『反抗』

―はっ、はっ、はっ!


夜の山ほど危険なものはない

ましてやこんな険しい山道を登るなんて。

しかし一人の少女は駆け上がる。


明かりが消えぬように。転ばないように。

そしてあの洞窟にたどり着いた。


奥には寝息を立てて眠る幼竜。

息を切らせながら少女は幼竜に抱き着いて


『—絶対、守ってあげるからね』


「二人」はそのまま、夢を見るのであった―







「うおわあ!?」


山道で一人の兵士が足を滑らせる。

とっさに体勢を立て直すが、近くの兵士に手をつかまれた。


「なにしてんだ、さっさとあがれ」

「す、すまん」


―なんて山道だ。

道なんて道はない。

油断すれば谷底に落ちるだろう。


こちらはいつ竜と出くわしてもいいように武装している。

が、その重量はいくら鍛え抜かれた肉体を持っても厳しい。

それにこの険しい山道を登っていくのだ。

少しでも足場のいい個所を見つけて山を登りつつ

竜の襲撃に細心の注意を払わなければいけない―


「だらしないぞー男どもー!」


そう檄を飛ばす副隊長アルメイダ。

彼女は険しい山道を涼しい顔でひょいひょい登っていく。


「いたー!?」

「副隊長…!大声出さないでくださいよ…!

 やつらに気付かれたらどうするんですかァ…!」

「やっちまえばいいじゃん」


「…あなたという人は…」



滅竜隊は5つの班に分かれ山を登る。

1班には隊長アーバイン

2班には副隊長アルメイダが。

3~5班には腕の立つ兵士に指揮を任せている。


「煙は?」

「あがってません」


離れた隊員へ何かを知らせるときは色のついた煙を用いる。

手投げ式の小型爆弾でいざというときは武器にもなる。

悪天候や風の強い日だと煙が流され効果が薄いが

緊急伝達をするのに重宝していた。


「竜ちゃん、いないわねー。逃げちゃった?」

「油断しないでください。目撃情報は確かです。

 我々が王都から村に到着するまで9日ですから

 もし竜がこの地に住んでいるとするならまだ―


…ターン―



「…聞こえた?」

「はい。間違いありません。

 —色煙の音です」


アルメイダは素早く高所へ上り周囲を見渡す。


「副隊長!1班の方角に色煙!!」

狙撃兵が望遠鏡を構えて位置を知らせる。


「色は!?」

「黄色です!!」


「…なんかあったな~…?」



色煙の役割は色で決まる。

赤は交戦の合図。

青は集合の合図。

黄色は不測の事態が生じた合図。

緑は問題解決した合図。


そして黒が、竜発見の合図―




「…これは想像以上だな」


1班のアーバインは驚きを隠せない。

黄色の色煙の下では

異様な事態が発生していた。


「だれか―!!穴からひきあげてくれえ!!」

「おい何だこの足にかみついた金具は!?とれんぞ!!」

「しっかりしろ!—くそ、気絶してやがる!」

「くせえ!?兜の中になんだこれは馬の糞か!?」


落とし穴に落ちたかと思えば

山の上から大岩が転げ落ち

足を取られたと思ったら

木の上から大量の―—糞。


1班は謎のトラップに黄色の色煙を使った。

しかし、この罠についてアーバインは事前に周知していた―





「子供のいたずら、ですか」


山へ出発する20分前

アーバインは村の道具屋の店主から話を聞いていた。


「ええ。あの山には、その、獣用の罠を仕掛けているんですがね。

 村の悪ガキが悪用して大人を困らせているんですわ。

 騎士サマには山の捜索の邪魔になるかと思うんですが…」


「問題ないでしょう。

 念のため兵には罠に気を付けるよう私から伝えておきますが」

「あー…その、なんと申し上げたらいいんでしょう…。

 子供のいたずらと油断しないほうがいいです…はい…」




「ある意味、竜より厄介かもな」


子供と侮っていたことを反省するアーバイン。


「申し訳ありません隊長。まさか子供の仕掛けた罠がこれほどとは…」

「侮ったのは私の責任だ。

 立て直す。色煙をたけ」

「はッ!!」




2班は注意深くあたりを警戒していた。

兵士たちに緊張が走る。


「1班に何が…まさか竜に」

「大丈夫、だいじょうーぶ!黒じゃないし」


副隊長のアルメイダはまったく気にしていない様子。

竜の捜索に勤しんでいた。


「副隊長は心配じゃないんですか?」

「ぜーんぜん? 隊長あたしより強いし」


「副隊長!1班の方角より色煙!!」

「色は~?」


「緑です!!」


「ほらね?」



部隊は態勢を整え竜を探して山を登っていく。


その様子を遠くから見つめる少女ミッカ。




「…登ってこないでよ…! 帰ってよ…!」


竜を匿っている洞窟に徐々に近づいていく滅竜隊。

このままでは見つかってしまう。



少女は、焦っていた―

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