第281話 休養明けの依頼
休養明け、チャリオットの初仕事はオーガの討伐となった。
オーガはオークよりも力が強く、知恵が回るので討伐するのが難しい。
またオークと違って食用には適さないので、討伐後に買取の対象となるのは魔石と角ぐらいなので、稼ぎたいパーティーからは敬遠される仕事だ。
チャリオットのリーダー、ライオスがオーガ討伐を選んだ理由は、レイラの勘を取り戻すためと、ミリアムの索敵能力の向上、パーティー全体のバランス調整のためだ。
暫くの間、酒場の給仕として冒険者の活動から離れていたレイラは、自身の動きを取り戻すのも大切だが、周囲との連携を確認する必要もある。
これまでチャリオットでは、前衛にライオスとガドの二人が立っていた。
長年組んできた二人だから、それこそ阿吽の呼吸で声を掛けなくても連動が出来るが、今度はそこにレイラが加わる。
連携の乱れは懸念されるが、レイラが加われば前衛の厚みが増す。
ガドが敵の突進を受け止め、レイラが左、ライオスが右から攻めれば相手は防御が難しくなるはずだ。
どんな魔物であっても、左右両側から別々の動きをされれば、両方に対処するのは難しいからだ。
休養期間中、レイラの復帰にむけたトレーニングと平行して、ミリアムの索敵能力向上の特訓も行われていた。
ヴェルデクーレブラの討伐の時、留守番程度しか出番が無かった事もあって、ミリアムは根を詰めて特訓に取り組んでいたらしい。
ミリアムの索敵能力の向上は、チャリオットがダンジョンで活動をする事を考えると、この先更に重要度を増していくだろう。
俺やシューレも索敵は出来るが、狭く入り組んだ先の見通せない場所では、索敵出来る者は複数いる方が安心出来る。
そのためにも、ミリアムに実戦経験を積ませたいという思惑があるのだろう。
そして、ダンジョン攻略に向けて、弓の変更を行っているセルージョは、実戦での使い心地を試してみたいだろう。
俺とシューレは前線との連携の確認になるのだろうが、三人の動きを見る程度で、正直出番はあまり多く無い気がする。
索敵が出来て、ライオス、ガド、レイラの三人で向かっていくならば、遅れを取るとは思えない。
むしろ、不測の事態が起こったときに、いかに素早く対応出来るか、心構えや備えが問われるのだろう。
休養期間中だったが、みんな休養明けたら活動を再開出来るように備えていたので、依頼を引き受けた翌日、開門と同時にイブーロを出発する予定となった。
夜明け前に馬車に乗り込み、拠点を出発したのだが、ミリアムの表情がやけに固く見える。
やはり索敵の主力を務めるとあって緊張しているのだろうか。
「な、なにジロジロ見てるのよ」
「いや、なんか緊張してそうだからさ、シューレも付いているんだから心配ないよ」
「別に心配なんかしてないわよ。私がヘマしたって、どうこうなるメンバーじゃないでしょ」
「そりゃそうだ……」
確かにミリアムの言う通り前衛の三人は、オーガに不意打ちを食らっても余裕で返り討ちにしそうな頼もしさはある。
だが、イブーロを出発した後もミリアムはソワソワと落ち着かない様子だった。
何か理由があるのかと首を捻っていたら、シューレが教えてくれた。
「依頼先のトローザは、ミリアムの故郷よ……」
「ちょっと、シューレ!」
「どうせ到着すれば分かるでしょ……」
「まぁ、そうだけど……」
なるほど、村を出てから初めての帰省ならば落ち着かないのも当然か。
思い返してみると、今年の年初にイブーロに出て来たミリアムは、うちの兄貴と同様に働き口に恵まれず、貧民街に落ちかかっていた所をシューレに拾われてきた。
最初に会った時は、灰色の猫人かと思うほど薄汚れていたが、今では毎日シューレに洗われているから真っ白でフワフワの毛並みをしている。
俺はアツーカ村にいる頃から身ぎれいにしていたけど、ミリアムはどうだったのだろうか、家族が見たら別人だと思うんじゃないかな。
そう言えば、討伐のためとは思えない荷物が載っているけど、ミリアムのお土産なのかな。
