第9話:吹雪 舞の過去 (2)

「お母さんが再婚して出来た血の繋がってないお父さん。その人はお世辞でも"いい人"とは言えないような人だった。自分のためならなんでも犠牲にする。そんな人だった。」


「?」

俺はその犠牲の意味がよく分からなかった。

彼女はそれを察したのか――


「犠牲っていうのは例えばね、『お母さんの貯金を勝手に使って会社のために使ったり貯金が無くなればお母さんを夜の街に行かせてお金を稼いだりしてたの』」


「……」

聞いているだけでも驚くほどに怒りと心のそこで抑えていた生きていた頃の記憶込み上げてきた。


それじゃあまるで――――――


「お母さんはもちろん抵抗したわ、それはそうね、毎日のように知らない男の人と身体を重ねるんだもの。だけどお母さんが抵抗したとき、あいつは『なんの躊躇もなくお母さんを殴って無理やりシゴトに行かせたの。』」


――――――俺の父親みたいじゃないか。



「そしてお母さんはそんな生活を続けて1ヶ月自殺した。そしてお母さんの死体からは赤黒い煙、怨霊がうまれた。」


「!!……そ、それじゃあ」


「そう。お父さんはお母さんの、怨霊によって死んだ。そして身寄りのない私はお母さんの実家にお世話になったの、おばあちゃんはとても良くしてくれたわ、だけどおじいちゃんの方は私が邪魔だったみたい。つい最近『お前を養う金なんか家にはない』って言われて追い出された。……これが私の過去の話。どう?なかなかに酷いでしょ。」



甘かった。

俺は舞の過去を全て受け止めるつもりだった。

舞は笑っているが舞の過去は俺の想像を絶するほどに辛いものだった。



「そんな顔しないでよ〜もう過去のことだしね。ありがとう桜君。君が聞いてくれたおかげで楽になったよ。」


「それに、君が私に興味を持ってくれて良かった。…………いつかでいいから、君が私に心を開いた時、君の過去も聞かせてね?私だけ話すのはフェアじゃないからね!」



「…………あぁ。」


「約束だよ?」


「いつか……ね」



あんな話のあとでも明るく振る舞っている舞を見て、俺は少し胸が締め付けられたような感じがした。



舞が来てからだ。

舞が喜んでいると俺も嬉しくなる。

舞が悲しんでると俺も悲しくなる。

こんなふうに俺は舞の感情に合わせるように一喜一憂するようになった。


(なんでだろうな。)


今はこれがなんなのかは分からない。

だけど今はそれでいい。

これからも舞に寄り添って生活して行く中でこの不思議な感情に名前をつけれたらと俺は思った。

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