第27話 大惨事大戦の幕開け
その日の放課後、ついに、聖奈と二人で『バンジャマン』に向かうことになった。
聖奈は流石に不安そうな顔をしていた。
上手くいくとは限らないしな。
店に入ると、いつものように葉月が接客にやってくる。
葉月の顔に緊張が走ったのが見えた。
「いらっしゃいませ……一名……二名様ですね?」
こいつ、一瞬、聖奈の存在を消そうとしただろ。
……本当に大丈夫だろうな?
葉月には事前に連絡していたから、この日聖奈が店に来ることは知っていた。
FAINでやりとりした限りでは、聖奈と同じく、なんだかんだで葉月も不安を感じているみたいだ。
気持ちが不安定なのは、何もこの二人だけじゃない。
俺だって、そうだ。
聖奈も葉月も、俺の気持ちが向かっていないと疑った途端急に怖くなるところがあるから、あまり不用意な行動をするわけにもいかない。
選択を間違えれば命取り。
そんな言葉が頭に浮かぶ程度には、俺もまた恐怖していた。
仲介役の俺がこの調子じゃマズい。
二人を仲良くさせれば、ぼっちに苦しむ二人の女の子を救うことができるのだから。
「二名です」
答えたのは俺ではなく、俺の後ろにいた聖奈だ。
「聖奈と葉月さんの、二名です」
今日の主役は、聖奈と葉月だ。二人でじっくり決着をつけちゃいましょうという意図でもあるのだろう。
葉月も、聖奈の心意気を理解したのだろう。承知とばかりにニヤリとして。
「……最後は、私とレーちゃんの、二名様で退場です」
ズッコケそうになった。
こいつ、なんでこの期に及んで聖奈を煽るの? 揉め事は止せと言ったはずなのに。
ちょっとは歳上らしい落ち着きとか余裕を見せてくれよ……。
恐る恐る聖奈の表情を伺うと、聖奈はなんとまあ、瞳からハイライトを消していて。
「いいえ。最後は葉月さん一名で、退場です」
やりかえしやがった。
一方の葉月は、営業スマイルを浮かべているのは変わらないものの、こめかみをヒクつかせ。
「いいえ。お客様は一生お一人様です」
「はい。聖奈と丘崎さんの二人でお一人さまです」
聖奈の瞳が黒より昏くなっていく。真実を映すと自称していた黒い瞳は、固まった血液みたいにドス黒い。頼むから刃傷沙汰に発展するような真似は止めてくれよな……。
「へっ」
「ふんっ」
和解ムードなんて一切感じさせない、互いに互いを蔑む表情がぶつかり合う。
間に挟まれている俺は、生きた心地がしなかった。
葉月ちゃーん、早くお客様をご案内して! という店長の一言により、聖奈と葉月による絶対負けられない戦いの序章は終わりを告げたのだった。
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