第一章 旅立ち
父と友を探して
静かな波の音
鳥が賑やかな海辺
丘の上に立つ小さな教会がある。
子供たちが外で笑いながら遊び
それを窓から眺める老婆。
ベッドから体を起こしてその様子を見ていた。
傍には付き添いのシスターが一人。
老婆のしわだらけの手にやさしく触れると
『子供たちは元気ね』
シスターは微笑んだ。
『ええ』
老婆もゆっくりうなづく。
その日は晴天。
雲一つない、青い空だった―
ミッカは故郷の村エルドルから旅立つ。
自分の父と友を探して。
その旅に同行するコル。
彼女はもともと世界を旅していたそうだが
エルドルの村が気に入ったのか、そこに暮らすようになった。
ミッカが旅に出ると言った際は自ら同行すると名乗り出た。
コルも目的があって旅をしていたはずなのだが―
「だぁッひゃっひゃっひゃ!!」
コルが腹を抱えて笑い出す。
「んもう!笑わないって言ったのにぃ!」
顔を真っ赤にして起こるミッカ。
「いっひひひ…ご、ごめ。いやだってさ」
コルが笑い出したのは数分前の会話にあった。
『ところでさ』
先頭を歩くコルがくるりと振り返ってミッカに問う
『友達に会うって言ってたけど、誰なん?』
後ろ歩きしながら首をかしげて聞くコル。
するとミッカは少し照れながら答えた。
『…えっと、ね。笑わないで聞いてくれる…?』
『おう』
間髪入れずに返事をするコル。
意を決したかのようにミッカは言った。
『…竜、なんだ…。昔一緒にいたことある…黒い、竜の子供…』
それを聞いたコルは大笑い。
笑わないって言ったのに。
「ごめんごめん。竜が友達って、びっくりしちゃって」
「知らない!」
ぷいっとそっぽを向くミッカ。
近くにすり寄って謝るコル。
「なにかあてがあんの?」
「…ない、けど…」
「ないのに探しに行くって?」
「…うん…」
当てのない旅。
しかし、父親の手掛かりはひとつだけあった。
ミッカが身に着けているペンダント。
そこに赤子のミッカと両親が写った写真が入っていた。
幼い頃に村の道具屋ザックから誕生日にもらったものだ。
ザックに両親の話を聞きながら育ったミッカ。
日に日に親に会いたい気持ちが強まっていったのだ。
「でもさ、竜を探すとしても、そいつ大きくなってない?」
「た、たぶん」
「竜なんてたくさんいるのに、その中から探せるん?」
「む、胸のあたりに傷があったはず!あと首にも!」
幼い頃の記憶を思い出す。
少女のミッカにとってはあまりに刺激が強すぎた記憶
「…ふ~ん、傷か」
「そう傷!それで見分けられるはず!」
「治ってたら見分けつかないじゃん」
「…あう…」
しゅんとするミッカ。
やれやれと肩をすくめるコル。
「見つかるよ」
「…えっ?」
突然励ましてくれるコル。
「だって絶対探し出すんだろ?親もその竜の友達もさ」
「…うん!」
「じゃあ見つかる。問題ない」
「…ぷっ!なにそれ」
突拍子もないコルの言葉に笑うミッカ。
ニカっと笑いかけてくれるコル。
「ありがとコル。励ましてくれて」
「べつに~」
時は昼時。
ぐるると腹の虫が盛大に鳴るコル。
「はらへった」
「ごはんにしよっか」
コルは木陰に荷物を降ろし
ミッカはそこから食材を取り出す。それを見たコルは
「え~干し肉~?ミッカのパンは~?」
「贅沢言わないの!干し肉なんて高級品よ?日持ちもするし」
「うぇ~、苦手なんだよなぁ~…」
「じゃあコルはお昼抜きね」
「うえ、くうよ。くうくう」
ガニガニと干し肉を頬張る二人。
次の目的地までまだ時間がかかることだろう。
ミッカは地図を広げて場所を確認する。
「で、どこにまず行くって?」
「ここみて。今歩いているのが多分このあたりだから…」
つーっと指で地図をなぞると
「ここにパドルって小さな町があるの。そこで宿をとりましょう」
「宿って、日が暮れる前につくのか?」
「…たぶん」
「ふぃー…」
一呼吸して空を見上げるコル。
このペースだと間に合わない。
そう判断したコルは大きな荷物を片手で軽く持ち上げると
干し肉を齧りながら
「おんぶ、してあげよっか?」
「結構です!」
二人はまた歩き出す。
目指すはパドルという町。
二人は小走りで目的地を目指す―
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