第249話 難民とテロ

「難民受け入れのための施設建造をお願いしたい」

 そう伝えられたのは一般兵士向けの防具の試作が一通り終わったところで、シックに親切されていたアングロサンの研究施設を出たところだった。

 しかも伝えてきたのは確実にそのへんで捕まえたと思われる夢魔の人で、完全に業務連絡でしかなかったから交渉の方もかなり切羽詰っていることを感じさせられた。

 そしてその上でイネちゃんを地球に配置しない采配をする辺り、難民の数は相当数になりそうな予感もするのでイネちゃんがどれだけの規模で作ればいいのかを把握するためにも試作品サンプルを提出したその足で難民の受付書類が集まっていそうな場所まで行き書類を見せてもらった。

「……規模としてはかなり多いですね、あちらの地球の人口を考えると小さな国1つ分ですよこれ」

「流石に全部を全部受け入れるのは現実的ではないのでここで審査を行いますよ。上限としては3万人規模で想定、今の情勢が終わり平和に戻った際にはこちらに滞在せずに帰還することを絶対とし、人を選ぶ形にします。本来のヌーリエ教会の方針とは違いますが現時点で受け入れている既存の難民、一時永続双方合わせて数百万に登っていますので……」

「まぁ……ロストネストは世界まるごと引き受けた形ですし、そことのやり取りは中心地に近い場所にいたので」

「はい。ですので今回の地球からのものは一時難民に限定し、シックにいる民間の夢魔の方々にも協力をして頂く形で選別を行うことになります。そこで犯罪を起こす思考の者、大陸という世界を資源や金儲けの道具としか思っていないもの、そもそも所属している国家を偽っているものは排除対象とし、乳幼児を連れているご家族に関しては大陸ではなくイネ様の育たれた地球かアングロサンに滞在して頂く予定になっています」

「それは……関係各位で納得できますかね?」

「アングロサンは資源を回収していた資源惑星を簡易テラフォーミングをして居住惑星に整備中とのことですし、地球側は同じ地球ということで少人数ならホテルを借りて開放すると名乗り出てくださいましたので助かりましたね」

「整備中ならまだ無理なんじゃ?」

「基本的な部分は既に完了していて、後は大気環境の最終調整とのことでしたよ」

「人が生きるために必要なところですよね……」

 ただまぁアングロサンからそれを言い出してきたってことはこちらの書類仕事が終わるまでの間には終わる目処が立っているってことだろうし、もし間に合っていなくても結構過疎ってる居住惑星も少なくないしなんだったらアングロサンこと地球の再開発計画が持ち上がっているので火星居住区にも空きが出てきている可能性もあるし……なんだかんだ銀河を飛び出すくらいの宇宙文明だしそのへんの対応はいくらでもできるか。

 問題としては難民の人がFTLワープを受け入れられるかが最大の壁になる可能性が高いくらいか……既に民間運用されている上に年間事故数はヒューマンエラーくらいしかないもので、難民の一時受け入れな上に人工アザトゥース関連の問題が浮上しつつある情勢だから丁重な扱いはされるだろうけれど……過激派閥がやらかす可能性があるっていうのも否定できないか。

「一応ムータリアスとロストネストも声を挙げてくれてはいますが、基礎的な文化水準が違いすぎることと魔法文化への恐怖感を抱いているでしょうからね」

「それに受け入れ側の精神性も知識層にしかないっていうのが不安要素なのが大きいですよね、それ」

「はい。ロストネストは大陸に帰化する際に奴隷制度は廃止になりましたが、今は急速な変化による制度不備からの情勢不安、ムータリアスは現時点でも奴隷制の運用はありますが地球からの難民側の心情という点においても適していないと判断しましたよ」

「好意はありがたいんですけどねぇ」

「人員の派遣という点で着地しましたので、各種人でが足りない作業に振り分けさせていただいてますね」

 ムータリアスは科学を正しく把握できているのはグワールくらいだし、ロストネストに至っては今少しづつ学んでいっている最中でそう言った意味ではボランティア参加は双方の学習理解にするのにはいろんな意味でも好ましい環境になる。

 何せボランティア参加者は相手を素人積極的な人間だし、ロストネスト側にしても大陸に馴染もうと積極的な人だからね、それにボランティアという形なので難民管理担当の夢魔の人が直接上司になるためあれこれ揉め事が起きても対応は速いだろうし。

「話を戻しますが、イネ様に頼みたい建築場所に関しましては管理しやすい場所が望ましいです。以前ムータリアスによる襲撃時にあったオベイロンとの戦闘でイネ様が戦った地点にお願いします」

「あー……あの場所イネちゃんが戦ったときに結構な広範囲で更地になってましたもんね」

「あの地点はアングロサンでも使いたいという要望がありましたが、今回の件がありましたので」

「となると難民集落化した後にアングロサンが再利用できる形が1番か」

「そこはお任せします。アングロサン側も再利用するにしても配線設備などから1度は見取り図を作るために調査することになるだろうからと」

 イネちゃんが作る前提で話が進んでた。

 ともあれ想定されている内容からすれば結構イネちゃんが自由にあれこれできるってことで間違いなさそうかな。

「それと……地球でのテロが激化するのは時間の問題だと情報もありますので、できれば急いでいただけたら助かります」

「審査が始まっているってことはもう来てるってことですもんね、了解です」

 勇者の力が便利な土建作業に使われるってのは慣れてるけど、今回のは今まで以上に納期が短いのに規模が軌道エレベーターの次に大きくなりそうな予感を抱きながらイネちゃんはシックの北にある更地へと向かうのだった。

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