第19話 葉月がうちに来る。両親は仕事でいない。

 聖奈を家に送り届けたあとにも、俺にはまだまだやることがあった。

 葉月に、真実を伝えないといけない。

 簡単に夕食を済ませたあと、自室のベッドにてFINEを開いてメッセージを送る。


【葉月。さっきは色々悪かったな】

【あの場じゃワケあってハッキリ言えなかったけど、聖奈のことで本当のことを教えとかないとって思ったんだ】


 さて、どこからどう伝えるべきか、と考えていると、葉月からのメッセージが割り込んできた。


『【切実希望!】☆☆☆直接会って教えてほしい件Part123☆☆☆【美少女からの大事なお願い!】』


「なんでクソスレのタイトルみたくなってるんだよ」


 つーかPart122までスレ伸ばすようなやりとりなんてねえだろ。

 あと美少女を自称するな。自称するだけある見た目なだけにツッコミにくいだろ。


【わかった。説明責任は果たすつもりだ】


 さて、日取りや場所はどこにするか。やっぱ電車の中か? でもあんまり慌ただしい場所で話すのもな。言葉足らずで余計な誤解を増やすのも嫌だし。


『私、葉月あすみ。実は今、レーちゃん家に前にいるの』


「今度はまたどうしてメリーさんテイストでホラー感出して来たの」


 どうせネタだろ、と思いながら窓の外を覗き込むと、なんとまあ本当に家の前に制服姿の葉月が立っていて、こちらを凝視していた。

 瞬きくらいしろ。怖いだろ。

 ていうか俺、葉月に自宅の場所教えたことあったっけ?

 記憶にないのだが……朝の通学時間に何度も顔を合わせる内に、どの辺に住んでいるか教えたとしてもおかしくはない。教えてもいない住所を突き止めた上であそこに立っているのだとしたら、葉月はとっても怖いストーカーということになってしまう。恐怖を滲み出す女子は聖奈だけで十分だ。

 あのまま放置していたらご近所からどんな噂をされるか不安なので、しかたなく階段を駆け下りて玄関へ。


「……入れよ」

「レーちゃんのご両親は?」

「まだ帰ってこないんだわ」


 俺の両親は聖奈のトコと同じように共働きで、訓練された社畜だから、夜中近くにならないと帰って来られない。家のローンと俺の学費を人質に取られて労働を強いられている両親は本当に大変だと思う。


「ええっ? じゃあレーちゃんと二人きりってことじゃん!」


 ひゃっ、と軽く飛び上がった葉月の頬は赤かった。


「都合悪いのか? じゃあまたの機会に」

「待って!」


 俺がドアを閉めようとすると、葉月はドアの隙間に足を滑り込ませてきた。


「おじゃましまぁす!」


 無理矢理体をねじ込むようにして我が家に入ってくる。

 まるで軟体動物のように奇怪な動きだった。

 隙間が狭かったせいか、途中胸部がちょっと引っかかって、ぐにゅっ、となったのは見なかったことにしておこう。聖奈に比べればささやかだけれど、やっぱやわらかいのか……。


「俺はいいけど、お前は大丈夫なの? 門限とか」

「レーちゃんがちゃんと説明してくれれば、すぐに帰れるんだけどなぁ」


 葉月はローファーを脱いでいて、ご丁寧に膝をついてきっちり揃えていた。行儀いいな。


「……わかった。俺も隠し事したままじゃ気分悪いからな」


 そして俺は葉月と一緒に2階へ向かった。

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