第1話 青春は全力で楽しむもの
午後の授業が終わると、再び人々は動き出す。
放課後の予定について複数人で騒ぐグループ、そそくさと帰りの支度を始める人、様々な種類がある。
例に漏れず、俺も立ち上がってとある生徒のところへ行く。
「おーい隆治、授業終わったからそろそろ起きろー」
「……ん、永輔か。おは」
こいつは杉原隆治。恐らくクラスで最も仲のいい奴だ。
学校へ来れば昼の時間以外はずっと寝ている。いつの間にか学校へ来ていて、いつの間にか学校から姿を消している、影の薄い生徒である。
隆治とは中学の頃からずっと同じクラスという関係だ。
だが、ずっと一緒なので隆治には友達がいないということを知っている。
彼自身が他人に興味を示さず、人と関わろうとしないためそれも当然なのだが、腐れ縁程度の関係だった俺はなんとなくだが隆治と一緒にいる時間を増やしてみた。
すると、これが意外と楽しかったのだ。
俺が軽くボケれば鋭く切り返してくれるし、少々天然が入っているのか行動が予測不能。一緒にいればいるほど楽しいと思うことが多かった。
そして隆治は俺の親友となった(勝手に決めたが)。
「それで、今日はどうしたんだよ。俺の貴重な睡眠時間を奪ったんだから、それ相応の話なんだろうな?」
「いや、隆治君とただお話したいと思って……だめ?」
「だめ。男子がそれやってもキモいだけだから、出直してください」
「えー事実なんだしいいじゃん」
「事実なのかよ!」
とまあこんな感じのやりとりが日常だ。
「で、冗談は置いておいて、今日放課後暇だよな?駅前のクレープ屋、新作出たらしいから行くぞ」
「俺の予定ないって決めつけてるよな……まあ何もないから行くけど」
クレープは俺の大好物だ。
仲良くなってからめちゃくちゃクレープを勧め、何度もクレープ屋に連れて行ったので隆治もハマってしまったらしい。
それからというもの、よく隆治と一緒にそのクレープ屋に行くようになったんだが……
「な〜に〜?また男子二人でクレープ屋行くの?それなら私達も誘ってよ〜。やっぱ男子二人だけだと寂しいでしょ?」
「賛成。因みに奈津美は『仲間外れにされるのは寂しい〜!私も永輔とクレープ食べたい〜!』と言いたいようです」
「いや、違うから!恵理、変なこと言わないでよ!永輔も信じないでね!」
そう言いながら隆治の机に二人の女子がやってくる。
セミロングくらいの長さの髪で、どこか垢抜けているような見た目の方が岸奈津美。俺の幼馴染だ。彼女の親友の宮島恵理曰く、彼女は俺のことが好きらしい。……まあ七割程度しか信じてないけど。
そして、今奈津美の隣りにいるのがその情報提供者である宮島恵理だ。
黒いボブヘアに黒縁メガネ。隣りに奈津美がいるのもありかなり地味な印象を受ける。無口で成績優秀なのだが……少しポンコツ要素が含まれていて、秘密などもポロッとこぼしてしまう。一番その被害を受けているのは一緒にいる奈津美だろうな。
この二人は一緒のクラスになってからというもの、俺と隆治の元へよく絡んでくる。俺が恵理の情報を七割も信じているのはそのせいだ。……一応言っておくが、俺がナルシストな訳ではない。……少なくとも俺の意識の中では、だが。
「何だ、奈津美も一緒に行きたいのか?それならそう言えばいいのに。……もし二人で行きたいとかなら、誘ってくれれば行くぞ?」
「えっ、ほんとに!じゃあ……って何言わせてんのよ!皆で行きましょ!み・ん・な・で!」
うん、恵理の情報の信憑性が八割になった。
「あ、私今日予定あるからパスにします。また今度行きましょう皆さん」
「んじゃ俺もパスで。奈津美と永輔、二人で行ってきな」
「え、ちょ恵理!今日予定無いって言ってたじゃん!」
「急用が出来ました」
「そっか……ならしょうがないな。奈津美、俺と二人だけどクレープ食べに行かないか?」
「えっ?えっ!」
奈津美は一度焦ったそぶりを見せたが、すぐに自分を取り戻したのか俺たち三人にジト目を送ってくる。
「……私をからかった罪は重いわよ」
「ほう。もしかして奈津美は『からかったんだから責任取って結婚してもらうわよ』と言いたいのですか?」
「そっ、そんな大胆なことするわけないでしょ!……(言うとしてもせめて『付き合いなさい』くらいよ)」
最後の方に言った言葉はよく聞こえなかったが、さすがに俺もからかっただけで結婚要求はないと思うぞ。
取り敢えず話が脱線しかけているので軌道修正しなければな。
「ま、奈津美弄りはこの辺にしとこうぜ。奈津美にはクレープ奢るから、それでチャラな」
「えっいいの?……最近金欠だから助かるわ……」
おい、金欠なのによくクレープ食べに行こうと思ったな。もともと奢ってもらう気満々だったのか?
すると丁度その時担任教師が教室に戻ってきた。そろそろ終礼の時間か。
「それじゃあまた終礼の後隆治の机集合な」
「おい、何ナチュラルに俺の机を集合場所にしてんだよ。別の場所でいいだろ」
「いーだろ別に。減るもんじゃないし」
隆治の場所に何かがあるわけではない。
ただ、いつも集まるのが何故か隆治の机になっているので、それに合わせただけだ。……いわゆる雰囲気ってやつだな。
「お前ら~終礼始めるから座れ~」
「もう始めるんだ。それじゃあね~、永輔、隆治」
「また後で、です」
「おう、また後でな」
担任が呼びかけを始めたので、俺たちは大人しく自分の席へと戻ることにした。
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