第243話 コスカ攻防戦
「我々はラガート騎士団だ、コスカの住民に告げる、武器を捨てて大人しく……」
ドガァァァ……!
バジーリオの声を遮るように対岸から爆発音が響き、猛烈な勢いで石礫が撃ち出されたが、見えない壁に弾かれて俺達には届かない。
一番近くには耐物理衝撃の刻印を刻んだシールド、その先には弾力性を高めたラバーシールドを二重に展開している。
砲撃は一番外側のラバーシールドを破壊したが、二枚目のラバーシールドは健在だ。
そして、一番外側のラバーシールドも壊れた直後に張り直した。
「すげぇ、欠片どころか爆風も届かないとは……」
ドガァァァ……ドガァァァ……!
大盾を構えた三人のうちの一人がつぶやいた直後、今度は上流下流、別々の方向から爆発音が響き、先程の倍の砲弾が向かってきたが結果は一緒だ。
「これ、俺達要らないんじゃないんすか?」
「馬鹿たれ、気を抜くな!」
別の兵士が思わず漏らした本音に、バジーリオが突っ込みを入れる。
フルプレートの騎士がコントを演じているようで、吹き出しそうになった。
「くそぉ、撃て撃て、撃ちまくれ!」
対岸から苛立った叫び声が聞こえ、今度は連続して爆発音が響き、視界が砲弾で埋め尽くされた。
連続した砲撃によって二枚目のラバーシールドが壊された瞬間があったが、直後に一番外側を張り直せたし、三枚目のシールドに砲弾が届くことはなかった。
ただ、俺を入れて六人の人間を守るように三重のシールドを張ると、反撃の為の魔力は残っていない。
一緒にいるバジーリオ達には余裕が残っているが、こちらからの攻撃もシールドに阻まれてしまう。
とりあえず、砲撃が止むまでは、カメのように守りを固めていよう。
「やつら、何発撃つつもりなんだ」
「くそぅ、この砲撃が終わったら、覚えていやがれ……」
魔力回復の魔法陣を使っているから、魔力が切れる心配は要らないけど、こうも攻められっぱなしなのは腹立たしい。
砲撃が途切れたら、どでかいのを一発お見舞いしてやる。
ドーム状のシールドで守りを固めていると、シールドにぶつかった石礫の砲弾は、真上に跳ねて再び落ちてきたり、手前の地面を抉ったりして視界を塞ぐ。
こちらから向こう側が見えないならば、当然相手からも見えていないのだろう。
効果が分からない状態なのに砲撃を続けるあたり、相手に余裕の無さが感じられる。
十分ほど続いた砲撃が途切れ、谷間を吹き抜ける風が舞い上がった土埃を払った直後、コスカの上空に特大の魔銃の魔法陣を展開した。
直径三十メートル、弾速よりも見た目重視の巨大な火球が、上空からコスカの集落へと撃ち下ろされた。
突如として出現した巨大な火の玉が落下する様子は、映画のCGで隕石が降り注ぐような感じの大迫力だ。
「うわぁぁぁぁ……」
対岸から絶望的な悲鳴が響き渡る中、急いで一度解除したドーム状のシールドを張る。
落下した火の玉は潰れながら四方へと広がり、一瞬にしてコスカの集落を飲み込んだ。
「うわぁ、やり過ぎた……」
川を渡って押し寄せてきた炎の津波がドーム状のシールドを飲み込み、周囲が真っ赤に染まった直後に上空へと立ち昇って消えた。
焚火の炎の上をサッと手を振って通過させた程度の時間だから、毛は焦げるけど服に火が付く程の時間ではない。
「エルメール卿、先に伝えておいて下さい!」
「俺、あいつらの砲撃よりもエルメール卿の攻撃のが怖かったっすよ」
「この世の終わりかと思った……」
「すみません、でもコケ脅しの攻撃なんで、大した威力じゃないですよ」
「大した威力じゃないって、あれを見ても言えますか?」
「へっ……?」
砲撃の流れ弾を食らってボロボロになった橋の向こうから、頭がチリチリになった男達が両手を挙げて次々に姿を現した。
「頼む、もう撃たないでくれ!」
「降伏するから撃たないで!」
両手を挙げて姿を現した男達は、真冬でもないのにガタガタと震えていた。
「まぁ、結果オーライってことで」
「エルメール卿……」
バジーリオは、右手で目元を覆って溜息を洩らしながら首を振ってみせた。
いや、一発で片が付いたんだから良いんじゃね?
