第6話 俺はJSを引率しているだけであってデートではない

 日曜日になる。

 聖奈と一緒に、『魔法楽隊ポリリズム・キュアー』の劇場版を観に行く日がやってきた。

 相変わらず俺に女子高生役を押し付けようとする巖田とその一味による泣き落とし攻撃に疲れ果てた俺にとっては、小学生と映画を観に行くだけでも癒やしのひとときだ。

 映画は、ショッピングモールに入っているシネコンで観る予定だった。


「――聖奈、親以外の人とここのモールに来るの初めてなんですよぉ」


 空調の効いたモールのエントランスに足を踏み入れると、聖奈は、すしざんまいみたいなポーズをして俺を振り返った。

 聖奈みたいな金持ちの一家でも、こんなところに来るんだな。モールなんてあんまり金持ってないヤツの巣窟かと思ったら、そうでもないのかな。


「だから、今日になるまですっごく待ち遠しくて」


 聖奈が今日を楽しみにしているらしいことは、その服装を見てなんとなくわかった。

 ロングの白いワンピースの上に、デニムのトラッカージャケットを羽織っている。

 純白のヘアバンドが艷やかな黒髪と対をなすかたちでアクセントになっていて、髪の毛先はゆるく遊ばせてあった。

 手にぶら下げた小さなバッグは、俺はよく知らないけれど、なんか高そうな革を使ってるっぽいし。

 長身だからか、余計に服が映えて見える。

 ファッション誌に載っていてもおかしくないくらいだ。

 ティーン向けのじゃなくて、女子大生のお姉さんたちが好んで読む種類の方だけど。

 ていうか、よけいに小学生に見えないんだが。

 大人っぽく見えることを気にしてたっていうのに、それでいいのか?

 まあ、大好きなアニメの劇場版を観る、という聖奈の念願が叶うわけで、ついつい特別におめかししてしまうくらい気合を入れてしまうのも仕方がないか。

 身につけているものを見る限り、聖奈の両親は一緒に遊ぶ時間こそ取れないけれど、その分娘にしっかりお金をかけているようだ。

 少なくとも、両親と関わる時間があまりないからといって、聖奈の扱いがぞんざいというわけではないみたい。


「もう待ちきれません! 丘崎さん、はやく行きましょう!」


 元気いっぱいの聖奈は、あろうことか、抱くようにして俺の手を取り、シネコンのある三階を目指してぐいぐい引っ張る。

 は~や~く~、とばかりに急かすのはいい。

 だが、気づけ。

 当たってるんだよ。

 俺の腕に!

 胸が! 胸が!

 サイズと感触は大人顔負けとはいえ、小5のバスト様に反応するわけにはいかないので、俺は必至で耐える。

 煩悩を追いやるべく、行きに見かけた誰かの飼い犬のスカトロジーな光景を思い返す。

 やべえ。気分悪くなってきた……。

 聖奈は俺の腕を抱いたままこちらの顔をのぞき込んできて。


「丘崎さん、どうしたんですか? 具合、悪いんですか?」


 遠目からでは大人でも、間近で見ると、顔のパーツの一つ一つが丸っこい。


「悪いといえば悪いな」


 天使のような顔が、悲しみに歪んで見える。


「……どうしよう、丘崎さんの具合が悪くなっちゃったら、映画見れなくなっちゃう……」


 俺より映画の心配をするファッキン人でなしな聖奈。


「いや、頭の中の悪いイメージ消せば大丈夫だから」


 具合悪くなったのは犬のクソを想像したからで、今も腕に侵略を続けている聖奈の感触の方に意識を集中させればすぐ回復する。

 そして俺は回復した。


「この通り、もう元気だぞ」

「わぁ。本当だ。すっごく顔色いいですね!」


 聖奈は両手をパンと叩いて本当に嬉しそうにする。よかったね。映画に行けるもんな。


「でも、どうしてちょっと前かがみなんですか? もしかして、お腹痛いんですか?」

「秘密。でも腹痛いわけじゃないから……」

「ええ~、秘密にしないで聖奈にも教えてくださいよ~」


 俺に腕に押し付けている、聖奈の『圧』が増した。


「それ以上聞いちゃいけない」

「わ。丘崎さんが急に真顔に……ごめんなさい」

「わかってくれれば、いいんだ」


 時には決して知ってはいけない秘密があることをわかってくれたのか、聖奈はソレ以上しつこくせがむことはなかった。

 男は大きな胸を押し付けられるとコンディション不良でも元気になる、なんて秘密を教えるのは今じゃなくてもいいだろう。

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