第3話 天使のお仕事
「黒田永輔さん、あなたも天使です。……要するに、あなたを含めて五つ子です」
「………………え?……ちょっと待て、俺が天使?どういうことだ?俺は普通の人間のはずだ」
「いえ、あなたは天使なのです。ちなみに言うと、あなたの親は女神です」
「……は?ちょっとついていけないんだが……」
「……ああもうまどろっこしい!お兄ちゃんは天使で陽奈達と兄妹なの!わかった⁉」
俺が全然理解しないことにだんだんとイラついてきたのか、陽奈が怒鳴る。……でも、怒り方がほっぺをプクーッと膨らませる可愛らしい怒り方なので、迫力は皆無だ。
だが、陽奈が簡潔にまとめてくれて、何となく把握は出来た。
どうやら俺は人間じゃなかったらしい。
でも、理解ができるのと信じられるのは別だ。
もちろん信じているわけがない。この現代日本でそんな非現実的な存在がいるわけないだろ。どうやら、俺は夢を見ているようだな。
ま、悪い夢じゃないし変にほっぺたつねる必要もない。……ってか、ほっぺたつねって「痛っ!ということは……夢じゃ……ない?」みたいなテンプレ台詞、よくあるよな。夢ん中でつねってるんだから痛みの有無なんて好き勝手出来て、夢かどうか確かめる手段になってないのに。……実際に夢の中でほっぺたつねったことないから、この考えは俺の想像だけどね。経験者の方、誰か教えてください。
そしてこの状況が夢だと割り切ったはずの俺に、緑色の髪の楓と呼ばれていた少女がニヤッとした笑みを浮かべてきた。
「……君、もしかして夢だと思ってる?」
「……まあ、そりゃあこんなの現実だとは思わねぇよ。突然知らない場所に来たと思ったらそこに美少女が四人居て、俺と兄妹だなんて言い出すんだぞ?おまけに天使だとかいう人じゃない存在だなんて言われて、そんなん現実だと思うわけないだろ」
「んー、まあ言われてみれば確かにそうだね―――でも、これは紛う事なき現実だよ。君は私達と兄妹で、人ならざる存在。簡単に受け入れられないかもしれないけどね」
彼女の瞳は真剣そのもので、少なくとも嘘をついているわけではないだろう。
少し落ち着いて考えてみよう。
本当に現実だとしても質の悪いドッキリかもしれないという考えもあったのだが、それは違いそうだ。
そして、夢というのも違う気がした。
夢は自分の中にある願望などが表現されるらしい。
でも、俺はこの人たちを知らない。知らなければこんなはっきりと表現されないだろう。
そして、天使になりたいという願望はない。……もしかしたら心の奥底では思っているのかもしれないが……いや、ないな。男の天使なんて誰得だよ。
そしてなにより―――こんなに真剣に現実だと思わせる意味がない。
まだ完全に現実だと認めたわけではないが、少なくとも今のところは認めざるを得ないだろう。
俺はほっぺたをつねってみる。……痛いな。
こういう時にほっぺたをつねる人の気持ちが分かった気がする。実際につねったんだけどね。
「はぁ……取り敢えず、ここが現実だってのはわかったよ。まだ完全には信じてないけどな。……それで、もう少し情報が欲しい。ここがどこなのかってことや、天使についてもっと知りたい」
情報がなければわかるものもわかんないしな。
すると今度は紗輝と言うらしい少女が説明を始める。
「ここについて説明するには、まず私達『天使』について説明する必要があるわ。……まず、天使っていう存在はさっき言ったように『世界』を管理しているの。あなたのいた『世界』―――ここではWC0って呼んでいる『世界』や、他にも無数にある『世界』の平和を守っているといったところかしら」
「ちょ、ちょっと待て。……ということは、いわゆる『異世界』ってのが存在するってことか?」
「ええ、存在するわ」
「…………もしかして、魔法とかも本当にあるのか?」
「ええ、あるわよ」
「…………わぁお」
男なら誰しも一度は憧れる『魔法』。それが本当に存在していただなんて……。
思わずガッツポーズしかけたが、頑張ってこらえる。もちろん、心の中では大きくガッツポーズ。
俺も使えるのかな?
「あ、でも、あなたのいた『世界』―――WC0の人々は使えないわ。WC0には魔力がないもの」
「マジかよ……」
一瞬でテンション下がっちまったわ。どうしてくれんだよさっきまでの興奮。
……ん?でも魔力って漫画やラノベでは空気中にあるっぽいよな。もしかしたら魔力があれば俺も使えるってことか?
