第2話 天使って言ったらやっぱり美少女だよな
電車を降りると、既に空はオレンジ色に染まっていた。
秋は夕暮れ。清少納言の残した言葉に俺は大賛成だ。……まあ他の季節の夕暮れとの違いが全く持ってわからないけど。
俺は少し学校から離れているが、田舎というほどではない穏やかな住宅街で一人暮らしをしている。
俺には家族がいない。
産まれてすぐに捨てられたのか、物心がついたときから孤児院で育った。
しかし、ちょうど幼稚園に入学するくらいの年齢になったとき、運良く裕福な年寄夫婦に拾われ、そこからは普通の子どもと同じように暮らすことができていたのだ。
俺が小学校四年生になるころに、父親代わりのおじいさんが他界し、中学を卒業するころ、大体一年前におばあさんが後を追った。本当の家族では無かったが、二人からはすごくたくさんの愛情を貰うことができたため、広い家に誰も居なくなったのはとても寂しかった。
そんな俺の心の拠り所は自然と高校に移った。
誰よりもテンションを高くして、寂しいと思うことのないように周りに友達をたくさん作り、隆治という親友までできた。
喪失感はまだ消えていないが、日々を楽しく生きれているだろう。
ふとスマホを取り出して、最新の写真を見る。
今日の放課後に隆治達四人で撮った写真だ。皆片手にそれぞれのクレープを持ち、楽しそうに笑っていた。
「青春、ちゃんと楽しめてるな……」
最近の日々を思い出して、思わず頬が緩む。
四人でいる時間が楽しいおかげで、寂しさを感じることは少なくなってはいる。だが、心に空いた穴は埋まらない。……いや、元々何もなかった平坦な場所に窪みができているという方が正しいかもしれないな。
無理矢理作った窪みは、どうやら青春だけじゃ埋められなさそうだ。
そんなことを考えていたからだろうか、不意に脳内で声の響く感覚がした。
『……これが私達の新しい家族なの?なんか、普通って感じね……。見た目的に“兄”って感じかしら』
幻聴ってこんな感覚なんだな。頭の中に声が広がっていくようで、不思議な感覚だ。
……それにしても、「兄」か。
俺は妹を求めているのだろうか?
確かに妹っていう存在は欲しいな。自分を慕ってくれるかわいい妹とか。絶対に可愛がるという自信があるぞ。
『……何かニヤニヤしてますね。どうしたんでしょうか?』
ニヤニヤ……?
思わず口元を確認。マジかよ、ほんとにニヤついてんじゃん。周りに人いなくてよかったわ……。
『まあ男子高校生がニヤつきながら考えることなんて一つしかないからねぇ』
いや、さっきの思考回路はいたって健全だったはずだ。俺はただ可愛い妹っていうのを想像してただけだからな!
……って、ん?
『もうお姉ちゃんたち!とりあえず呼ぼうよ!陽奈、早くおしゃべりしたい!』
……は?陽奈?誰それ。流石に脳内に妹を作るほどの想像力は持ってないぞ。
って、呼ぶ?どこに?
つーか、そもそもこれ幻聴じゃなくね?
ってことは……どういうことだ?
何もわからないまま困惑していると、いきなり体を吸い取られるような感覚がした。
思わず目を瞑るが、その奇妙な感覚はすぐに消える。
目を開くと……そこには先ほどまでとは違う景色が映っていた。
え、ここどこ?
「お!来た来た!」
そして、目の前には知らない人がいた。
誰?ってかこの人めっちゃ美人じゃん。髪の毛緑色だし、何者?
急激な視界の変化に驚いていると、新しくもう一人現れた。
「全く……。楓、いきなり人が現れたらみんな驚くのはわかってるわよね?この人だって困ってるわよ」
「あはは~」
楓と呼ばれた人はへら~と笑いながら頭をかく。
そして「楓」と目の前の美少女を呼んだ人の方を向くと、そこには金髪の美少女がいた。
……って、だからこれはどういう状況なんだよ!誰か説明して!
俺が困った顔(多分)をしていると、今度は二人、新しく俺の視界に入ってきた。こちらは青い髪と赤い髪の美少女―――え、なんか全員レベル高くない?
突然こんなところに来たことといい、この美少女たちといい、何なんだよここは!天国とか言わないよな?
すると俺の困った顔が通じたのか、青い髪の少女が助け舟を出してくれた。
「あの、紗輝姉さん。この人、説明戸惑っているみたいなので早く説明してあげた方がいいと思いますよ」
「あ、そうね」
そして「紗輝姉さん」と呼ばれた金髪の美少女が俺の方に寄って来る。どうやら、この人がこの中で一番偉いみたいだな。
「初めまして……なのかしらね、一応。私たちは天使。あなたのいる『世界』やその他の『世界』を管理しているわ」
「は、はぁ………?」
え、天使?どゆこと?
確かに顔はみんな可愛いし天使って形容されてもおかしくないけど、『世界』を管理しているって言った?意味わかんない。
「ちょっと紗輝お姉ちゃん、説明下手過ぎ!いきなりそんなこと言っても伝わるはずないでしょ!」
「あ、そうね。名前言ってなかったわ。私は
「……そういうことじゃないよぉ」
赤い髪―――陽奈と呼ばれた少女が頭を抱えている。わかるぞ、その気持ち。俺も抱えたい。
それにしても、五つ子って言ったか?それにしてはここに四人しかいないように見えるが……。
そんな俺の心の中の疑問に答えてくれようとしたのは、青い髪の冷奈と呼ばれた少女だ。さっきといい今といい、俺の心の中が分かるのかというほどのベストタイミングだ。
だが、その答えは俺の疑問を膨らませることとなった。
「黒田永輔さん、あなたも天使です。……要するに、あなたを含めて五つ子です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます