第25話 ヤツが来る……!
幸い、永久の眠りにつくことはなかったものの、目を覚ました時には夕食時になっていたので、俺と聖奈はそのままフードコートで夕食を摂った。
聖奈を家に送り届ける途中で、近い内に『バンジャマン』には連れて行くから、と約束し、俺は自宅に帰ってきた。
門を抜けると、扉の前に人影が見えた。
両親の帰宅はまだのはずだが……と疑問に思っていると。
制服姿の葉月が、家出少女みたいな雰囲気を漂わせて扉の前に座り込んでいた。
「レーちゃん!」
「うわっ、出た!」
「おばけ扱いしてない!?」
「化け物みたいなもんだろ!」
この変態ショタモンスターが!
「お前、なんでここにいるの……?」
刃物持ってないだろうなぁ。少なくとも手には何も見えないけど。
「レーちゃんに何度も連絡しても出ないからだよ!」
「……あ、悪い」
無視するのがすっかり習慣化してしまっていて、葉月からの着信がないものとして処理していた。
「……つーか、俺がお前からの連絡断ってた理由くらいわかるだろ?」
葉月を試すつもりで、俺は言った。
それがわからないようなら、葉月は完全に己の出世のことしか頭にないサイコパスだということになる。
そうなったら、葉月への対応をもっと厳しくしないといけない。
「わかってるよぉ」
葉月は、拗ねるような口ぶりながらも、そう認めた。
「私だって、反省してるんだから。ていうか、反省と謝罪の気持ちは何度もFAINしたんだけど、レーちゃん既読つけてくれないんだもん」
「マジか」
FAINを起動して確認してみると、確かに謝罪の言葉が大量に書き連ねられていた。どうせ変態発言の嵐だろうと踏んで一切シャットアウトしていたからわからなかった。
「レーちゃんから完全無視されてるなあって思うと悲しみが深すぎて手首切りそうになった」
「切らなくてよかったな」
葉月にはコレがあるのだった。今度から一応気にしてるよって示すためにもFAINの既読だけはつけておくことにしよう。まあ、そうしたらしたで今度は『既読無視されたから切る!』なんて騒ぎそうだが。どっちにしろめんどくさいんじゃんね。
「怒りと寂しさに駆られて流血するくらいなら献血へ行け。血を無駄にするな。ジュースだって飲めるんだからな」
「それ、レーちゃんが言っていいことじゃないと思う」
「そもそもお前が俺を出世の道具扱いして傷つけたことを忘れるなよ? 見た目は無傷だが心の中はズタズタなんだからな?」
「だからその件はごめんってば~」
よよよ、と葉月は倒れ込むようにすがりついてくる。
「私、超寂しいんだよー、寂しくておかしくなっちゃうんだよー。レーちゃんならその気持ちわかるでしょ?」
「寂しさを暴言の言い訳にするな。俺だってぼっちで寂しいんだからな」
「そっか。私たち二人とも、寂しいんだね……」
葉月は目を伏せながら、俺の袖先をつまんでくる。
「……なんかラブシーン入りますみたいな雰囲気にするのやめろ」
「えぇ~。私たち付き合ってるのに? そういうラブ的雰囲気になるのくらいふつうじゃん~」
「…………」
付き合っている扱いになっているのは、いくら頭を冷やそうとも変わらないらしい。
「とりあえず、俺を出世のための最強兵器エクスカリバー扱いしたことを謝罪するなら家上がれ。ここで土下座されても近所迷惑だし丘崎家の風評被害になるから。そして謝ったらすぐ帰れ」
結局こうして家に上げてしまうあたり、俺は甘いのかもしれない。
「れ、レーちゃんがエクスカリ……」
「とっとと帰ってもらっても構わないんだけど?」
「ち、違うよ逆逆! どれだけすごいのかちょっと妄想しちゃっただけだよホントだよ!」
頭から湯気出そうなくらい顔を赤くしやがる葉月。
聖奈と違ってシモネタ方面の連想をするあたりがこいつが年食った高校生だって証明だよな。まあ聖奈の場合は小学生ってことを考えても知識少なすぎな気がするけれど。
「……だいじょうぶだいじょうぶ、今日の下着は新しくてかわいいやつだし上下ちゃんと揃ってるから初めての日でも安心……」
「…………」
背中側から聞こえる葉月の不穏な小声に、俺は呆れるしかなかった。
ホントマジでロクなことになりそうにないから、とっとと和解して追い出そう。
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