第283話 オーガ襲来
夜半前、仮眠を終えた俺とレイラ、ライオスの三人は、ガド、シューレ、セルージョ、ミリアムの四人と交代して村の北側へと向かった。
交代する前、シューレとミリアムが広範囲にわたって風属性魔法での索敵を行っていたが、オーガと思われる反応は無かったそうだ。
「じゃあ、打ち合わせ通りに頼むぞ、ニャンゴ」
「はい、見つけたら明かりと声で知らせます」
ライオスとレイラは村の北側が見渡せる場所で待機、俺は空属性魔法を使って上空を移動しながらオーガを探す。
空属性魔法で作った板の上に腹ばいになり、十メートルほどの高さを俺ごと移動していく。
索敵中なので素早く移動する必要もないし、風の魔法陣を使っていないので音もしない。
三日月が西の空に沈みかけている空を移動しながら、村の北側の森を監視する。
森の端には探知用のビットも並べてあるので、何かが通過すれば反応があるはずだ。
前世日本と違って、道路を走る車の音も、夜間飛行の飛行機の音も聞こえない。
時折吹き抜ける風に煽られ、草地がざわめく音を聞きながら一時間ほど上空を漂っていると、探知ビットに反応があった。
ライオスたちが監視している場所から見ると左手、西寄りの森の外れに動くものがいる。
気付かれないように、森の上空を迂回して背後から近付いていくと、一頭のオーガが姿勢を低くして草地を突っ切り、村の方向へと向かっていた。
ライオスの推察では、オーガは複数いるはず……と思っていたら、草地を進んでいたオーガは灌木の茂みに身を隠すと、森を振り返って手招きをした。
「こいつ……シーカーなのか?」
合図を受けて、森から更に三頭のオーガが姿を現し、最初の一頭と同様に姿勢を低くして草地を突っ切り、灌木の茂みまで到達した。
集まった四頭のオーガは、しきりに周囲を見渡して様子を探っているが、既に月が沈んだ空を漂っている俺には気付いていない。
「全部で四頭……」
一旦、オーガ達から離れて、口許を手で覆って囁く。
手元には空属性の集音マイク、ライオスとレイラの所には空属性のスピーカーと集音マイクを残してきている。
それと、ライオス達から見て方向が分かるように、高さ二十メートルぐらいのところで明かりの魔法陣を点滅させた。
オーガ達は、茂みから村の方向を眺めているので、背後で明かりが点滅したのには気付いていない。
「了解した、向かっている……」
ライオスから返事が来たが、どこに居るかは俺の位置からでは確認できない。
オーガ達は、灌木から二百メートルほど先にある家に狙いを定めているらしい。
俺達も夕方村に着いたばかりなので、その家にどんな人が暮らしているのか分からないが、家の外に常夜灯が灯されているところを見ると人が住んでいるようだ。
また四頭のオーガの中から一頭のオーガが先行して、次に身を隠せる茂みまで姿勢を低くして進んでいった。
まだ若い個体のようだが、それでも身長は二メートルを優に超えている。
俺からすれば、力任せに行動してもおかしくないと思える体格だが、オーガ達は慎重に家への距離を詰めていく。
オーガの注意が家に向いている間を見計らって、明かりを点滅させてライオスたちに場所を知らせる。
周囲には、この家の他に民家らしい建物は無く、家畜小屋も見当たらない。
オーガ達は家まで百メートルほどの距離まで迫っているが、ライオス達はどうしただろうか。
打ち合せでは、家などが襲撃される前に戦闘に入り、森へと追い返す事になっている。
もしライオスとレイラが間に合わなかった場合には、俺が魔法で阻止しようと思っていたら連絡がきた。
「家の近くまで来た、オーガは?」
「北西の方向から近付いてます……」
「了解、手筈通りで……」
どうやらライオスとレイラは、オーガ達に気付かれることなく家までたどり着いたようだ。
戦闘開始の合図は、俺が魔法でやる予定になっている。
オーガ達は、あと三十メートルほどの場所まで来ると、木立の間からじーっと家を観察し始めた。
俺はオーガ達の後方から眺めているが、ライオス達の姿は確認出来ない。
風は緩やかに北東から吹いているので、ライオス達の匂いがオーガに届くことは無いだろう。
逆にオーガ達の匂いもライオス達には届かないはずだ。
オーガ達は、十分以上も木立の中から家を観察し続けている。
魔物がこれほど警戒をして人を襲うなんて思ってもいなかった。
ジリジリするような時間が続いた後、シーカーを務めていたオーガが頷くと、四頭は一斉に家を目掛けて走り始めた。
畑を踏み荒らしながら疾走したオーガが、家まであと十メートルほどに迫った瞬間、バチバチっという音と共に火花が散った。
