けてもらって、ありがとうございました」
熊人の冒険者だけでなく、パーティーのメンバーも一斉に頭を下げた。
「いえいえ、冒険者同士助け合うのは当り前です」
「それでも、エルメール卿の援護が無ければゴブリンの群れに飲み込まれ、食い殺されていたでしょう」
ゴブリンの群れに飲み込まれる恐ろしさは、単純に殺されるだけではなく、食われることにある。
ケンテリアス騎士団の隊長のように、生きたまま、意識を保ったまま食われることが恐ろしいのだ。
「三日後には、本格的に巣の討伐に着手するそうです。ゴブリンどもを根絶やしにしてやりましょう」
「我々も微力でしょうがお手伝いしますよ」
「ええ、ガッチリ稼ぎましょう」
稼ぎという言葉を使うと、熊人と仲間たちの表情が明るくなった。
冒険者たるもの、ゴブリンは恐怖の対象ではなく、稼ぐための獲物であるべきだ。
握手を交わした熊人の冒険者たちは、これから砦の周囲に放置されているゴブリンの魔石を取り出しに行くそうだ。
俺がギルドの職員と打ち合わせをしている間に、他の冒険者たちも続々と砦の外へ出て、魔石目当てにゴブリンの死体処理を始めていた。
チャリオットも参加すると思っていたが、ライオスは首を横に振った。
「俺達はガツガツ稼ぐ必要はないし、ここは譲った方が風当たりが強くならないで済むだろう」
「ていうか、セルージョは最初からやる気無かったでしょ?」
「当り前だ、走り通しで戻って、更に砦の防衛も手伝ったんだぞ、ちっとは休ませろ」
ミリアムは、むしろ行きたそうな顔をしていたが、シューレから休んで良いと言われて表情を緩めた。
そうそう、砦に戻ったら、あまりシャーシャー言わないようにね。
「ライオス、こんだけ規模が大きくなると、ゴブリンの巣の討伐も手間がかかるんだね」
ゴブリンの巣の討伐というと、アツーカ村でゼオルさんや村のおっさん連中と一緒にやったのを思い出す。
入り口から煙で燻して、飛び出して来た所を討伐……何て方法も、数が少なく、洞窟も浅いから出来たのだ。
「まぁな。ニャンゴに巣への攻撃を許可すれば早いんだろうが、多くの冒険者が潤うように配慮しながら進めているから、これだけ手間取っているんだろうな」
ゴブリンの数が膨大で、巣の規模も大きく、更に冒険者へ広く利益を分配する……なんて考えたら、討伐がなかなか終わらないのも当然なのだろう。
そうした事情は理解できるが、そろそろ野営での生活にも飽きてきてしまった。
第三砦から巣までの道を切り開くから、さっさと討伐を終えてもらいたい。
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