第2話 自己紹介は俺のターン
「ほらほら座れー。後ろの奴に私の美貌が見えないだろー」
「よく言う、先生。ってぅおー! まじ美人じゃん!」
教壇に立つ先生は、真っ直ぐな黒髪に大きめな瞳で、可愛い系の顔に薄い化粧、そして濃い灰色のパンツスーツ姿だ。
それと、背が小さい。
多分150センチメートル位。クラスの女子の中でも低い方だろう。
「そーそー。まじ美人だけど縮めてマジンとか呼ぶなよー。これ以上縮めると先生、小学生に間違われるからなー」
「今日からこのクラスの担任になる梅橋小鳥ですよー。社会科担当だから、社会はちゃんと受けてなー」
全体的に力の抜けたような喋り方をする先生だけど、不思議とその声はよく通っていると思う。
「それじゃー、端から自己紹介してくれー」
よしきたっ。いよいよ俺のターンだ。
相川新人、人生で自己紹介はほぼ最初だぞ!
「皆、俺の名前は相川・A・新人! 新しい人と書いてアラトだ、女子も男子もアラトって呼んでくれ。イニシャルは
よし、用意していたセリフは言い切ったぞ、どうだ!
黒髪イケメンの声で
「んー? 相川ー、出席簿にミドルネームの記載がないけどいいのかー?」
「小鳥先生、書いといてください。俺は
「先生は梅橋だけどまあいいかー。相川、正式なミドルネームは何だー?」
「Aです先生」
「んんん? エー何だー?」
「アルファベットのAですよ先生」
何を隠そう、中学までの俺は
いずれは名字がSで始まる俺の事が大好きな可愛い子と結婚して
今は理想のSを探している。
「そーかー。わかったー。先生は生徒の名前も大事にするぞー。じゃ、次の人自己紹介してー」
特徴的な先生の声を聞きながら黒板に書かれた文字を見返す。
むしろスーパーとかスペシャルより上のイメージがないか?
うん、Uも候補に入れていいかもしれない。
そんな事を考えている間にクラスの自己紹介は進んでいた。
まあ、可愛い子の名前はバッチリ覚えたからね。
そして最後の一人、窓際最後列の黒髪イケメンが立ち上がった。
前を見据える黒髪イケメンの銀フレームの眼鏡がキラリと光った。
こ、こいつ。まさか眼鏡に何か仕込んでるんじゃないだろうな。
見たものの強さを計るとか、嫌な相手に怪電波を送るとか。ハッ、もしや調べた能力を実は国の機関に送っているという可能性もあるのか?!
よし。それならお前のターン、俺はお前の手の内を全て探ってやる。
「
こいつ、座りやがった。
情報が名前だけだと?
いや、姿勢はいいと言うか身体全体のバランスがいい事から、普段から何かスポーツをやっているはずだ。
それに堂々とした態度。自分に自信を持っている。
自信を持つと言うことは、それに見合うだけの努力をしてきたはずだ。
委員長とか呼ばれてそうだな。でなきゃ生徒会とかやってそうだ。
こいつの名前、何だっけ? ワラなんとかって。
配られたプリントの中に多分名簿が、っとあったあった。
「なんだ、これ。
ワライケケ、もう一度口の中で唱える。思わず笑いたくなる呪文のようだ、肩が震えてしまう。
「そんなにおかしいか?」
低く威圧的な声に振り返れば、黒髪イケメンもとい藁池光が鋭い目つきで俺の事を睨んでいた。
「いや、ほら珍しいから。でも名字聞いただけで人を楽しくさせるなんていい名前ってことじゃないのか」
ワライケケ。パニック系の魔法に使えそうだ。
「現実を見ろ」
藁池の声がピシャリと俺を打つ。
「
「俺はそんなつもりは……!」
「ほーい、その辺で落ち着けー。藁池もなー。先生は藁の池があったら飛び込んで昼寝するくらい喜ぶぞー。相川はちょっと考えてから喋ろうなー。はーい、皆静かにー」
小鳥先生が近日の予定を話していたが、俺の頭には入ってこなかった。
俺が、あいつの名前を笑った? 違う! きっと皆を楽しくさせる魔法だって思って。
いや、そうなんだ。俺は笑ったんだ。
あいつを、藁池を嫌な気持ちにさせたのか。それは、怒るよな。
誰かを怒らせたら。簡単だ、謝ればいい。
そう簡単だ、謝ればーー。
「ごめんって俺、いつもどうやって言ってた?」
考えに沈む俺には、その言葉が口から出たのかどうかも分からなかった。
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