「うぼぉぁぁぁぁ!」
雷の魔法陣を並べた所に突っ込んだオーガ達は、悲鳴を上げて足を止め、その直後に家の影からライオスとレイラが飛び出して来た。
俺はオーガ達の頭の上に、空属性魔法で作った明かりの魔法陣を並べて辺りの闇を払う。
「うらぁぁぁぁ!」
「やぁぁぁぁ!」
オーガ四頭に対して冒険者二人で立ち向かうなんて、普通では無謀な戦力差だが、そこは俺が上空から援護する。
ライオスとレイラが相手している以外のオーガに対し、空属性魔法で作ったバーナーや雷の魔法陣やダガーナイフでダメージを与えていく。
ライオスとレイラは手数を増やし、出来るだけ多くの手傷を負わせていく。
ライオスはいつもの大剣ではなく、左手に盾、右手に片手剣の装備で戦っている。
盾での防御が少々力任せにも見えるが、それでもオーガに後れを取りそうな気配はない。
攻撃を盾で受け止め、剣は小さく鋭く振るように心掛けているようだ。
一撃の重さこそないが、対峙しているオーガの左腕には幾つもの傷が刻まれ、血を滴らせている。
時折、隙をみて繰り出される突きによって、腹からも出血していたが、オーガの皮下脂肪と筋肉を考えると、内臓に届くような深手では無さそうだ。
命に係わるような傷ではないから戦えるのだが、斬られればオーガだって痛みを感じる。
オーガが苛立つほどに、ライオスは新しい戦闘スタイルに手応えを感じているようだった。
ライオスの戦い方が一撃重視から堅実にシフトしたのとは対照的に、レイラの戦い方は迫力満点だ。
両手に握ったナックルブレードは正に斧の刃そのもので、それを叩き付けるようにして拳を振るうレイラの姿は修羅と表現するのが正しいだろう。
オーガが振り回してきた拳に向かって、ナックルブレードを握った拳を正面から叩き付ける。
「うがぁぁぁぁ……」
叩き割られたオーガの拳から鮮血が吹き出し、千切れた指が宙に舞う。
恐慌をきたしたオーガが太い腕を振り回しても、レイラは怯む素振りも見せずに掻い潜り、懐に踏み込んでボディーフックを叩きこむ。
背丈は三分の二程度、体の太さは半分以下のレイラに対して、オーガは為す術がない。
元々、オーガは屈強な上半身で相手を圧倒する魔物で、蹴りなどの足技は殆ど使わない。
インファイターのレイラにとって、蹴りの無い相手は与しやすいのだろう。
勿論、残り二頭を翻弄している俺の働きぶりがあってこそだけどね。
「レイラ、ニャンゴ、こっちの一頭を残す、他は仕留めても構わないぞ!」
「分かったわ!」
「了解です! ではでは、デスチョーカータイプRR、アーンド、粉砕!」
デスチョーカーを嵌めたオーガの頭を粉砕の魔法陣でぶっ飛ばすと、逆側の首筋に深々と槍が突き刺さった。
デスチョーカーを消すと、噴水のように鮮血が噴き出す。
致命傷を負ったオーガは、粉砕の魔方陣による衝撃も手伝ってか、頭をグラグラと揺らした後でガックリと膝を付いて座り込んだまま動かなくなった。
「こっちは、雷、アーンド、フレイムランス!」
強力な雷の魔法陣で感電し、体を硬直させたオーガの腹をフレイムランスで貫く。
内臓を焼き焦がされれば、いくらオーガでも助からないだろう。
「これで終わりよ!」
俺が二頭目のオーガを仕留めたところで目を向けると、レイラが膝をついたオーガの首筋を深々と切り裂いたところだった。
ナックルブレードに抉られ続けたオーガの腹からは、腸が零れ出ている。
オーガの返り血を浴び、眦を吊り上げたレイラは、酒場にいる時とは別人のような凄絶な美しさだった。
仲間が次々と倒されたのを見て、ライオスと戦っていたオーガは逃走を始めた。
相当ライオスに切り刻まれたのだろう、左半身は赤く血で染まり、左足を引きずるようにして走っている。
後は、あのオーガを追跡して、他にオーガがいれば一緒に討伐して依頼は完了だ。
あれだけ血を流していれば、行方を眩まされる心配は無いはずだ。
問題は、仲間が残っているか、残っているとすれば待ち伏せして襲ってくるかどうかだろう。
追跡はミリアムが中心となって行う予定だが、果たして落ち着いて索敵が出来るだろうか。
以前、ライオス達がオーガの追跡に苦労していたようだが、シューレは自信があるような話をしていた。
俺としては、俺に出来る事をキッチリこなして、チャリオットに貢献できるように備えておこう。
まずは、倒したオーガの処分から始めよう。
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