大きな布で包まれているけど、たぶん布団のような気がする。
ミリアムの実家の経済状態は知らないけど、猫人にとって新しい布団は最高の贈り物だからね。
これから暑くなるから暫くの間は出番は少ないと思うけど、冬場は絶対に喜ばれるだろう。
途中の村で休憩を入れながら馬車を走らせ、夕方前には目的地であるトローザ村へと辿り着いたのだが、村は緊迫した空気に包まれていた。
村に到着したのは、まだ日が沈む前だったので、普通であれば畑仕事をする村人の姿が見えるはずなのだが、通りにすら人影が見当たらない。
「こいつは、どうやら手強そうな相手みたいだな……」
御者台の後ろに立って外を眺めているセルージョの言葉に、シューレやレイラも頷いている。
「ミリアム、村長の屋敷はどこだ?」
「このまま進んで、道の右側にある木に囲まれた大きな家がそうよ」
ミリアムも御者台の後ろまで行き、ライオスとガドの間から前を見詰めている。
尻尾の先が、小さく揺れ続けているのは不安の表れだろう。
トローザ村は、アツーカ村のように周囲を山で囲まれていないが、村の規模としては同じくらいの大きさのように見える。
村長の屋敷も、防風林に囲まれている以外は似たような作りの建物だった。
ガドが敷地の中へと馬車を進めていくと、屋敷から血相を変えた猪人の中年男性が飛び出してきた。
猪人の男は、御者台にいるライオスに駆け寄ると声を荒げた。
「お前らがイブーロの冒険者か、いったい何日待たせる気だ!」
「待たせる気かと聞かれても、俺達は昨日の午後に依頼を受けて、今朝の開門と同時にイブーロを出て来ただけだ。文句があるなら帰らせてもらうが……」
「ふざけるな! もう五人も犠牲になってるんだぞ。昼夜構わず襲って来るから農作業も出来やしない。雨季が明けて日照りが続いているのに、水やりすら満足に出来ない。このままじゃ作物が全滅だ!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす男は、オークとのハーフではないかと思うような体形をしている。
どうやらトローザ村が依頼を出したものの、他の旨味の大きい依頼に目を奪われて、受注するパーティーがいなかったようだ。
「こっちは高い金を払って依頼を出しているんだ、さっさとオーガを討伐してこい!」
「あんた、勘違いをしているようだな」
「なにぃ、勘違いだと……?」
「そうだ、俺達冒険者は依頼を受注し達成して金を稼ぐが、依頼を受けるかどうかは冒険者の自由だ。冒険者と依頼者は、あくまでも対等の立場であり、頭ごなしの命令なんか受ける義務は無い」
「何だと、貴様……」
いつもは温厚なライオスだが、着いた途端に名乗りもせず怒鳴り散らす男に腹を立てているようだ。
「少しは頭を冷やして考えるんだな。俺達が依頼を中断してイブーロに戻れば、次に受注したパーティーがここまで来るには最低でも三日は掛かるぞ。その間にも日照りが続けば、それこそ農作物が全滅するんじゃないのか?」
「き、貴様……村長であるワシを脅すつもりか」
「脅すなんて人聞きの悪い……俺達は気分良く依頼をこなしたいだけだ」
御者台から降りもせず冷ややかな視線を向けるライオスに対して、猪人の村長はこめかみの血管が切れるのではと心配になるほど歯を食いしばっていたが、視線を伏せて折れてみせた。
「分かった、なるべく早く討伐して欲しい、その為の便宜は図ろう」
村長の言葉を聞いたライオスは馬車を降り、握手のための右手を差し出した。
「チャリオットのリーダーを務めているライオスだ、早速だがオーガの襲撃の様子を聞かせてもらいたい」
「村長のオブライトだ。中で話をしよう」
ライオスとセルージョが村長から話を聞き、ガドは馬車を止めてから馬の世話、残った四人はミリアムの実家へと向かうことにした。
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