バジーリオが後続の部隊に合図を送り、駆け付けた兵士達が投降してきた住民に手枷を嵌めていく。
だが、降伏して出て来たのは、集落の住民と魔道具の製作を担当していた者達ばかりだ。
「おい、ガウジョ達はどうした?」
「奴らは、まだ奥の家に立て籠もってる」
バジーリオは住民を後方へと移動させると同時に、コスカの長であるヒメネスから集落の状況を聞き取り始めた。
ヒメネスの話では、集落の下流側にある家にガウジョの一味が立て籠もっているらしい。
「だが、ガウジョはいないかもしれん」
「何だと、じゃあさっきの攻撃はお前が指示したのか?」
「違う、攻撃を命じていたのはボーデとかいう若僧だ」
「ガウジョはどうした、いつから姿が見えなくなった?」
「俺が最後にガウジョを見たのは三日前の夕方だ。その後は見ていない……」
ガウジョは自分の子飼いの手下と、腕の立つテオドロ、ジントンの二人を連れて三日前に逃亡。
その際に、下流に通じる抜け穴も中間点爆破していったらしく、コスカからは出られなくなっていたそうだ。
先程の砲撃は、置き去りにされたボーデ達が自暴自棄になって仕掛けて来たものらしい。
「エルメール卿、捕縛部隊を送り込みますので、同行していただけますか?」
「いや、やっぱりネズミは追い出して捕まえましょう。自暴自棄になっているとしたら、死なばもろ共……みたいな感じで自爆される可能性がありますから」
「なるほど、しかしどうやって追い出しますか?」
「そこはネズミ退治のスペシャリストである俺に任せて下さい」
まずは、ヒメネスに集落の見取り図を描いてもらい、立て籠もっている連中がどこにいるのか探知魔法を使って探した。
最初に手を付けたのは下流への抜け穴で、確かに途中で塞がっていたが、三人ほどが入り込んでいる。
「まずは炙り出しますかね、バーナー……」
火の魔法陣と風の魔法陣を組み合わせたバーナーで、穴の奥から炙って追い出し、更に粉砕の魔法陣を使って抜け穴を完全に塞いだ。
抜け穴から逃げ出した三人は、ヒメネスが言っていた奥の家に逃げ込んでいった。
家の中には四人、逃げ込んで来た三人を合わせて七人が立て籠もっている。
空属性魔法の集音マイクを使って中の会話を拾ってみた。
「手前ら、良くノコノコと戻ってこられたな」
「すんません、抜け穴の奥から炎が噴き出して、焼き殺されそうだったんすよ」
「何が焼き殺されそうだ。どうせ俺らは捕まれば火炙りか縛り首だ。ビビってんじゃねぇ!」
何人もの命を奪った殺人犯などの重罪人は、イブーロの広場で公開処刑されたりするそうだ。
どうやら、この七人は踏み込んできた騎士団と刺し違えて死ぬつもりのようだ。
「バジーリオさん、こっちに追い出しますので、捕縛の準備をしておいて下さい」
「了解です、よろしくお願いします」
「ではでは、粉砕……」
ドーンと音を立てて、七人が立て籠もっている家の屋根が吹き飛んだ。
内側から上に向かって粉砕の魔法陣を発動させたのだ。
二階に立て籠もって窓から外の様子を窺っていた二人が、慌てて階段を駆け下りていった。
誰もいなくなった所で、今度は二階部分を横から吹き飛ばす。
こちら側からは百五十メートルほどの距離なので、家が爆破される様子に兵士達は手を止めて見入っている。
七人が飛び出したのを確認して、三回目は家そのものを吹き飛ばした。
バラバラになって逃げようとする七人を空属性魔法のウォールとバーナーを使って誘導していく。
コスカは、川岸から集落の奥に向かって土地が高くなっているので、意外に見通しが利く。
空属性魔法を使って橋の方向へと誘導していると、対岸で逃げ惑う七人の姿が見えた。
当然、向こうからもこちらの姿が見えたのだろう。
「にゃんころ、手前の仕業か……ぶっ殺してやる!」
姿を現した七人は、例の粗雑な魔銃を撃ちながら橋の方向へと進んできたが、炎弾は全て俺のシールドに遮られ空中で弾けて消えた。
「エルメール卿!」
「まだです、まだ手を出さないで!」
橋へと続く道を駆け下りながら『鼻曲がり』のボーデは魔銃を投げ捨て、背負っていた大剣を振り上げた。
残りの六人も、魔銃を乱射しながらボーデを追いかけて走ってくる。
「死にさらせ、にゃんころがぁぁ……がぅっ」
全力疾走で橋を渡り始めたボーデは、シールドに顔面を打ち付けて昏倒した。
「ボーデ……ぎぃ」
「おい、どうし……がぁ」
ボーデを追い掛けて来た六人は、雷の魔法陣に触れてバタバタと倒れた。
「バジーリオさん、奴らを拘束して下さい。俺は隠れている奴がいないか探知魔法を使って探ります」
「分かりました、おい、全員手枷を嵌めて馬車に積み込め」
集落の中を隈なく探知魔法を使って探し、怪しい場所は粉砕の魔法陣で吹き飛ばしてみたが、もう隠れている者はいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます