『希望の一歩』

『何やってんだお前はぁあ!!』


うつむくミッカを怒鳴る道具屋


滅竜隊が山から帰ってきたかと思えば


ミッカがなぜか兵士に手を引かれて一緒にいた。


『心配させんじゃねえよ…こんな時によぉ…』


少女を抱きしめる。


『ま、無事で何よりっていうか。そう怒んないであげて!』


明るくふるまうアルメイダ


『隊長も! ね?』


『………』


その表情からは怒りは感じられないが、無言。


『…あの、騎士サマ。ミッカが何かしたんでありましょうか…?』


恐る恐る聞く道具屋


少女は竜を匿っていた―


この国ではその罪は重く


たとえそれが少女のしたことでも許されることはない


『その少女は―』


アーバインが口を開く


『——山で迷子になっていただけだ』


そう言って道具屋の店から立ち去る。


少女はその後姿を見つめていた―





あれから数年後―—


ミッカは少し、大人になっていた。


ミッカは家で朝食を食べながら

分厚い本を熱心に読んでいる。


「—なあ、ミッカ」


一緒に朝食をほおばる長い黒髪の女性

その綺麗な黒髪は後ろで束ねてある。

女性は咀嚼するパンをスープで流し込むとミッカに声をかけた。


「おもしろいか?それ」


「うん!とっても!」


同居人の名前はコル。

ある日、村に流れ着いたもの好きな旅人で

よほどこの村が気に入ったのか

ミッカの家に居候するようになっていた。


ミッカが読んでいるのは竜の学術書。

行商人から値切りに値切って購入した貴重な本だ。


「ふーん」


ミッカの分のパンに手を伸ばすコル


「こら!」

「あてっ」


ぺちんと手をたたくミッカ。


「いーじゃん本読んでるんだし。スープ、冷めるぞ」

「食べながら読んでるもん」

「ギョーギ、わるいぞー」

「コルだって」


目を合わせてクスリと笑う二人。

コルは自分の食べ終えた食器を片付けると

席について大あくびをする。


「食後のミルク飲む?」

「おう」

「冷たいの?」

「あったかいの」

「はいはい」


小鍋にミルクを入れて火にかける。


温めたミルクをコップに注ぎ

ミッカはコルに手渡した。


「あんがと」

「熱いから気を付けてね」

「こどもじゃねーぞ」


ぐびぐびのどを鳴らしてミルクを飲むコル


「味わって飲んでよもう」


いつものことながらミッカは笑ってしまう。

あっという間に飲み干して


「んま」

「お粗末様でした」


食器を洗うミッカ。

平穏なある日の朝。

穏やかな日々を過ごしていた。



あれから竜はこの村に出ていない。

ミッカはあの日からずっと

思い出の洞くつに足を運んでいた。


もしかしたらまた―—


そう思いほぼ毎日洞窟へ通った。

しかし、そこに竜の姿はなかった。

雨の日も風の日も

暑い日も雪の日も

通えど通えど竜はいない。

――帰ってこない。



会いたい―—




そしてある日。



「よいしょっと!」


大きな荷物を背負うミッカ。

それを横から見つめるコル。


「なあ。ほんとにこの村を出るのか?」

「うん。もう決めたことだし」

「道具屋のおっさんがまた泣くぞー」

「ザックさんは心配性なだけだよ」



扉を開け外に出るミッカ。

それを待ってたかのように

腕組みをして立つ道具屋の店主。


「…本当に、行くんだな?」

「うん」


しばらく見つめあう二人。

そして大きなため息をする道具屋ザック。


「お前は昔っから言うこと聞かねえガキだからなあ」

「泣き虫なザックさんに言われたくないね~」

「おまえなあ…」


頭を掻きながら赤面するザック


「ほらよ」


ミッカの手に革袋を手渡す。


「これって…!」


中には金貨や銀貨が入っていた。


「こんなの受け取れないよ!」

「村の外じゃ金はいくらあっても足りねえんだ。もってけ」

「道具屋つぶれちゃうよ!」

「つぶれんわ」


強引にミッカの背荷物に金袋を突っ込むザック


「んもう!強引!」

「おまえほどじゃねーよ」


ぽんぽんと頭をなでるザック

ぷいッとそっぽを向くミッカ

こんなやり取りもしばらくできなくなるのかと

少し寂しそうな道具屋の店主。


「しかし、コルさん。あんたもいいのかい?」

「なにが」

「いやなにがって、あんた旅してんだろ?」

「今はしてないぞ」

「いやだから…」


ミッカに同行するというコル。

もともと自分も目的があって旅をしていたはずだが

ついでについていくと言い出したので

ザックは困惑していた。


「旅の先輩としてミッカはオレが預かろう」


「まあミッカ一人よりはいいけどよ…」


実際コルは腕っぷしがいい。

村中の屈強な男どもが力比べに挑んだが

すべてねじ伏せている。


酒に酔ったコルが

片手で大岩を粉砕した時には

度肝を抜かれた。


「はやくいこーぜミッカ」

「うん!」


村の外へ向かって駆け出す二人




道具屋ザックは心配性

親友から預かった娘を果たして旅に出していいものか―—




『旅!?いきなり何言いだすんだおまえ!?』


『決めたんだ。村にいちゃできないもん』


『駄目だ駄目だ!第一できないって何が!?』


『やりたいことが二つあってね』


『やりたいこと?それなら村で―』


『お父さん、探したいんだ』


『——————!』




ミッカがやりたいこと。

道具屋ザックは声を上げる


「ミッカ!!」


振り返る二人


「親父、絶対見つけろよな!!」


大きく手を振って答えるミッカ

両手を振って見送るザック


次第に二人の姿が小さくなっていく


「…ったく」


泣き虫ザックは


「…いつの間にそんなに大きくなったんだか…」


また、泣いていた。





「で、まずはどこに行くんだ」

黒髪をなびかせコルは聞いた。


「ここから道沿いに歩いていくと町があるんだけど」

「ど?」

「歩きだと、どのくらいかかるかなぁ」

「走れば?」


ミッカが背負う荷物を片手でひょいと担ぐコル


「かる」

「コルは力持ちだなあ」

「まね」



口笛を吹きながら歩くコル

ミッカも楽しそうに笑いかける


「あー、そそ」

「ん?」


コルはミッカにひとつ訪ねた


「もひとつのやりたいことってなに?」


「んふふ、それはね」


満面の笑みでミッカは答えた



―友達に、会いに行くんだ!—



目を大きくさせるコル。


そしてニカッと笑って



―いいね、それ―




二人は一緒に大きな一歩を踏み出した―

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