森の近道

『しけた村ねぇ~』


リンゴに齧りつき悪態をつく赤黒い鎧の女騎士


フォウドルに異国の騎士が3人到着していた。


『いいじゃねえかこういう田舎くせえ村もよ。なァ?』

『はい』


葉巻を吹かす男がゲラゲラ笑い、傍の小柄な女性が瞬時に答える。

二人も赤黒い鎧を身に着けており

緑豊かな村には似つかわしくない色合いで浮いていた。


『途中で竜とやりあったから見失っちゃったじゃな~い』


リンゴの芯を投げ捨てる女騎士

ゲラゲラ笑いながら男が女騎士の肩をたたく。


『しかも竜は逃がしてやがるときたもんだ』

『うっさいわねェ。もとはといえばアンタの道具がもたついたからでしょ?』


肩に乗った男の手を乱暴に払いのける女騎士


『だとよォ?ひでぇ事言うよなァ?』

『いえ、私の力不足です。申し訳ありません』


男の言葉に隣を歩く女性は瞬時に答える。

その女性には首輪が。


『せっかく帝国につく前に殺しちゃおうと思ってたのにぃ』


女騎士は口元についたリンゴの果汁をぺろりと舐めとる。


『物騒な女だぜおめえはよォ。お~怖い怖い』

『なにとぼけてんだか?そう言い出したのは――アンタのくせに』


悪い笑みを浮かべる女騎士


『——ま、そうなんだけどよ』


それに答えた男の顔は――狂喜に歪んでいた――








森の集落フォウドルを出発したミッカ達

シグは馬車を走らせ荷台に商品とミッカとコルを乗せる。

手綱を握るシグは後ろの荷台が気になって仕方ない。

というのも、フォウドル出発の時からミッカの元気がなかった。


(ミッカさんどうしたんだろう…具合でも悪いのかな…)


連れ添いのコルに聞いたが気にするなの一言。

落ち込んでいるようにも見えたので

ミッカが好きそうな竜の図鑑をプレゼントしたのだが


「おい小僧」

「うへああ!?」


荷台からひょっこり身を乗り出すコル。

不意に声をかけられてシグは思わず変な声が出てしまった。


「森の中を走っている割には道がでこぼこしてないな。

 草木も道なりに切られてるし」


「え、ええ。この道は一部の商人しか知らない抜け道なんですよ。

 この森を普通に通り抜けようとしても馬車はまずまともに動けません。

 しかし、このルートを使うことで早く王都につけます。

 道の整備もこまめに商会が行っているんです」


「ふーん」


よく道を見れば確かに何度も馬車が通った跡がある。

街道を行く道は道も整備されているが

この森を沿うように王都へ向かうのでどうしても大回りになってしまう。

故に王都とフォウドルを行き来するこの近道はとても有用なのだ。


「みんなこっち通ればいいじゃん」

「いやあ、そこは、その…商売敵という存在もあってですね…。

 他の商会には内緒なところもあるんですよ…。

 うちの商会でも信用できるか確か教えてないもので…」

「ケチだな」

「よ、よく言われます…あはは…」


商会の付き合いというのもいろいろと面倒なのだろう。


「と、ところでコルさん」

「あん?」

「そ、その…ミッカさんは…」

「ああ、ミッカはな――」


コルが荷台に振り返ろうとしたとき――


「すごいよシグ君!!」

「うへああ!?」


ミッカも荷台から身を乗り出してきた。


「この図鑑!とっても素敵!

 私の知らない竜が絵で!色で!詳しい解説まで!!

 黒竜のことも書いてあるし、他の竜も載ってる!

 こんなすごいもの本当にもらっていいの!?」


「き、気に入ってくれたみたいでよかったです…!」


ミッカはシグからもらった竜の図鑑を熱心に見ていた。

目を輝かせて解説も一言一句見逃さぬよう読んでいる。


「ずっと本読んでんだもんなミッカ」


相手にしてもらえずちょっとむくれるコル。

揺れる馬車で本なんか読んで酔わないのだろうか。


「このドルアーノ王国で確認されている12種の竜は

 黒竜、緑竜、黄竜、赤竜、茶竜なんだって!」

「へー」

「みてみてコル!茶竜って見た目が本当に岩みたい!

 眼が小さくてかわいいね!

 食事は主に鉱石や岩なんだって!」

「まずそ」

「黄竜って名前からしたら黄色い竜なのかなって思ってたけど

 別名が空竜っていうんだって!

 他の竜に比べて翼が発達してて一日中空を飛んでいて

 巣は標高の高い山の頂上にあるらしいよ!

 黄竜を目撃するときは決まって雷雨の時だから黄の名前になったんだとか!」

「ふーん」


にこにこ竜の話をするミッカと

聞いてるんだか聞いてないんだか反応が薄いコル。

二人の様子を見てクスリと笑うシグ。


(よかった…元気になってくれたみたいだ)


賑やかな馬車。

普段は行商なんて腕利き用心棒と無言の旅路ばかりだったシグにとって

ミッカとコルのような賑やかなひとときはとても新鮮だった。

盗賊や野生の竜の襲撃に神経をとがらせながら行く旅とは違う時間。

こういうのも悪くないなあ――


「おい――とまれ」


急にシグの方をつかむコル。

慌てて馬を制止させると荷台の荷物が音を立ててずれる。


「ど、どうしたのコル?」

「血の匂いがする」

「!!」


慌てて周囲を見渡すミッカとシグ。

草木が風に揺れ、木々は静かに佇む。

しかし、血のようなにおいはしない。


「ち、血の匂いなんてし、しますか?」

「…コルはとっても鼻がいいの。

 きっとこの近くで何かあったんだ」


「—————」


眼を閉じて鼻からよっくり空気を吸い込むコル。


「あっちだ」


馬車の荷台から素早く降りると

道から外れた木々の合間を走り抜けるコル。


「待ってコル!!」

「え!?コルさん!?」


ミッカもあわてて後を追う。

シグも馬を近くの木につないで追う。

あまり馬車から目を離したくはないのだが――


「コル!!どこなのコル!!」


森の中で名前を呼ぶミッカ。

すると前方にコルの姿が見えてきた。


「コル!!」


「コルさん、ど、どうしたんですか」


ミッカとシグが追いつくと


「————!!」


二人は息をのんだ。


コルの視線の先には


木に血まみれの男がもたれかかっていた――



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