『どうして人は―』

『泣くんじゃねえ!!』


大泣きするミッカを怒鳴りつける道具屋の店主。


『お母さんに会いたいよお!!おとうさあああああん!!』


母親はミッカの産後に死別

父親は母親の死後すぐにミッカを道具屋に預けて行方知れず

親恋しさに泣くミッカ

幼い彼女には親の愛情が必要だった。

それに答えてやれない道具屋は苛立ちを隠せなかった。


『お前の両親はなあ―』


言葉を飲み込む道具屋

そして跪いてミッカをやさしく抱きしめる。


『お前の…両親はなあ…』


その眼には、涙—


『…お前を…ずっと…愛してるんだよ―』


その言葉の意味を、少女はまだ知らない―









「なんでこんなところに子供が!?」


驚くアルメイダ。

周りの兵士も困惑している。


なぜこんな山奥に子供が?


自分たちは竜を討伐しに来たはずだ。

山には竜がいる。

その危険性は村人も理解していたはず。

しかし、目の前には


少女が、立っていた―


いったい何が起きているのか

これから何が起きようというのか

兵たちに広がる動揺。



そんな状況下で

表情一つ変えないアーバイン。

それを睨みつけるミッカ。


さっきまで小雨だった山の天候も

風と雨脚が次第に強くなる―



「…君は、村の子供だね」


「………」


無言で返すミッカ。




―早くここからいなくなれ―


少女の眼は、そう言っていた。




すると洞窟の暗闇から覗く

赤い二つの光―


「…!? 出てきちゃダメよクロ!!」


まるでミッカの様子を見に来るように

竜が、その姿を現す―



「——黒竜!?」



離れた位置でもアルメイダはすぐにわかった。

周りの兵士も驚きを隠せない。


間違いなく12種が一匹。名を黒竜。

吐きつける黒炎は並の鎧では防ぐことはできず

体に黒炎をまともにくらえば命はない。

またの名を呪炎。

それを知る竜殺しは万が一腕に黒炎を浴びようものなら

体に黒炎が燃え広がる前に迷わず腕をたたき切る―


「…幼竜かあ~…でもシャレになんないわね~…」


流石にこれにはアルメイダも苦笑い。

なんでこんなところに12種が?

どうせ雑種と思っていた自分をぶん殴ってやりたい。

だって間違いなく、誰かが

―死ぬのだから。



竜を守るように抱き着くミッカ。

その光景を見下ろすアーバイン。


「竜を、飼っていた―とでもいうのか?」


この国において竜の飼育は重罪だ。

また知ってて竜や情報を隠すことも罪に問われる。

以前一部のもの好きが雑種の幼竜を密売しようとした案件があったが

そのものは斬首にて死刑。

竜はその場で「処分」された。


「この子は怪我をしてたの!!なにもしてない!!」

「それで?」


ミッカは怯えた。

アーバインの冷たい一言と

まるで汚物をみるような冷え切ったその眼差しに―



「こっちにきなさい」

「いや!!」

「その竜は危険だ」

「いや!!!!」

「すぐに」






―殺さなければならない―





その言葉を聞いてミッカは激昂する。




「なんで!!??」




ぼろぼろと涙をこぼしながら叫ぶ。




「この子は何もしてないのに!!??」




その言葉を放った相手を睨みつけて




「けがをして苦しんでいるのにぃ!!!!」




ありったけの声を振り絞って




「どうしてそんなひどいことするの!!??」






少女の訴えに






アーバインは静かに答えた。









    ―竜は、悪だからだ―









少女は理解できなかった。

目の前の男が何を言っているのかも

これから自分の「友人」を殺そうとしている

無慈悲な残酷も―





一瞬だった。


ミッカの体が宙に浮く。


アーバインは竜から少女を引きはがし

その体を易々と持ち上げると

口元を手でふさぐ。



「んんんん!?ンンンん!!!!!」



涙ながらに小さな手を伸ばすミッカ


しかしその手は


愛しい「友人」に届かない―





「隊長ぉおあああ!!」





吠えるアルメイダ。


黒竜がアーバインの足に目掛け

口を開けていた―!




とっさに飛ぶアーバイン。

黒竜のアギトを間一髪でかわす―—



そして後方のアルメイダに向かって少女を放り投げると



黒竜の背中に回り込む―!



瞬時に懐から金属の縄を取り出し

黒竜の口を縛り上げる―!



のたうち回る黒竜—!



―これで呪炎は使えまい―



それを全身で抑え込むアーバイン。


腰から短剣を引き抜くと

迷わず黒竜の首元に


刺し込む―!



「やめてえええええええええええええええ!!!!」



少女の悲痛な叫びは届かず

黒竜は次第に暴れなくなった。



短剣には『竜毒』が塗られており

これをくらえば竜はしびれて動けなくなる。

これにより竜殺しは安全に


竜の首を落とすことができる―



「ちょっとお嬢ちゃん!?暴れないでよ!」

「はなして!!はなしてよおあ!!」


アルメイダの腕を振りほどこうとするミッカ。

そして目にする。

目の前の男が自らの大剣に手を伸ばし

大きく振り上げる様を―



「—どうして」



泣き腫らした目で、少女は力なく言葉を発する

「—どうして」



―—人は竜を殺さなくちゃいけないの――



一瞬、アーバインの動きが鈍る



しかし―


再び力を込められた大剣『銀凪』は




―それに答える―

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