「……逆に言うと、魔力さえあれば誰でも使えるわ。WC0に魔力がないだけで、他の『世界』に行けばWC0の人でも魔法を使うことが可能よ。」
「……よし」
あ、思わず声出ちまったわ。……まあいいけどさ。
ってか、なんで俺達の『世界』だけ魔力がないんだ?不平等だろ。みんな憧れてるのに。
まあ聞いてみるか。
「なあ……紗輝。WC0?には魔力がないんだ?」
「……それはわからないの。数ある『世界』の中でたった一つだけ、魔力のない世界。どうしてそうなっているかはお母さんでも知らないみたい」
へぇ……女神さまでも知らないのか。そりゃ不思議だな。
すると、紗輝の後を冷奈が引き継ぐ。
「ちなみにWCというのが『ワールドコード』の略で、一つだけ魔力のない『世界』なので例外として考えているため『0』となっています。他の世界は『1』とか『2』とかです」
「おお、サンキュー……冷奈」
無意識に手が伸びて冷奈の頭を撫でようとする。
ヤバい、と思ったがもう遅く、俺の手は冷奈の頭に触れてしまった。
だが冷奈は一瞬ビクッとしたが、その後は視線を下に下げ、恥ずかしそうに俯きながらも甘んじて受け入れてくれた。可愛い。何、この子天使?……天使でしたね。
「あ、ズルい!陽奈も!陽奈も撫でて!」
「はいはい」
そう言って陽奈が寄ってきたので、冷奈を撫でる手とは別の手で撫でる。
早速お兄ちゃん気分だな。そして妹(同い年)が天使とか、最高すぎるだろこれ。
そんな風に幸福に浸っていると、紗輝から冷たい目で見られた。
「……何ニヤついてるの?気色悪い」
「気色悪いとか言わないで⁉確かにニヤついちゃったのは事実だし気色悪いかもだけど、しょうがないじゃん。今まで妹どころか本当の家族すらいなかったんだから!」
「あ……うん、そうよね。ごめん。……何なら私も撫でる?」
「いや、ここは逆に撫でてあげよう!ほぅら、なでなで~」
「やめろ……楓!」
髪の毛が乱れるから、撫でないで!……いや、撫でてほしくないわけじゃないけど、少なくとももっと優しく撫でて?そんなわしゃわしゃしないで?もはや痛い。
俺が楓の手から逃げ、ちびっ子(同い年)達の頭をポンポンと叩いて終わりを告げ、紗輝が「なでなでしやすいように」と下げていた頭をぐいぐいと押し戻し、やっとこのカオスな状況が終わった。
「はぁ……疲れたわ。……つーか、結局『世界』の管理って何してるんだ?」
俺は脱線していた話を元に戻す。
……やっぱり、神話に出てくるみたいにおっきな戦争の中に現れて仲裁するみたいな感じかな?そして人々は首を垂れる……何それ憧れるわ。
「簡単に言うと、異世界転生及び異世界転移など、その『世界』以外からの侵入を防ぐの。例えばWC0からWC1に誰かが異世界転移したとすれば、私達はWC1に行ってWC0から来た人を拘束。そして元居た世界―――この場合はWC0に戻すのが私たち天使の役目。後は、結構起こることは稀らしいんだけど、『世界』を壊しかねない行為―――例えば強すぎる生物が現れて、その『世界』の生物がほとんどいなくなってしまうみたいなことが起きた時に、その生物を排除するって感じよ」
「……ああ、確かに『世界』を管理しているな」
戦争の仲裁とかより凄いな。
それを自分達がやるって考えると……うわぁ、なんか緊張する。
ってか、異世界転生とかってホントにあるんだな。ラノベの中の妄想じゃないんだ。
「……ちなみに四人はもう『管理』したことあるのか?」
もしあったら先輩としていろいろとアドバイスをもらおうと思い、そんなことを質問してみる。
「いや、まだだよ。陽奈達が『管理』を始めるときにお兄ちゃんの存在を教えられて、急遽お兄ちゃんも一緒に『管理』することになったんだよ」
「はい。……ですから私達も今日が初仕事なんです!」
「あ、でも『管理』するための練習はしてあるからね!質問してもいいよ~」
「まあ、始めのうちは私達がやるのを見ていてくれればいいわ。その間はしっかりと『管理』できるように練習してもらうから」
「お、おう。わかった……。で、練習って何?」
『管理』するための練習。何するんだろ?
色々と覚える必要があるのかな?俺勉強苦手だけど大丈夫?
「練習っていうのは、まあ基本的には『能力』の制御。後はここ、『オフィス』にある機器の使用方法を覚えるくらいね」
俺は今自分のいる部屋をぐるりと見渡す。
パソコンのような画面にキーボードらしきものが付いた機械や、壁一面のスクリーン。
……なるほど、確かにオフィスみたいな雰囲気だ。まだ高校生だから本物見たことないけど。
それにしても、さっき紗輝は『能力』って言ったよな。
俺にも何か『能力』があるのだろうか?
「俺の、その……『能力』?ってのは何なんだ?」
「えーっと、黒田永輔の『能力』は《黒》よ。そもそも『能力』っていうのは誰しもが持っている『力』を表したもので、それはWC0の人にも適用されているわ。但し、『天使』は例外。能力名が色で表されていて、具体的な能力は使ってみないとわからないけど、他の人たちよりは強力になるようになってるはずよ。ちなみに私は《白》で光を操れる『能力』、具体的には光線を打ち出すとかね」
「陽奈は《赤》で炎を操るんだ。いつもはその炎で長剣を作ってるよ」
「私は《青》で水全般を操ります。主に氷の短剣で二刀流にして戦いますね」
「んーと私は《緑》で風を操るよ。特に決まった戦い方はないかな」
へぇー、なんか凄いな。
強そうな能力ばっかだし、これは俺の能力も期待できそうだな。
黒だし……影を操るとか?……おお、なんか強そうだしかっこいいな。
「えっと、どうしたら『能力』が分かるんだ?」
「はいはい!陽奈がお手本見せる!」
陽奈はそう言って『オフィス』の端っこにある部屋に向かった。
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