日出処の転生者

千夜

第1話 AAAの男、参上

「新しいクラスメイトの諸君、俺は相川アイカワエー新人アラト。イニシャルAAAエーエーエー、トリプルAの男だ、よろしく!」


 初めて入る高校の教室の扉を開け、俺は気合と共に挨拶をした。

 俺の声が響き渡り、教室がシンと静まり返る。


「そうか」

 一番に反応したのは、俺のいる入り口から最も離れた窓際の後ろ、超羨ましい席に座る少年だった。

 ふっ、正反対の位置にまで届くとはさすが俺の声の威力よ。


 よく日焼けした肌に、左右対象に整った顔付きのそいつは、髪がつやを持つほど綺麗な黒色をしたイケメンだ。

 因みに、俺は地毛が明るめの茶色で、ふわふわの猫っ毛。中学の時には、猫みたいで可愛いと、女子に撫でてもらったもんだ。


 銀フレームの眼鏡をさり気なく直すと黒髪イケメンは、だから何だと言わんばかりに腕を組んで、顎を俺に向けた。


 存在感のある奴だなあ、ってのが第一印象だ。飛び抜けて体格が良いわけでもないのに、既にクラスの空気の半分くらいを制圧している。

 主に女子のチラチラ目線て奴な!


 俺のライバルになるのはこいつだと確信を持って俺は黒髪イケメンの席に近寄る。

「お前のイニシャルは何だ?」

 俺がそいつに話しかければ、教室はまたザワザワと騒ぎ始めた。

 それでもいくつもの意識が俺達に向けられているのを感じる。今ここに、クラスの頂点を争うであろう二人が揃ったからな。


エイチダブリューだ」

 黒髪が答える。

「うわ、お前エッチのことエイチって言うんだ。ああ、もしかして栄光とかの叡智えいちと掛けてる? 叡智のダブリュー、いい響きだな。いやでもその場合は日本名の方が合ってるよな。お前、名字は?」


「……後で自己紹介とかあるだろう。その時にでも聞いてくれ」

 黒い目が真っ直ぐに俺の目を見て、なのに素っ気ない言葉が返された。


「ええ、勿体ぶるなよ。名前教えるぐらいいいだろう? これから一年間は同じ教室で学ぶ仲間同士なんだし。あ、この場合の同士は志を同じくするって意味も含まれてるからな」

「よく喋る奴だな。恥ずかしくないのか、そんな事ばっかり言ってて」

 失礼な奴め、俺が一生懸命会話を盛り上げようとしてるってのに。


「ああ、こういう時は先に名乗るのが礼儀だよな。俺の名前は新しい人って書いてアラトって読むんだ。ふふふ、何を隠そういずれ俺は、世界で初めて人を超えた新たな存在、新人類と呼ばれる事になる男だ」


 左腕を腰に、首は少し斜めにして背筋は伸ばす。椅子に座った黒髪イケメンを意味深に笑って見下ろしてやる。

「新人類。クロマニョン人か、似合いそうだな」


黒魔クロマニオン? ふむ、日本語と外国語を合わせて造語を作るとはなかなかいいセンスしてるな」

 俺が黒髪を褒めている時、教卓の方から女の人の声が聞こえてきた。


「おーい、新入生どもー。旧石器時代に戻るなー、現代人らしく席に座れー」

 特徴的に語尾を伸ばした喋り方をするのは、恐らく担任の教師だろう。

 俺も慌てて席に着く。

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