『別れ』
マンイーターと滅竜隊との交戦の最中
薄暗い洞窟を進む「二人」
傷ついた竜は一歩一歩足を踏み出し
少女はその小さな体で
大きな竜を押す。
竜の首元には布
少女は自分の衣服裂き
竜の血を止めようと巻き付けた
『…頑張って、クロ…!』
大切な友人を守りたい
少女はその一心だった―
少女が竜を匿っていた洞窟
実はもう一つ抜け穴があるのを少女は知っていた
滅竜隊から離れるには反対側の抜け穴に行くしかない
穴を抜ければその先は―
逃げなきゃ―
この子は何もしてない
もう少しで元気になるところだったのに
徐々に竜に入った毒が抜けたのか
動きも少しずつ軽くなる
しかし―
「…! 無理しないでクロ…」
竜を気遣う少女
首元から竜の血がしたたり落ちる
もうすぐ、もうすぐだから―
外から洞窟に吹き込む風が二人に知らせる
「—!」
出口が見えた。
外に出られる。
一歩一歩光へ歩みを進める二人
そして洞窟を抜ける。
目の前に広がる景色
広大な大地
そびえたつ山々
足元は
断崖絶壁。
空は暗雲
強い雨風が
二人の旅の
終わりを告げる―
少女は知っていた
もう逃げられないことなんて
それでも友人を守りたくて
最後まで理不尽にあらがった
泣きながら竜に抱き着く少女
「ごめんねえぇ…!!」
容易に想像できる結末
この後竜殺しの騎士たちが後を追ってきて
さっきと同じようなことが起きるだろう。
もうどうしようもない。
どうにもできない。
非力な少女が泣いてすがっても
竜殺しは剣を納めなかったのだから
「痛かったねえぇ…!怖かったねえぇえ…!」
涙があふれて止まらないミッカ
少女の夢―
二人が野をかけ
楽しく過ごすひととき
青空の下で
笑いあうささやかな願い
それはもう
かなうことはないだろう―
「やだ…いやだよぅ…!」
その場に泣き崩れる少女
誰もこの状況を
救うものはいない
竜がすり寄る
涙でぬれた少女の顔を
やさしく頬擦りした
「…クロぉ…!」
すると竜は少女に背を向け
翼を広げる―
「—え」
竜と目が合った
―ありがとう―
そう
言われた気がした―
「待ってクロ!!」
崖から空へ飛び立つ黒き竜
「私も連れて行ってぇえ!!」
竜と人が一緒にいてはいけない
これ以上少女を泣かせるわけにはいかない
自然の摂理がそうさせたのか
竜が自らの意思でそうしたのか
「クローーーーーーッ!!」
竜は大空をはばたく―
呆然とそれを見送るしかない少女
怪我は大丈夫なのか
飛んでいる途中で落ちたりしないか
せめて無事に飛んでほしい
本当は自分も一緒にいきたかった
でも其れが叶わぬのなら
友人の無事を祈る―
雨と風で黒く濁っていた空に
眩しい日の光が差し込む
さらば友よ
竜と人が争うこの時代に
愛をもって光を射した
やさしい「あなた」
あの日少女は
―竜と出会った―
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