『邂逅』

『サラ・アルメイダ、入ります!』


勢いよく滅竜隊長の部屋の扉が開く


『本日より配属になりました!よろしくお―


『入れと言われてから入れ』


滅竜隊長殿は窓の外を見ながら

ピシャリと言い放つ。

アルメイダは慌てて姿勢を正し


『し、失礼しましたッ!』


部隊長に敬礼する。

緊張のあまり勢いよく入ってしまった。

それもそのはず、この部隊長は有名人。


(…この人があのアーバイン家の…)


アルメイダにとって憧れの存在。

若くして滅竜隊の隊長となった

正真正銘の天才。


彼女が滅竜隊に志願した理由

それは幼い頃、滅竜隊が故郷を救ってくれた。

そして当時の隊長こそアーバイン家の一族だったのだ。

生まれ故郷を救ってくれた滅竜隊。

それを率いていた竜殺しの名門アーバイン家。

彼女は必死に鍛錬を重ね

やっとの思いで滅竜隊に入隊できる所まで来たのだ。

それも配属先の隊長は名門アーバイン家の人間。

それなのに―


(…あちゃ~…どうしよ…いきなり嫌われちゃったかな…)


『アルメイダといったか』

『はッ!』

『肩の力を抜け』

『はっ?』


窓の外を見たまま話すケウス・アーバイン。


(…自分が緊張していることを気遣っているのかな…)


きっとそうに違いない。そう彼女は―


『あと寝癖も直せ』

『…ひゃっ…!?』


慌てて髪の毛を触って確認するアルメイダ。

後ろ頭の髪の毛が見事に逆立っていた。


(ななな!? こっち見てもないのに何でそんなことまでわかるの!?)


顔を真っ赤にしながら急いで手櫛で整える。


『寝癖はついていると仮定して言っただけだ、気にするな。

 君はいちいちあわてる癖があるようだ。

 まずは緊張をほぐす術を学ぶといい。

 だから肩の力を抜けといった』


相変わらず窓の外を見ながら話すアーバイン。

なんだか見透かされたような気がして

アルメイダもムッとしてしまう。

確かに自分はあわてやすい。

よく食器を落として割ったり

突然のことに驚いて慌てふためくこともしばしば。


(どういうことよ? そんなだから寝癖もついてて当然って言いたいの!?)


からかわれたというかなんというか―


『あわて癖が治らないと』


ようやく窓の外を見ていたアーバインが振り返る。

そして、アルメイダにこう言った。


『—竜に、食われるぞ』


その表情は、真剣そのものだった―







「3班、全員到着しました!」

「5班、全員到着しました!」


「おっけー! みんないるみたいだね」


副隊長アルメイダは人員の確認をする。

曇り空に青の色煙。青は集合の合図。

部隊は2班のもとに次々と合流していた。

1班も一早く2班に合流していたが


「あれれ? 4班のみんなは?」


「4班は捜索のルート上合流に時間がかかるかと。

 この険しい山道です。

 あと15分程は必要ですね」


「ま、それもそっか」


竜の捜索から半日。

手がかりが見つからないままであったが


「さて、アルメイダ。見つけたのか」

「そゆこと~。この近くにいるのは間違いないね」


詰め寄るアーバインにウィンクで答えるアルメイダ。

竜の痕跡を見つけたという。

足跡か、あるいは食事の残骸か。

竜の手掛かりは多岐にわたるが彼女は違った。


「—竜の、においがするよ」


彼女には特殊な力があった。

竜のにおいをかぎ分けることができる。

これまで彼女がにおいで発見した竜は数知れず

捜索や討伐、あるいは竜の襲撃に一役買っていた。

故に部隊からの彼女の信頼も厚いのだ。


「近いのか」

「かなり。でも風が出てるからもう少し上かも」


それを聞いたアーバインが兵士に指示を出す。


「これより1班と2班は先行して竜を見つける!

 3班と5班は4班と合流後

 速やかに後に続け!」


「「「はッ!!」」」


号令に答える兵士達。

先に上へと登るアーバイン率いる1班。

それに続くアルメイダ率いる2班。


曇り空と時折吹き付ける強い風。

兵士達の頬に、ちいさい雨粒が当たり始める。




「…降ってきたか」


アーバインが空を見上げる。

小雨が降る。

風も出てきた。

色煙を使うには少々効果が薄くなる天候。


「…隊長」


アルメイダが歩み寄る。

彼女が指さす先には―


「…あれか」


大きな洞窟が口を開けていた。

間違いない、あそこに



―竜がいる―



兵士達は思わず武器を構える。

周囲を警戒する。


—竜はどこから襲ってくる?


空か?

それとも風に揺られる木々に紛れて?

茶竜なら地面からということもあり得る。



兵士達の額から汗がしたたり落ちる。



「ここにいろアルメイダ」

「はい」


洞窟に向かって一人歩き出すアーバイン。

それを見守るアルメイダ。

彼女も竜の襲撃に備える。


アーバインの背中には自分の背丈ほどある大剣がある。

アーバイン家に伝わる家宝であり、希少金属で作られたその剣の名は

宝剣『銀凪ぎんなぎ

数々の竜の息の根を止めてきた剣。


宝剣に片手を添えて

アーバインは洞窟へ近づく。


一瞬の油断が命取り

それは本人がよく理解している。

しかし、その表情は物静かで

雨に濡れる宝剣もまた

ただ静かに、その刻を待つ―



「——————」



アーバインの足が洞窟の入り口で止まる。

兵士達に緊張が走る。

アルメイダもその様子を―



「———え」




アルメイダの視線の先には


アーバインの行く手を阻むように





一人の少女が、立っていた―

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