滅竜会

この日、王都ドルアにて各国で出没する竜の対策会議が行われていた。

【滅竜会】竜に抗う者たちが集うこの会議は一年を通じで順次各国で開催される。

当日出そろったのは全員で9人。


ドルアーノ王国からは竜殺し御三家の当主3人

ドルディス帝国からは帝国の竜殺衆と呼ばれる3人

ミカドル教国からは竜の守り人の3人


円卓に席を並べて各国の選ばれたものが集まった。

最初に言葉を発したのは竜殺し御三家の一人、ケウス・アーバインだった。


『本日はわが国主催の滅竜会にお集まりいただき感謝します。

 早速ですが議題に沿って――


『はいは~い、ケ~ウ~スちゃん♥

 その前に質問がありまぁ~す!』

『どうぞ』


帝国側の席に着く赤黒い鎧を着た女騎士がひらひらと手を振る。

彼女の名はヴレラ。帝国でも指折りの竜殺しである。


『前も言ったけどぉ~、この場に教国の人はいらないと思うの~。

 だってそうでしょ?ここは滅竜会なのよ~?

 なぁ~んで竜を守る人たちが一緒なの~?』


片手で口元を抑えてグスグス笑う帝国の男――彼の名はジャド。

そしてジャドの隣に座る首輪をつけた女性、フィカは目を閉じたまま。

二人も帝国では名の知れた竜殺しである。


『不愉快だ』


教国側の席に着く男が透かさず言い返す。

白い法衣を身にまとうこの男の名はダズ。

教国で竜の守り人を束ねる高位の人間である。


『………』

『………』


隣に座る法衣の男女は無言。

女性の名はスゥ。

男性の名はハォ。

3人とも白い法衣に白い髪の毛、白い肌。

全身を白で染め上げたかのような格好と雰囲気はこの場でも異色を放つ。


『だってぇ、教国の人って竜に喰われて喜ぶ変態さんなんでしょぉ~?

 ないないないない、ありえな~い!

 それともあなたたちが餌になってる隙に竜を殺せってことかしら~?』

『…ぐぷッ、だぁ~っはっはっは駄目だもうこりゃあ、あっはっは!!』


ヴレラの言葉に抑えきれず大笑いしだすジャド。


『…やはり竜殺しの民など下種。ゆくぞお前たち』


教国側の3人が席を立つ――


『いい加減にしていただきたい』


アーバインの一言。

一瞬でその場が静まり返る。


『今日この場に集まったのは余計な茶番に興ずるためではない。

 各国の未来を話し合う貴重な場と時間のはず。

 それを痴話喧嘩で無碍にすると?

 これを各国の国王がどう思われるか――察しがつかないのか?』


先ほどまでにやついていた帝国のヴレラとジャドも真顔になり

席を立とうとした教国の3人は席に着く。


アーバインの両隣りに座る男女が同時にため息をつく。

女性は竜殺し御三家の一つセリド家当主、リリアンヌ・セリド。

男性も御三家の一つトゥルマンザ家当主、ゼイドラン・トゥルマンザ。


『では、会議を始めましょう』


仕切りなおすアーバイン。本日の議題の一つは――


『先月、帝国に出現した殺人鬼マンイーターについてです』


マンイーター

数年前、王国の辺境の村に突如現れた殺人鬼。

炎を操る滅竜器を武器にアーバインの部隊を壊滅させた。

その後の行方を追うも神出鬼没なうえに

並の兵士では歯が立たず、ここ数年で多くの犠牲者が出てしまった。

帝国、王国を含めると数千…放置すれば万単位の犠牲もありえる程の勢い。

もはや災害。竜が及ぼす被害にも匹敵してしまう。

現在は各国が協力してマンイーターの行方を追い、

その捕縛、あるいは討伐に出ていた。


『これについて帝国側から情報共有を』


帝国のジャドが挙手し答える。


『状況は最悪だぜ。逆に清々しいほどいい殺しっぷりだ。

 うちの連中が何人もいい感じに炭になっちまったぜ』

『足取りは?』

『さっぱりだこれが。野郎仕事が終わったらすぐに消える決まりのいいやつでよ。

 まるで煙のように溶け消えちまうのさ。あ、実際に溶けてるわけじゃねえぞ?』


『あとね~ケウスくぅん。面白いことが分かったのよ』

『面白いこととは?』

『2つあってね。1つは~、信じられないかもしれないけど

 その日に殺しがあった町から馬車で3日掛かる離れた村で

 1日もたたずに次の殺戮パーティが起きたって事』

『…ほぅ』


つまりマンイーターは馬でも3日かかる距離の町から村へ

1日たたずに移動し殺しをはたらいた――そういうことになるが


『ありえませんわ。模倣犯でなくて?』


疑うセリド家当主リリアンヌ。

その距離を瞬時に移動したというのなら人間業ではない。


『マンイーターは2人いる…そう考えもできんか』


トゥルマンザ家当主、ゼイドラン・トゥルマンザは複数犯を指摘した。


『現地の調査じゃマンイーターの仕業ってことは確かだが

 なるほど2人ね。もしかしたら同じのが100人がいたりしてな』


そう言って、にやけるジャド。冗談ではない。

あんな化け物が100人もいたら国が滅ぶ。


『そして2つ目が~、うふ、おもしろいのよケウスく~ん。

 マンイーターが殺す標的なんだけどね~?

 一般人も殺されてるんだけど圧倒的に竜殺しとか~

 あと竜の密売人が多くてさ~』


それは王国でも同じような割合で被害が出ている。

一般市民も殺害されているが被害者の多くは竜殺しや竜の密売…

違法な竜の取り扱いをしたものが多かった。

それはまるで――


『竜をいじめる奴に恨みでもあるって感じじゃな~い~?んふふ…』


竜に命を奪われて恨みを持つ人間は多い。

しかしこの国で、竜を殺された恨みがある人間がいるとは思えない。


『あれぇ~?そういえば教国でマンイーターが出たって話はないわよね~?

 え?犠牲者もいない?なんて平和なのかしら~!

 そういえば教国は竜を大切にする国だったっけ?

 不思議ぃ~!こんな偶然ってあるのね~』

『何が言いたい』


ヴレラの言葉に明らかに敵意をむき出す教国のダズ。

ヴレラの口元が嬉しそうに歪む。


『マンイーターはァ…教国の送り狼ってぇ こ と ♥』

『ふざけるな下種がァア!!』


机を叩き立ち上がるダズ。

またしてもジャドが机に突っ伏して笑いをこらえている。


『もういい!こんなバカげた話し合いの場など不要だ!!帰らせてもらう!!』

『あらあら、真実当てられちゃって怒っちゃった?で、逃げちゃうわけだ』

『貴様ァアあああああああ!!』


『静かにしろ』


あきれた様子のアーバインが二人の言葉を断ち切る。


ヴレラとダズは睨み合ったまま動かない。


『その件について私から有力な情報をお伝えする』


全員の視線がアーバインに集まる。


『マンイーターは――亡国出身のドラグーンだ』


その場が凍り付く。


亡国とはかつて黒竜に滅ぼされた王国の遥か南に存在する島国。


そしてドラグーンとは――


古の昔より言い伝えられている、竜を操るとされた人間のことである――



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