第393話 地図アプリ

 モルガーナ准教授たちの調査の合間に、時間が許す限りスマホをいじり倒している。

 久々に文明の利器に触れるのが単純に楽しいのもあるが、この時代の情報を少しでも手に入れたいからだ。


 一番知りたいのは、この遺跡があった辺りの地図情報なのだが、位置情報が使えないためか、地図アプリを開くと世界地図の初期画面に飛ばされてしまう。

 そこから地図を拡大してみるのだが、どんな地形だったのかが分からないから探しようがない。


 基本アプリを使って検索をかけてみようと思い、案内板に書かれていた施設名と思われる文字列を苦労して打ち込んでも、エラーらしき表示が出るだけだ。

 文字列が合っていないというよりも、ネットに繋がっていないというエラー表示のようだ。


 何か別の方法は無いかと前世の頃に使っていたスマホの記憶を懸命に思い出してみるが、だいぶ記憶が朧げになってしまっている。

 思えば、もう十五年以上前の話だから、忘れかけているのも当然だろう。


 それでも基本的なセットアップを失敗せずに終わらせられたのは、前世の頃にも面倒な思いをしたからかもしれない。


「内部データには詳細地図が入ってるみたいだけど、どうやって調べれば良いんだ?」


 地図アプリで表示される世界地図を拡大してみると、かなり詳細な地図データが入っているようなのだが、いかんせん検索機能の使い方が良く分からない。

 検索ワードを入力する場所が分からないのだ。


 セットアップのインターフェイスは優秀だと思ったのだが、この地図アプリの検索機能は今いちな気がする。

 とりあえず、検索に必要そうな文字列は書き留めておこうと思ったのだが、折角カメラ機能が使えるのだから写真で残しておこうと思った時だった。


「にゃにゃ? 文字認識?」


 施設名と思われる文字列を大写しにしたら、青色の枠で文字が囲まれた。

 タップすると、今度は選択ウインドが表示されて、アイコンが三つ表示された。


 一番上のアイコンをタップすると、基本アプリが起動して、またエラー画面が表示された。

 アプリを閉じて、もう一度カメラモードで文字を認識してタップ、今度は二番目に表示されたアイコンをタップすると地図アプリが起動した。


「よしっ、来た――っ!」


 地図上にマーカーが表示され、拡大していくと人工島近くの街並みが表示された。

 表示されている文字列は読めないけれど、少なくとも建物の大きさは判別できる。


「凄いな、これだけ詳細な地図データが内蔵されてるのか、ネットに繋がなくても衛星さえ捉えたらナビ機能が使えてたのかな」


 どうやら、この地図アプリはタイプ入力ではなく、音声または文字認識による入力に限定されているアプリのようだ。

 遺跡の場所をマーカーが示している状態で地図を縮小してみると、ダンジョンのある場所から北西の方向に大きな湾が広がっていて、その奥に大きな都市が表示される。


 ダンジョンのある場所は、大都市のベッドタウンかリゾートタウンのようだ。

 大都市に行けば、もっと色々な物が発見されるような気がするが、大都市があった場所は現在は火山地帯となっている。


 どんな地殻変動があったのか分からないが、今も大都市の遺跡が残っているとは考えにくい。

 どこまで遺跡として都市が残っているのか分からないが、とりあえず、この一帯の調査を終えることが急務だろう。


 携帯ショップ、食器屋、シネコンと調査が続き、その後は、アクセサリーショップの調査となった。

 ただ、店の造りや残されていた商品などから、カジュアルな製品を扱う店で、余り高級な品物は置いてないように見える。


 調査に立ち会っているライオスを手招きして、地図の情報を伝えた。


「でかした、ニャンゴ。これで、次に掘る建物の狙いを付けやすくなる」

「この地図を見ると、北隣りの建物もかなり大きく見えるから、ここも確保したらどうかな?」

「そうだな、俺達で確保できるなら手に入れて置きたいな」

「ここの建物の案内図を見ると、北西の角にも入口があるんだよ。そこから掘り進めば楽じゃない?」


 今いる建物は、北西、南西、南東の角の他に、西側に一ヶ所、南側に二ヶ所の出入口がある。

 建物の内部を通って北西の出入口からならば、僅かな距離を掘るだけで隣りの建物に辿り着ける。


「確かに、それなら掘り進める距離を大幅に短縮できるな。ガドとフォークスの手が空いたら、進めるように言っておこう」

「でも、今から進めちゃ不味いんじゃない? 他のパーティーは、まだ発掘は止められてるし」

「そうか、確かにそうだな。建物の中を通り抜けられる優位性を考えたら、焦って進めて反感を買う必要は無いな。よし、発掘が解禁されるまでは、作戦を立てるに留めておこう」


