第5話 ネーミングセンスは重要です
「―――それでは、今から第一回・天使家家族会議を始めるわ」
「「「よろしくお願いします」」」
「えっ?よ、よろしくお願いします……?」
おいおい急に家族会議が始まったぞ。
どういうことだ?これ。誰かがなんかやらかしたりでもしたのか?
うーん、わからん。
取り敢えず今この場を仕切っている先に質問してみるか。
「なあさk―――」
「本日の議題は『新しい家族の名前』よ。よって、この会議を『緊急!天使家命名会議』と呼ぶことにするわ」
俺のことは完全スルーですかそうですか。
……いや、ある意味先に答えてくれたってことでもあるのか。俺の聞きたいことの答えになってたし。スルーしたってわけじゃないかもな。
つーか、『緊急!天使家命名会議』ってなんだよ。俺にはもう黒田永輔という立派な名前があるんだぞ!
抗議しようと思い、俺は立ち上がる―――前に会議が始まってしまった。
「じゃあ皆、早速案を出して」
そして、話は冒頭へと戻る。
「『緊急!天使家命名会議』を再開するわよ。さっき出された案から二つに絞ったけど、あなたはどっちがいい?『暗ノ助』か『黒太』の二つのうち」
……マジでその二つの中から選ばないといけないの?流石にそれはやだ。新しく名付けられるってのだけでも妥協してるっていうのに……。
コンセプトとして「黒」って感じの雰囲気にするのは良いと思う。俺もそれには賛成だ。
だとしても、その二つはないだろ。
『暗ノ助』はザ・陰キャって感じの名前だし、『黒太』とか安易すぎる。
自分の名前だ。そこまで我慢しなくていいだろう。
「両方とも却下」
「ええ~なんで~」
「いい名前だと思ったんですが……」
『暗ノ助』の発案者である楓と『黒太』の発案者の冷奈がそろって残念そうな声を出す。いや、本当にいい名前だと思ってたの?感性が俺と違いすぎて理解不能の域に達してるわ。
……で、両方とも却下するともう選択肢が無くなるんだよな。新しく案持ってるやつとかいねぇかな……ん?そういえば紗輝のやつ、この場を仕切っているだけでまだ案出してなくね?この中で一番しっかり……してるのは冷奈だけど、何となくまともそうだから一応聞いてみるか。
「あー、紗輝?お前さっきから仕切ってばっかで意見出してないだろ。なんか一つくらい案無いか?」
「えっ、私?……一応考えてなくはないのだけれど、ちょっと微妙だと思うのよね……」
「それでもいいからさ。とにかく、さっきの二つのどっちかになるのは避けたいから、頼むっ!」
楓と冷奈にグサッと何かが刺さる音がしたような気がしたが、まあ気のせいだろう。
「…………笑わないわね?」
「当たり前だろ」
「約束よ……私が考えたのは、『夜翔』という名前よ。黒っていうのから夜を連想したのと、後は能力が『黒い羽根を操る』というものなので、『翔』という字がいいかと思って……どうかしら?」
……今までで一番良くね?ってか、めっちゃカッコいいじゃん。さっきの二人とは大違いだ。
素晴らしすぎて言葉を失っていると、紗輝がめちゃくちゃ不安そうな顔でこっちを見てくる。
「ど、どう?」
「採用」
「え?」
俺が即答すると、紗輝は目を丸くした。
これはもう完全に採用ですね。みんなの表情もそう言ってる。知らんけど。
「な、何で……」
「え、だってめちゃくちゃいい名前じゃん。気に入ったし」
「あ、ありがとう……」
まだ紗輝は戸惑っているようだが、それでも少し照れてるっぽかった。
天使夜翔。俺の新しい名前。
本当の家族がつけてくれた、新しい俺の名前。
その名前は、自分の居場所、自分の帰ってきていい場所を示してくれているようで、体の中がポカポカと温かくなる気がした。
しばらくその感傷に浸っていたかったが、紗輝が照れ隠しをするように「じゃ、じゃあ『夜翔』で決定ということで……」と言って、この会議を終わらせたことで少しかき消されてしまった。
天使になったので、『世界』を管理します。 香珠樹 @Kazuki453
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