森に囲まれた村
肥沃な大地を領地とする王国ドルアーノ。
山々に囲まれ豊富な鉱物資源を有する帝国ドルディス。
雪と水の都と呼ばれ竜を神と崇拝する教国ミカドル。
王国ドルアーノは西に帝国、東に教国に挟まれる形で存在する。
各国は以前、人同士の戦争下であった歴史を持つが
現在は和平条約を結んだことにより戦火は収まっている。
共に竜を滅せんとする王国と帝国。
竜と共存することを真の平和とする教国。
いずれも運命は竜と共にある――
パドルの町を出発し北東に進むと
森に囲まれた村フォウドルがある。
王都ドルアに向かうには街道を通ることがほとんどだが
一部の慣れた商人はこのフォウドルを経由して近道をする。
街道を経由するよりも日数を大幅に短縮できるのだが
広大な森を抜けなければならず、場合によっては遭難する危険もあり
不慣れな人間は回り道をした方が安全だ。
「つきましたよ!ここがフォウドルです」
「こんな森の中に村があるのね!」
「いい場所だな」
木々に囲まれ小鳥がさえずる村。
人口はエルドルより少し多いだろうか。
新しい発見に目を輝かせるミッカ。
村に閉じこもっていては経験できないことだ。
そして始めて訪れたのか、元旅人のコルもあたりを見回している。
あれ、コルって――ミッカはとりあえず聞いてみる。
「っていうかコルは私の村に来るまでは旅をしてたんでしょ?」
「まね」
「ここには来たことなかったの?」
「村とかよらねーし」
「え”!?じゃあ宿は!?」
「野宿」
「ご飯は!?」
「草とか実が生えてんだろそこらに」
「お風呂は!?」
「川」
わからない。コルはなんていうか掴みどころがないっていうか。
「あはは…コルさんてたくましいですね!旅慣れてるっていうか…」
「だろ?」
どや顔で胸を張るコルに苦笑いするシグ。
「今日はここで宿をとりましょう。あ、宿代は僕が出しますので!」
「ええ!?そんなお金出すよシグくん!」
「いえいえ!これもお礼ですよ!」
隣でふんすと鼻息を荒げるコル。
ここまでの旅路でコルは護衛としての役割を果たしていた。
野生の竜に襲われることはなかったが
夜道を女子供が出歩いているとなると盗賊のいい獲物になってしまう。
事実ここまで3回は盗賊に遭遇してきたが――
『ぶべらァ!?』
コルは拳一つで盗賊どもを返り討ちにしてきた。
『なんなんだこの女…』
『とんでもねえ…馬鹿力…』
ぐしゃりと力尽きる盗賊達。
とりあえず縄で縛りあげて放置する。
『…うわあ、コルってほんと喧嘩強いよね…』
『だろ?』
感心するミッカに、どや顔を欠かさないコル。
『す、すごすぎますコルさん!!』
少年シグも驚く。コルのどや顔がさらにドやる。
相手は武器を持った体格のいい男達だったが
振りかざす刃物に恐れることなくすべてかわし
拳一発で盗賊どもをねじ伏せたのだ。
最初は素手で大丈夫と言われ不安だったシグも
この光景を目の当たりにして一転、それは安心へと変わる。
「宿の手続きは僕が済ませておきますので
お二人は明日の出発までご自由にどうぞ!
僕はこれからこの村で商談がありますので!」
「あ、ありがとうシグくん!」
「ミッカ腹減ったぞ」
「じゃあ、何か食べにいこっか」
各々自由行動をとることに。
村の中を歩く二人。
「自然に囲まれている感じがエルドルに似てるのかな。懐かしい」
「空気もうめえしな」
田を耕し酪農に勤しむ大人たち。
民家の周りでは子供たちのはしゃぐ姿が。
「お、いいにおいすっぞ」
「あそこにお店があるね。いってみよ?」
「おう」
二人は飲食店を見つけ中に入る。
テーブルに着くとメニューを開き
「わああ!どれもおいしそう!」
「……」
メニューと睨めっこをするコル。
きっとどれにするか迷っているんだ。
「私はこれにしよっと!」
「じゃおれも」
あっさりミッカと同じものを注文するコル。
決められなかったな、さては。
「おまたせしました」
「! すげ」
「い~いにおい!」
運ばれてきたのはこの村でとれた野菜にキノコ。そしてパン。
中央には小鍋の中でチーズがコトコト煮えている。
串に刺さった野菜を鍋のチーズにくぐらせて一口頬張る――
「おいしー!」
「やべえうま」
口の中で広がるチーズの芳醇な香りと
食べ応えのある野菜が咀嚼するたびにその味を引き立てる。
「なにこれうまうま」
「あはは!コルってばもっと味わってよもう!」
溶けたチーズをしみこませたパンも絶品。
村ではこんな料理は味わったことがなかった。
コルは両頬をぱんぱんに膨らませガツガツ食べ進める。
それも見たミッカは笑い過ぎて食事が進まない。
談笑しながら二人はお腹を満たしていった――
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