 他のパーティーは、ダンジョンからこちら側へ渡る通路が拡張されるまでは、独自の発掘は禁じられている。

 これだけ規模の大きな建物を掘り当てただけでも妬まれそうなのに、禁止期間中に別の建物を掘り当てたら更に反感を買いそうだ。


 よーいドンで始めても、こちらが圧倒的に有利なのだから、焦って余計な反感を買うべきではないだろう。


「それで、ライオス。この地図の情報は公開すべきかな? それとも秘密にしておくべき?」


 地図の情報といっても、建物の大小程度しか分からないが、それでも大きな建物を選んだ方がお宝に遭遇する確率は高いと思われる。

 これから発掘に参加するパーティーにとっては、喉から手が出るぐらいに欲しい情報だろう。


「そうだな……今は秘密にしておこう。公開するなら、他のパーティーの発掘がある程度進んだ時点で、伝えるのは冒険者ギルドだけだ」


 ダンジョンに関する有益な情報には、ギルドから報奨金が出される。

 対岸の街の存在を伝えた時にも、ギルドからは多額の報奨金が出た。


 この街の地図情報をギルドに伝えれば、また報奨金が出るだろう。

 情報をギルドから公開すれば、公平性も保たれる。


 イブーロにいた頃ならば、仲の良いボードメンのリーダー、ジルとかトラッカーの三人とかに情報を流したかもしれないが、旧王都には懇意にしているパーティーはいない。

 それならば、ギルドに報告して公平に公開してもらった方が良いだろう。


「ニャンゴ、三階までは目ぼしい店は無かったから、そろそろ上を見てきたらどうだ?」

「その前に、東側に車留めがあって、そこに魔導二輪車の残骸があるから、そっちを回収してもらおうと思ってるんだ」

「魔導二輪車か、車輪が二つでまともに走るのか?」

「馬よりも早く、軽快に、しかも長距離を連続で走れると思うよ」

「ほぅ、それは面白そうだな。早く持ち帰ってもらって再現してもらいたいな」


 まぁ、俺の場合は既に自前のオフロードバイクがあるから、再現されるのを待つ必要は無いんだけどね。

 魔導二輪車が実用化されれば、都市間の郵便物の運搬などが、これまでよりも早く届けられるようになるんじゃないかな。


 次は、魔導二輪車を確認してもらうと伝えると、モルガーナたちの作業速度が一気に上がり、アクセサリーショップの調査は凄い勢いで終了した。

 一旦、建物南西の出入口まで戻って休憩をした後、アクセサリーショップから発掘品を運び出すチームと魔導二輪車を確認するチームに別れた。


 休憩が終わる前から走り出しそうにソワソワしていたモルガーナは、早く案内してくれと迫ってきたが、気を抜くつもりはない。

 空属性魔法で作った明かりの魔法陣を先行させながら通路を歩いていくと、暗闇の中からザワザワとした気配を感じる。


 ネズミなのか、ヨロイムカデなのか分からないが、何かがいる事だけは確かだから気は抜けない。


「モルガーナ准教授、飛び出していかないで下さいよ。襲われたら、調査から強制的に外されちゃいますよ」

「えっ! それは困ります。ちゃんとエルメール卿の後からついていきますからご安心ください」


 なんて言ってたのに、魔導二輪車の残骸を見つけた途端走り出していた。


「シールド!」

「うきゃん!」


 モルガーナ准教授は、空属性魔法のシールドに顔面から突っ込んで尻もちをついたが、嫌がらせをした訳ではない。

 物陰から飛び出してきたヨロイムカデに噛み付かれないようにシールドを展開したのだ。


「雷!」


 バチンっと大きな音と火花を散らして、雷の魔法陣に触れたヨロイムカデは動かなくなった。


「残念、食用にするには育ち過ぎか……てか、モルガーナ准教授、マジで強制送還されたいんですか!」

「すみませんでした!」

「まったく、安全第一でお願いしますよ」

「はい、分かりました……」


 殊勝に頭を下げてみせたが、モルガーナ准教授の視線はチラチラと魔導二輪車の残骸に向けられている。

 この調子じゃ同じようなことをやらかしそうな気がするにゃ。

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