第610話 道を拓く
森の中の第二砦は何とか確保できそうだが、そこから先が上手くいかない。
第二砦を出て巣のある方角に向かって進むと、ゴブリンどもに行く手を阻まれるのだ。
いくら腕の立つ冒険者であっても、昨夜の襲撃のように、圧倒的な数のゴブリンに取り囲まれてしまったら、無事に逃げ延びることすら難しくなる。
当然、先に進もうとする冒険者たちは、探知魔法を使って周囲の状況を確認する。
その探知魔法に、うじゃうじゃとゴブリンどもの反応が現れるらしい。
反応の数と自分達の数を見比べて、勝ち目が無いと判断すれば、撤退するのも止むを得ないだろう。
ゴブリンどもの動きも、これまでとは変化してきている。
第二砦に到着するまでに遭遇したゴブリンは、ニ十頭程度の数で襲い掛かって来たのだが、こちらのゴブリンは遠巻きに見ているだけで襲い掛かって来ないのだ。
襲ってこないなら、相手にせず進んでいまえば良いと思われるかもしれないが、それも遭遇する数によりけりだ。
五十頭を超えるような群れが、二つ三つと現れれば、襲って来ないとしても無視はできない。
先に調査に入った冒険者パーティーが戻って来ないのは、こんな感じで囲まれて、数の力に屈したのだろう。
昨夜の時点で、第二砦には百人以上の冒険者がいた。
それでも昨夜は危ういと感じる場面があったし、いくつかのパーティーが一緒に先を目指しても進みきれずに戻って来るのだから、単独パーティーでは太刀打ちできないだろう。
結局、その日は第三の砦を築く場所の確保は諦めて、第二砦で今後の作戦について話し合いが持たれた。
「とにかく数だ、奴らの数を減らさないことには先には進めねぇぞ」
「数を減らすっていっても、奴ら向かって来ないんだぞ」
「そうだ、追えば逃げるし、深追いすれば囲まれる、どうしろってんだ!」
ゴブリンを討伐して荒稼ぎしようと考えていた冒険者たちは、思うように進まない討伐に苛立っていた。
険悪な空気の中で、馬人の冒険者が提案した。
「広い道を作ったらどうだ?」
「はぁ? 道なんて作ってたら、何時まで経っても巣まで辿り着けねぇぞ」
「いや、そんなに綺麗な道を作れって話じゃなくて、足場が良くて視界が通る道があれば、先に進むのが楽になるんじゃないか。どの道、今のままでは先に進めそうもないぞ」
馬人の冒険者が主張しているのは、数の力で襲い掛かってくる相手に対して、少しでも自分達に有利な環境を整えようということだった。
実際、森の中では下草が生えていたり、木の根が盛り上がっていたりして、冒険者たちの動きを阻害している。
「足場の良い道が出来上がれば、こちらは優位に戦闘を進められる。それに、囲まれそうになった時も楽に逃げられるようになるぞ」
確かに足場の良い場所での戦闘は楽だ。
俺の場合、空属性魔法で足場を作って移動できるが、普通の冒険者にとって足場の確保は重要だ。
その後、話し合いを重ねて道を作るアイデアが実行されることになったが、問題はどうやって道を作るかだ。
こちらが道を切り開こうとすれば、ゴブリンどもも黙っているとは思えない。
戦闘をしながら道を作るのは難しいと思っていると、話し合いに参加している冒険者たちが俺に向かって視線を向けて来るのが分かった。
おおかた、俺が昨日使った魔法で、森を焼いてしまえ……とでも思っているのだろう。
「いいよ、俺が道を切り開くよ」
第二砦にはギルドの職員も来ているので、道を切り開く作業はチャリオットの功績として認められ、報酬も支払われるそうだ。
ただ働きだったら断ってやろうかと思ったが、報酬が出るなら話は別だ。
「ニャンゴ、また燃やすの?」
「いや、今回は粉砕の魔法陣で吹き飛ばしてやろうと思ってる」
昨夜はゴブリンを効率良く殺そうなんて考えたせいで大規模森林火災になりかけた。
今度はゴブリンじゃなく森を切り開く作業なので、粉砕の魔法陣を使って吹き飛ばすことにしたのだ。
「それじゃあ、耳を塞いでおかないと駄目ね」
