第4話 俺の能力は――

 陽奈の向かった部屋は特殊な造りをしているらしく、その中ならどんな攻撃も外に影響を及ぼさないという。仕組みはよくわからん。


「……じゃあまず私が『能力』を発動させるね。―――【臨戦形態・赤フォルム・レッド】ッ!」


 するとそれまで陽奈の着ていた服(オフィス内での制服らしい。他の三人も同じような服を着ている)が炎に包まれ、赤いドレスへと変貌した。

 背中からは大きな翼が生え、その装いはどこか神々しさを感じさせる。

 うわぁ……すげぇ……かっけぇ……!


「……とまあこんな感じに変身するよ!多分だけど、お兄ちゃんの場合なら能力名から考えて【臨戦形態・黒フォルム・ブラック】って言えばいいと思う!」


「おお、サンキュー陽奈」


 頭を撫でると嬉しそうに笑うので、見ているこっちまで癒される。

 そして、一旦陽菜に少し離れてもらい、俺も『能力』を発動させる。

 初めての『能力』発動に、俺の心臓はバクバクだ。

 大きく息を吸い込み―――叫ぶ。


「【臨戦形態・黒フォルム・ブラック】ッ!」


 すると今まで来ていた学校の制服が黒い羽根に包まれた。

 視界が羽根で覆われたと思ったその瞬間にはすぐに消えたが、体を包んでいるものの感触が変化している。そして、背中にはさっきまでなかった重さがあった。

 ちゃんと発動できたようだ。


「おお!お兄ちゃんかっこいいよ!」


「そうか!……ちなみにどんな服装なんだ?」


「……恐らくタキシード、だと思います。似合ってますよ」


 後ろに控えていた冷奈が代わりに答える。

 ……タキシードか……着たことないし、ザ・正装って感じだから、何となく緊張するな。

 そういえばタキシードって燕尾服とか言われるよな。ってことは俺は燕の化身みたいな感じなのか?……いや、燕の化身って何よ。俺は天使だっつーの。

 そこに紗輝が来て、俺に何かを見せる。


「……これ、鏡だから。見たかったでしょ?」


「あ、ああ。ありがとう、紗輝」


 恐る恐る鏡に映る自分を見ると……自分で言うのもあれだけど、結構似合ってねぇか、俺。

 きりっとした装いで、まるで執事のようだ。……だが、何故か俺の翼は黒い。かっこいいからいいんだけどね。……もしかして本当に燕だったり?まあ、それはないか。翼の形違うし。

 思わずポーズを決めそうになるが、周りに人がいることにギリギリ気付き、恥をさらさずに済んだ。


「それじゃあ次は『能力』を実体化させるよ。【生成ジェネレート】ッ!」


「じぇ、【生成ジェネレート】ッ!」


そして、陽菜の手には火でできた長剣が現れた。

さて、俺はどうなっているのだろうか。

少なくとも正面には何もないようだ。……あれ、それって大丈夫なのかな?

ちょっと焦りながら周りを見ようと後ろを振り向くが―――


「うわぁっ!」


 俺の後ろには無数の黒い羽根があったのだ。


「実体化させたら、何となくだけどその『能力』の使い方が分かる気がしてこない?」


 ……確かにそんな気がする。

 もともと知っていたかのような感覚がしてきたので、陽菜の問いかけに対して行動で示してみることにした。

 どうやら、俺の『能力』は『黒い羽根を自由に操る』といったところだろうか。


 ……って、地味!


 黒なんだからせめても「影を操る」とかにして欲しかった……って、あれ?なんかそれだけではない気がする。靄がかかっているみたいに、はっきりとしていないが確かにそこに何かある感覚だ。

 ……まだ使うことのできない能力といったところだろうか。まあ、とにかく今はわかっている範囲で試してみよう。


 俺は黒い羽根の動きをイメージして動かしてみる。

 まずは……そうだな、前に打ち出してみよう。

 腕を前に伸ばし、黒い羽根が打ち出されるのをイメージする。

 すると、後ろからものすごい勢いで羽根が飛んで行った。まるで、幾つもの矢を一気に飛ばしたようだ。


 羽根が壁に当たり、キンッという音が幾重にも重なって耳に届いた。……もしかしてこの羽根、硬いのか?

 試しに一つ手元まで持ってきてみる。……うん、硬い。鉄でできているみたいだ。


「……黒い羽根を操る能力、といったところね」


「たぶん正解だ」


「……たぶんって何よ。はっきりしなさい」


 紗輝が睨みながら詰め寄ってくる。……いや、近いって!

 いくら兄妹って言っても、ついさっきまでは赤の他人だったわけで、そんな状況で美少女に詰め寄られると、なんか、その……照れる。


「何顔赤くしてんのよ」


「イタッ!痛いって!ほっぺつねるのはやめて!」


「いーじゃないか紗輝。彼だって男の子なんだから、美少女に寄られると照れちゃうんだよ〜」


「そうなの?」


「…………」


 いや、これどう答えるのが正解なのよ!

 これで照れてるって言うのは楓に負けた気がしてイヤだし、かと言って他の理由ないし……。まあ、目逸らした時点でアウトだけど。


「はぁ……まあいいわ。それで、何ではっきり言わなかったのよ」


「それはだな……なんというか、自分でもまだわからない『能力』がある気がして……こう、頭の中に黒い靄がかかってる感じで……」


「……私達にはそういうことはないですね。使い方とかは最初からはっきりわかってました」


「だよなぁ……」


 何となく不安になってくる。

 得体の知れない『能力』とか、ただただ怖いだけだし。


「んまあ、うじうじ悩んでたってわかんないものはわかんないんだから、諦めようよ!『今は』まだわかんないだけであって、きっといつかわかるようになると思うし。……それより、能力の確認も終えたことだし早く“例のあれ”、始めようよ!」


「ん?なんだよ“例のあれ”って」


「まーまー座ってよお兄ちゃん!」


 陽奈にぐいぐいと押されて部屋を出て、五つの向かい合っている机の一つに案内される。

 五つなので一人だけいわゆる“お誕生日席”と呼ばれる場所に座らされた俺は、何が起こるのかわからず期待と不安が半々の状態だ。……もしかしてタイミング的に、俺の歓迎パーティとかかな?うほっ、マジかよ!めっちゃ楽しみになってきたじゃねぇか!

 ……とかいう俺の期待は裏切られました。それはもう、予想の斜め上に言った感じで。



「―――それでは、今から第一回・天使家家族会議を始めるわ」

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