『滅竜器』

『おい! ミッカを見なかったか!?』


村中を聞いて回る道具屋の店主

昨日の夕方から

ミッカを見ていない


『すいません騎士サマ!』


村を警護する滅竜隊の兵士にも聞いて回る


『このくらいの背で銀髪の女の子を見ませんでしたか!?』

「銀髪の少女? いや、見てないな」


焦る道具屋


『…こんな時に何やってんだよ…!』


滅竜隊が向かった山を見上げる


『—まさか』


山に立ち込める暗雲が


道具屋の不安を掻き立てた―






赤く燃え上がる木々と人

美しい山の緑は黒く焼け焦げて

鼻を衝く異臭が吐き気をこみ上げさせる

まるで戦場—

吹き付ける雨は

それを悲しむ涙のようであった



「…化け物…」



アルメイダは震えた。


アーバインの一撃は

マンイーターを両断するどころか

傷一つついていないように見えた。


これまで数々の竜と遭遇し

その恐怖をわが身をもって知ってきたわけだが

まさか―

「人」にここまで恐怖することがあったとは―


「そうでもない」


冷静に言葉を返すアーバイン

よくみればマンイーターは

アーバインが斬り込んだ脇腹を抑えている。

どうやら痛手は負ったらしい


しかし宝剣銀凪をもってしても両断できなかった鎧

そして火炎を吹き出す二刀の剣


「…滅竜器か」


滅竜器―

その名の通り竜を殺すために作られる武具

高純度の竜の素材が求められ

その加工技術は国家機密

また所有者も限定されており

持っている滅竜器で個人の特定さえ可能

盗品の使用、人への使用は―死罪。

それほど危険で扱いには厳重な滅竜器だが


「…あんな滅竜器…見たことがない…」


爆炎を操る紅蓮の二刀

竜殺しの一撃にも耐える紅の鎧


隣国の帝国、法国にもそのような滅竜器は

アルメイダも噂に聞いたことなどない


「密造か」

「まさか!?」


滅竜器の製法を管理しているのは国だが

その詳細を知るのは許された職人のみ

国の上層部でも知識としては理解しているのだろうが

作るとなれば話は別

国家機密の滅竜器製法が外部に漏れたとでもいうのか


「マンイーター、貴様」


アーバインが問いかける


「何匹の赤竜を殺した―?」


「——」


反転


アーバイン達に背を向けるマンイーター


「逃げるのか!?」


マンイーターは急な斜面を飛び降りる

姿が見えなくなる前にアルメイダも後を―


「追うな!!」


アーバインの怒声にすくむアルメイダ

彼が怒鳴り声を出すなど滅多にない。


「奴は逃げに転じたのではない」

「—え」


マンイーターが飛び降りていった

山の斜面に目を凝らすと


「————!?」


いた


天候で視界は悪いが

岩陰にこちらをうかがうマンイーターの姿が――


足先から虫が全身を這い上がるような不気味

奴は逃げたのではない

追ってくるのを待っているのだ

餌が山から下りてくるのを―!


そう奴は

まだ食い足りないのだ―


そしてマンイーターに漂う

燃えるような怒りと殺気―

あまりの邪気に言葉を失うアルメイダ。


「奴は私が見張る」


マンイーターを見下ろすアーバイン


「生き残った兵士を集め下山する」


下山する―

なんということだ

竜討伐さえできず

滅竜隊がたった一人の殺人鬼に

壊滅状態にまで追い込まれるとは。


竜を狩る前に人に狩られる―


「そうだ…竜と少女は!?」


洞窟のほうに振り替えるアルメイダ。


そこに





竜と少女の姿はなかった―

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