「レイラ、他の冒険者に言っておいた方が良いかな?」
「うーん……近くに居ないなら大丈夫じゃない」
レイラが良い笑顔で答えたので、一応ギルドの職員にみんなに伝えて欲しいと言っておいた。
日が落ちると、またゴブリンどもが砦に近付いて来たが、火属性の冒険者と水属性の冒険者がコンビを組んで、大きな火球を使うと逃げて行ったらしい。
昨晩の俺の魔法がトラウマになっているのか、それとも消耗が大きいと思われたのか分からないが、とりあえず睡眠を邪魔されずに済んだ。
そして、夜明けと同時に道を切り開く作業を開始した。
「じゃあ、カウントダウンを始めるよ。十、九、八……三、二、一、粉砕!」
筒状のシールドで方向を限定した特大サイズの粉砕の魔法陣を三つ並べて森を吹き飛ばす。
ズドーンという爆発音に驚いて、森から一斉に鳥が飛び立って行った。
小動物たちもパニックになって走り回っているようだ。
そして森はといえば、三十メートル程の幅で二十メートルほど土が剥き出しになり、その先も爆風で木が薙ぎ倒されている。
「うぉぉぉ、えげつねぇ威力だな」
セルージョに言われるまでもなく、自分でもそう思う。
シールドで方向を限定しているが、やはり爆風の影響は先にいくほど幅が広がっている。
まぁ、広大な森からすれば、ごく一部だと思って作業を進めよう。
大きな障害物が残っている所から、同じ要領で粉砕の魔法陣を発動させる。
「近くにいたゴブリンも驚いて逃げていったわ」
周辺の索敵を行っていたシューレによれば、一発目では動かなかったそうだが、二発目の発動の直後に逃げ出したそうだ。
これだけの音と爆風は、自然界では火山の爆発ぐらいだろうし、ゴブリンも驚いたのだろう。
作業の邪魔をされると面倒だと思っていたので、逃げてくれたのは有難い。
おかげで、暫くの間は順調に作業を進められた。
異変が起きたのは、作業を開始してから二時間ほど経った頃だった。
「左右から回り込むようにして近付いて来る!」
爆風を避けるようにして、左右前方からゴブリンどもが近付いて来た。
俺らの後方で、作業の進展を見守っていた冒険者たちが、一斉に戦闘態勢に入った。
見物だけで飽き飽きしていたのか、我先にと森の中へと分け入っていく。
「ライオス、俺達はどうするの?」
「近くに来たら迎撃するが、基本的に作業優先だ」
「分かった。シューレ、味方を巻き込まないように探知していて」
「いいわよ。前にはゴブリンもいないわ」
それならば粉砕の魔法陣を発動させようと思った時、木立の向こうから弓弦の音が聞こえてきた。
「シールド!」
咄嗟に張ったシールドに矢が当たる音が連続した。
「ちっ、アーチャーかよ……」
自分のお株を奪われたようなゴブリンの攻撃に、セルージョは舌打ちしながら矢を番えて弓を引きかけて止まった。
「ニャンゴ、こいつは内側からも攻撃できないのか?」
「うん、物理も魔法も通さないから無理!」
咄嗟に張ったシールドでゴブリンの矢は防げたが、セルージョたちも攻撃が出来なくなってしまった。
「ニャンゴ、ここだと敵から丸見えだ。森に近付けるか?」
「みんな、ライオスの近くに集まって!」
爆風で木が薙ぎ倒され、俺達の周囲からは隠れる場所が無くなっている。
ライオスを中心としてみんなが集まったところで、範囲を狭めてシールドを作り直し、木立の影まで移動した。
木立の向こうからは、時折冒険者の悲鳴が聞こえて来る。
「ニャンゴ、上を開けて。これだと探知が出来ない」
「ちょっと待って、これでどう?」
「いいわ」
俺も探知ビットをばら撒いて様子を探ったのだが、どうも冒険者が劣勢のようだ。
シューレが鋭い口調でライオスに話し掛けた。
「ライオス、このままだと後に回り込まれるわ」
「仕方ない、一旦後退しよう」
ここまで順調だったが、態勢の立て直しを余儀なくされてしまった。
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