第392話 気になる場所
携帯ショップの調査を行っている間に、次に調査を行う場所をライオス達に探してもらうことにした。
俺が探すのではなくライオス達に任せるのは、その方が手っ取り早く換金できる品物を探し出してきそうだからだ。
家電品などのアーティファクトとして価値のある品物は、俺の前世の知識を利用した方が探しやすいだろうが、換金しやすい品物についてはライオス達の方が良く知っている。
餅は餅屋ではないが、それぞれの得意分野で力を発揮した方が効率が良いはずだ。
店を探すのに役だったのが、建物の内部を描いたフロアガイドだ。
埃は被っていたけれど、金属パネルにプリントされているらしく、消えずに残っている。
モルガーナ准教授率いる調査隊も、このフロアガイドを写し取り、建物の全貌把握に役立てるようだ。
ライオス達が探した店を調査している間、今度は俺が次の調査を行う場所を探しに出る。
気になっているのは建物の二階北側で、フロアガイドを見ると五つの区画が三階までの吹き抜けスペースになっているようなのだ。
前乗り調査には、レイラも同行する。
「ニャンゴは夢中になると周りが見えなくなっちゃうから、私がついてないとね」
「うん、否定できないところが情けない……」
とは言っても、俺の場合は空属性魔法で明かりの魔法陣を好きな場所に作れるので、暗がりから急に襲われる……といった心配は無い。
進んでいく通路の先に明かりを灯していくし、探知ビットもバラ撒いてあるから大丈夫なはずだ。
ただ、明かりを灯すと何かが逃げていく気配があるので、完全に気を抜くことはできない。
止まったままのエスカレーターを上って二階に上がり、そのまま廊下を進むと広いホールに出た。
ホールには並べられていたであろう椅子やテーブルが散乱していた。
「フードコートなのかな?」
ホールの北側が謎の吹き抜けエリア、南側にも店が並んでいるのだが、見た感じファストフードのショップのようだ。
「ニャンゴ、こっちは見なくてもいいの?」
「うん、北側の方が気になる」
ホールに面した北側の中央には大きなカウンターがあり、液晶パネルを使った操作盤が何台もならんでいる。
その正面奥の壁面には、大きな看板が液晶モニターが五つ並んでいた。
カウンターの脇には、飲み物のディスペンサーらしき物や食品を扱う機械らしきものがあった。
カウンターの反対側は、駅の自動改札を思わせるゲートになっている。
ゲートを乗り越えて進むと、両開きの扉があった。
先に内部に探知ビットを撒いて内部の様子を探ってみた。
「あっ、そうか……シネコンか」
「シネコン? 何それ?」
向こう側にシールドを立ててから扉を開き、明かりの魔道具で内部を照らすと、階段状に据え付けられた座席が見えた。
シートの表面はボロボロになり、内部のスプリングなどが剥き出しになっているが、間違いなく観覧用の座席だ。
座席が向いている方向には、舞台があるけど奥行きが狭い。
壁面には、ボロボロになった灰色の布が垂れ下がっていた。
「劇場なの?」
「映画館だと思う」
「エイガカン?」
まだ、こちらの世界には映像を記録する術がない。フィルム式のカメラすら存在していないのだから映画という言葉自体が存在していないのだ。
「アーティファクトで撮影した動いている絵を見せたよね」
「うん、絵が動く自体驚きだけど、鮮明だし声まで記録されてたよね」
「あの絵を、映写機という機械を使って、こっちの壁一面に写してみんなで楽しむための劇場だと思う」
「それって、面白いの?」
「面白いよ、お芝居の場合は舞台に大道具を並べて、明かりを調整したり、小道具などの演出使って本物っぽく見せてるけど、映画の場合はその場所に行って記録できるし、夜に撮ったものと昼に撮ったものを繋ぎ合わせたり、芝居よりも表現の幅が広いんだ」
「へぇ……一度見てみたいわね」
「たぶん、映写機は壊れてしまっていると思うけど、家庭用のプロジェクターはあるかもしれないな……」
剥き出しのままで時間が経過してしまった物は、各部の劣化が進んで壊れてしまっている。
この映画館の映写機も、おそらく全滅だろう。
「ちょっと映写室を確かめてみよう」
「いいわよ」
職員用の通路を見つけて、三階にある映写室へと向かった。
映写室の扉は閉まっていたので、内部には荒らされたような痕跡は残っていなかった。
ただし、月日の経過によって起こる劣化からは逃れられなかったらしい。
色々な物の残骸が、床に落ちて風化している。
