竜の守り人

各地で竜と人の争いが絶えず


人が竜を滅さんと戦い続ける中


ミカドル教国は竜を守ることを捨てていない国だ。


もしも教国の民が竜に喰われたというのなら


それは神に選ばれた名誉ある命と称えられる。


もしも町が竜に焼き払われたのなら


それは神が示した新たなる繁栄の兆しと祈りを捧げる。


すべては竜が――神が導く。


教国の民は竜を崇め奉り、神という存在として信じてきた。


竜は神であり友であり家族であり――愛すべき存在。


故に竜殺しは大罪。あってはならない邪悪。


竜殺しを――許してはいけない。


それがミカドル教国なのだ――





ミッカの母親は教国の出身なのかもしれない――


教国の民スゥの言葉に、ミッカの鼓動が高鳴る。

幼くして亡くした母。

言葉を交わすことなく去ってしまったあなた。

母親のことを全く知らないミッカが

親に会いたいと旅に出たその答えの一端が

もしかしたら手に届くかもしれない――


(…この人なら…もしかしたら…!)


ミッカは胸のペンダントを握り締める。

ペンダントには両親の写真が写っている。


これをこの人に見せたら――


「——あのッ!」


ミッカが声を震わせる。

握りしめたペンダントを差し出して――


「スゥ、何をしている」


そこにスゥと同じ白い法衣を着た男が現れる。

白い髪の毛。体格のいい男。しかしその眼光は鋭い。

肩をつかまれたスゥは俯き


「…ごめんなさい」


そういってミッカ達に一礼すると、二人はその場を立ち去ろうとする。


「ま、待って!!」


ミッカが呼び止める。


「キミ」


法衣の男が振り返る。


「私たちは急いでいる。すまんが失礼する」

「お、お願い!聞きたいことがあるの――」

「キミ」


ミッカを見下ろす男の表情は険しい。

そして一言放つ。


「竜殺しの民と交わす言葉は持たん」

「—————!!」


氷のように冷たい一言に

ミッカは次に言わなくてはいけない言葉を失った。


「おい、おっさん」


コルがミッカの前に出て男を睨みつける。



「ミッカがいつ――竜を殺したって?」



睨み合う両者。

男は微動だにせず

コルはあからさまに苛立っている。

沈黙する男にしびれを切らしたコルは

握り拳を振り上げて男を――


「申し訳ありません!」


そこにスゥが割って入る。

しかしコルは一歩も引かない。


「悪気があったわけじゃないんです」

「ミッカを竜殺し扱いした癖に?知りもしないで」

「ごめんなさい。非礼をお詫びします」

「お前が謝ってどうすんの?そこのおっさんに聞いてんの」

「本当にごめんなさい」

「だからなんで謝んだよ。あ、お前もきょーこくの人だから?だから――


――自分も思ってるってことかよ――


スゥが目をそらす。

帝国も王国も滅竜隊という組織を持っていて

竜狩りをしている。竜を殺している。

そんな野蛮な民と口はききたくない、と?


「どうでもいいけどさ」


コルは本当にどうでもよさそうに言葉を紡ぐ。


「お前らがどう思おうが勝手だけどよ」


コルの眼が――鋭く光る。


「ミッカは――




竜の友を探して旅に出たミッカ。

竜を知ろうと本を読んだり

竜と話せたらいいと心躍らせている少女。

そんなミッカを突き飛ばすような言葉をコルは許せなかった。


「ご、ごめんなさい引き止めちゃって!」


そう言ってコルの腕をつかむミッカ


「おい、ミッカ――

「お急ぎなのにしつこく話しかけちゃって…

 気分を悪くさせちゃったみたいで、本当にごめんなさい!」


コルを強引に引っ張り、スゥ達から離れていくミッカ。

その後姿を見ていたスゥは――


「………」

「いくぞスゥ。

 我々の任務は終わってなどいない。先を急ぐぞ」


静かにその場を去っていった。





「おいミッカ!」


腕を振りほどくコル。


「言われっぱなしで悔しくねえのかよ」

「ねえ、コル」


コルに背中を向けたままミッカは話しかける。


「私さ、竜殺しの民って言われて思ったんだ」

「?」

「私が探してる、竜の…竜の友達もさ」


コルに振り向くミッカ。


「私のこと――思っちゃったり、したのかな…?」

「!!」


泣いていた。

肩を震わせて、唇を噛みしめながら。


コルはミッカをやさしく抱き留めると


「…ミッカ」


コルはミッカの銀の髪をなでながら


「…そんなことねえよ」



泣くミッカをやさしく諭した――

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