老婆

雷鳴轟く森の中

大雨で地面はぬかるみ

雨脚は時間とともに強さを増していく。


そんななか、地面にうずくまる一匹の黒い幼竜

その首には布が巻きつけられ

竜の血が絶え間なく流れていた。


息も絶え絶え、空をはばたく体力もなく

力尽きた竜に残されたのは死を待つ事のみ―


そんな黒い竜に近づく足音

黒い竜が片目を開くとそこには


一人の老婆が立っていた―






「間に合ったな」

「…ぜえ、ぜえ…えぇ…なんとか…」


汗まみれのミッカ。ケロッとしているコル。

気付けばあたりは薄暗くなっていたが

目的地の町、〈パドル〉に何とか到着していた。


「や、宿を探しましょ」

「おう」


よろよろと歩くミッカ。

それを支えるコルはちょっと心配そう。




宿にたどり着き部屋に入る二人。


「ふい~、ふっかふかぁ~」


ぴょいんと宿屋のベッドに飛び乗るコル。

ミッカも倒れ込むようにベッドに顔を埋め込んだ。


「…も、もう、歩けない…」

「だらしねーなミッカ」


ミッカも決して体力がないわけではない。

子供のころから山を遊び場に鍛えてきたつもりだ。

それでもエルドルからここパドルまで走ってきたとなれば

大の大人でも途中で音を上げる距離だ。

馬でもあれば楽なのだが


「腹減ったぞミッカ~」

「お、お金渡すから好きなの買ってきていいよ…」

「えへぇ、やりィ!」


ミッカから金銭を受け取るとはしゃぐコル。


「ミッカはなにくう?」

「なんでも…」


宿の部屋を出ると階段を駆け下り

そのまま玄関を出て夜の町へ。


小さな町だが夜なのにそれなりに人通りもある。

きょろきょろとあたりを見回しながら歩くコル。


「お、あったあった」


しばらくして見つけたのはパン屋だった。

駆け足で店に入る。


「んー!いいにおい」


胸いっぱいに空気を吸い込む。

パンの香ばしい香りがコルの腹の虫を豪快にならせた。


「いらっしゃいませ」

「パン二つ。あとミルクも」

「かしこまりました」


大きめのパンとミルク瓶を二つずつ受け取り

店員に金銭を渡すと急いで店を後にした。


「あれ。宿どっちだっけ」


早速道に迷うコル。

頭をぽりぽりかきながら街をさまようと


「おねーさん!綺麗だね~!」

「どう?一緒に酒場に行かないかい?」


道行く男たちに声をかけられる。

特にコルの綺麗な長い黒髪はすれ違う人の目を引き付けていた。

しかし―


「ねーねーおねーさん?きいてる―

「うっせ」


まったく相手にしないコル。

はやくミッカが待つ宿に戻りたい。


「—もし、そこの黒髪のお方や」


突然横からがらがらな声で呼び止められるコル。

見ると腰が曲がり黒いローブを着込んだ老婆が手招きしている。


「んだ?ばあさん」

「ふぇっひっひ」


不気味に笑いかける老婆。

無視だ無視。そう思い歩き出そうとして―


「—、竜をお探しで?」


ピタリと足を止めるコル。

眼だけ老婆に向けると


「なんかいった?」

「教えて差し上げましょうか?」


不気味に笑いかける老婆に

コルは持っていたパンをひと齧りして


「言え」


とだけ呟いた―






「もどったぞミッカ」


ようやく宿についたコルは

急いでミッカが待つ部屋の扉を開ける。


「…すぅ…すぅ…」


ベッドの上で寝息を立てて眠るミッカ。

それを見て安心したコルはため息交じりに微笑む。


パンとミルクをテーブルの上に置き

ミッカが眠るベッドに腰かけると

コルは彼女の銀色の髪をやさしくなでる。


「…かわい」


ふと、コルは胸ポケットからあるものを取り出す。


「…竜は…友達…か」


コルの手のひらには


黒い竜の鱗が煌めいていた―

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