映写機は、フィルム式ではなくてデジタル式だ。
何本ものケーブルが繋がれていて、近くには操作盤があった。
「この映写機から強い光を出して、向こうの壁に設置した白いスクリーンに投影するんだ」
「この機械を修理すれば、見られるのかしら?」
「いや、これを修理してもデータが無いから無理じゃないかなぁ……」
というか、現在の技術では修理自体が不可能だろう。
家電量販店みたいなものがあって、ホームプロジェクター、メディア、再生機などが揃えられればミニシアターぐらいは作れるかもしれない。
この時代の映画やドキュメンタリーが見つかれば、当時の生活様式なども垣間見れるだろうし言葉が聞ける。
ただ言葉を聞いただけでは意味を把握するのは難しいが、映像と一緒ならば解読できる可能性はある。
前世の頃、字幕無しの海外映画を何度か見たが、細かいセリフは理解できなくても表情や情景で、大まかなストーリーは理解できる。
幼児用のアニメとか教育番組とかなら、更に理解しやすいだろう。
「そのためには、メディアを探さないといけないんだろうけど……ここには無いよな」
「メディアって何?」
「撮った映像を記録しておく媒体のこと。たとえば、文字を書いた紙があれば意味が伝わるよね」
「なるほど、絵とか音とかを残しておくものね」
「そうそう、ただ、それも放置されていたら劣化しちゃってると思うから、新品が残っているかどうか、それを再生する機械が残っているかどうか……だね」
「それじゃあ、それが残っていそうな場所を探しましょう」
「うん、でも、ここはここで調査してもらう意味があるし、僕らに配置を調べる必要はあるけど、重要なアーティファクトは少ないから時間は掛からないと思うんだ」
「なるほど、さっさと終わらせて、またお金を稼げる場所を調査してもらうって魂胆ね」
これだけ大きなショッピングモールだから、家電品やパソコンの類を扱う店は必ずあるはずだ。
そうした店では大きな発見が期待できる反面、調査にも多くの時間が必要になる。
なので、時間の掛かる調査をする前に、資金確保のための調査もやってもらおうという狙いだ。
「この建物の調査が全部終われば、たぶん私達は一生遊んで暮らせるぐらいのお金を手にできると思うわ。ただし、それは調査が終わって、査定が確定して、払い込まれないと私達の手元には来ないわ」
「だよね……来る途中で鮫退治とか、船幽霊退治で稼いで来たけど、旧王都に着いてからはレッサードラゴンの素材を売ったお金しか稼いでないもんね」
今すぐチャリオットの資金が底を突く心配はないけれど、収入と支出のバランスはとっておく必要がある。
「でもまぁ、大丈夫じゃない? アンティークの食器は高値で取り引きされるし、今回は未使用品が沢山あったからね」
「そうだね、あの店だけでも結構な稼ぎになると思う」
今、ライオス達が立ち会って調査が進められているのは食器屋だ。
ダンジョンで発見されたアンティークの食器は、貴族の中にも愛好家が多く、良い値段がつくらしいが、これまで発見された物の多くは使用されていた品物だ。
それに対して、今回の発見はショップで売られている新品ばかりだから、当然値段も上がるはずだ。
ただし、ショッピングモールの一階にある店舗だったし、ざっと見た感じでは日常的に使われる低価格帯の商品が殆どのように見えた。
「どのぐらいの値段になるかなぁ」
「そうね、セルージョの奮闘しだいでしょうけど、黒オークを大きな群れで討伐したぐらいの値段にはなるんじゃない?」
黒オーク一頭で大金貨五枚程度、前世日本の金銭感覚だと五百万程度の値段だ。
五頭の群れなら二千五百万、十頭で五千万、二十頭倒したと考えるなら一億円だ。
「早く査定が出ないかなぁ……」
「査定が出たら、これまで以上に冒険者達が殺到してくるわよ」
「あぁ、揉めないと良いなぁ……」
お金が絡むと目の色が変わる冒険者は少なくない。
職人や店で雇われている人に比べると経済的に不安定だから、稼げる時に稼いでおきたいという心理が働く。
ましてやここはダンジョンだから、一攫千金に目を曇らせた連中が集まっている。
チャリオットが儲けを独占みたいな状況が続けば、他のパーティーが騒がしくなる可能性が高い。
他のパーティーも稼げるように、何らかの対策をしてもらえないかモッゾに相談してみよう。
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