黒竜殺し

『おーと?』

『そうですぢゃ』


ぎひひと笑いながら答える老婆。


『黒竜殺しのルドガー…王都に行けば会えますぞ』

『へー』


老婆は告げる。黒竜殺しに会えば良いと。


『で?』

『気が済むはずですぢゃ』

『誰の?』

『ふぇっひっひ!』


老婆はコルに背を向けると立ち去ろうとする。


『でわまた』

『おい、ばあさん』


呼び止めるコル。


『—おまえ、何を知ってる』


普段はぼーっとした表情しかしないコルが

珍しく真剣な顔つきになる。


『—なんでも、知っております―』


そう言い残し老婆は夜の闇へ溶けていった―




「…黒竜殺し…」


寝起きのミッカはその言葉に反応する。

昨日の晩にコルが買ってきてくれたパンを食べる手が止まる。

昨晩遭遇した老婆の事をコルはミッカに話していた。


黒竜殺しの噂は辺境の村エルドルにも届いている。

黒い竜しか狩ることをしない凄腕の竜殺し。

王都では英雄扱いされており

何度も滅竜隊に勧誘されているが断っているとか。

たった一人で黒き竜に立ち向かう英雄―


その英雄ならミッカの友を知っているかもしれない。

もしかしたらもう、その手で友を―


「どすんだ?」

「…いこう」


手がかりがない以上、王都に向かうしかない。


「何かわかるかもしれない…!」

「はいよ」


友に早く会いたい。

椅子から立ち上がるミッカ。


「!? あいててて…」


筋肉痛でよろめくミッカ。


「…王都まで…馬車って出てないかなぁ…」

「ミッカ、もう一泊してく?」


コルは肩を貸すと二人は宿を出て、町で馬車を探すこととなった―



「え?王都に行きたい?ダメダメ、荷物でいっぱいなんだ」

「定期で馬車が出るじゃないか。え?次?2~3日後じゃないか?」

「いいぜ乗せても…え?乗賃これで?他当たりな!」

「悪いが王都とは逆方向なんだ、すまんね」


町に来ている馬車を持った旅人、商人に交渉するミッカ。

しかし、そんなに都合よく王都まで連れて行ってくれるものがいるわけもなく

気が付けば昼を過ぎていた。


「あきらめて歩いていこミッカ」

「も、もうちょっと!もうちょっと聞いてみる!」

「あそ」


ふぁ~あ、と大あくびをするコル。

道行く人に話しかけるミッカ。

これは今日も宿で一泊だな―


そう思ったコルがふと

何やら騒いでいる少年を目にする。


「こここ困ります!王都まで戻るまでの契約じゃないですかあ!!」

「だから悪いって。こっちの方が護衛料金倍払うっていうからさ」

「そ、そんなあ…!!」


馬車の前でがっくり肩を落とす少年と

そこから離れていく武装した男。


(…あ~、そゆこと)


何かを察したコルがうなだれる少年へ近づく。


「おい、ちび」

「うひぃ!? な、なにか…」


自分の背よりも小さい少年に

腰を曲げてぐいと顔を近づけるコル。


「おまえ、商人だな?」

「え…は、はい…」

「ごえー、してやんよ」

「ぇええ!?ほんとですか!?」

「おぅ。その代わり…」


ごにょにょと少年に耳打ちするコル―



「…はぁ~…」


こちらも肩を落とすミッカ。

誰一人、王都まで馬車で連れて行ってくれる人はいなかった。


「んもう、コルったらどこいったの?一緒に探してくれてもいいのに!」

「ミッカ」

「んひゃあ!?」


振り返るとそこにはどや顔のコルが。


「いたぜ。おーとまで行くってさ」

「え!?」


コルの後ろには馬車と少年が。


「いやあ、助かります!王都までの護衛を引き受けてくれるなんて!」

「え、は、はぁ」


少年はにこやかにミッカに握手をしてくる。

状況がつかめていないミッカだったが―


「ちょっと待っててくださいね!

 今日仕入れた商品を馬車に積みますので!

 量が多いので男手を借りて来ます―


そう言って少年が自分の馬車に振りかえると


「これで全部?」


ぱんぱんと手についた土埃をはらうコル。

山済みだった大箱の商品が馬車にすべて積み込まれ


「じゃ、いこ」

「「あっはい」」




王都へ向かって旅立つ事となった―

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