第250話 難民とヒロ君

 イネちゃんが難民の収容ができる建造物をいくつか作り、簡単なインフラ工事もヌーリエ教会手動、アングロサンの工務店実働で進められていてそのいくつかが実際に稼働できるようになったタイミングで難民の第1陣が到着した。

 難民は友好国のみからの受付な上に夢魔の監査を受けての受け入れではあったものの人種は乱雑で明らかにアメリカからのものが多いように思えた。

 そしてそんな第1陣の中には……。

「……よう」

「あぁヒロ君もこっちに来たんだ」

 キハグレイス世界に召喚されて勇者扱いされてたヒロ君とその家族の姿もあった。

 ヒロ君は召喚されたときに色々と魔法的な能力を付与されていたから今回のテロをしている相手にしてみれば現時点の地球では少数いる大陸の人間を除いて唯一と行って差し支えのない抵抗可能な存在。

 だからこそ狙われたということも考えられるから特別驚きはなかったけれど……ヒロ君から話しかけてきたことを考えると何か起きたのだろうか。

「第1陣、しかも真っ先にイネちゃんのところに来たってことは何かあった?」

「学校が攻撃されて何人か意識不明の重症で生徒をかばった先生が1人……」

「なる程。重傷者含めて今回の第1陣?」

「1人死んでるんだぞ!」

「そうだね、ヒロ君の周辺で1人で済んでるってことだよ。世界各地、今回の第1陣で多いのはアメリカ国籍、その中には親を亡くした子供や子供を亡くした親もいるようだね、書類を見る限り」

「他にも酷い目に会ってるから耐えろってことかよ……」

「言い方は悪いけどね。ただ誰かがこの役割やらないといけないのは、わかるかな。何せ何万に登るだけの人間を受け入れることになっていて全員を把握しなきゃいけない。何せ衣食住全部漏れないように面倒を見る側なのだからね」

 口調も言葉も強めになった感じは自分で思うけれど、今イネちゃんがやっているのはその衣食住の住居の部分を可能な限り快適になるように地球式とアングロサン式にシック周辺の気候に適した間取りと構造でインフラ関係の工事もしやすい形での建造なので優しい言葉を探して構ってあげている時間はあまり無い。

 ヒロ君が憤る気持ちもわからないではない……というかむしろよくわかる方ではあるけれど、共感して慰めてあげる時間的猶予もないし立場でもないからね。

 例えヒロ君がイネちゃんに対して特別な感情を抱いていたとしてもこちらからは手のかかる子供としか思えないし、訓練や精神鍛錬に関してもヒロ君の師匠と呼べるのはヨシュアさんだからね、仕事中のイネちゃんが口出しできるのはこのくらいしか思いつかない。

 ヒロ君もそう言った理屈はわかっているようではあるが、感情の部分で納得できていないっていう表情を見せる。

「別にイネちゃんが冷たいとか鬼畜だとか思ってもらってもいいよ」

「……誰かがやらないといけない仕事で、そういう概念があるってのも理解はしてる」

「トリアージとはまた違うからね?難民管理してる部署の人の言葉から推測するならヒロ君の地球からの難民が条件を無視して永住を考えない人を選別しているし、そうでなくてもイネちゃんが育った地球でホテル暮らしか、アングロサンの居住可能な惑星での生活だしね」

「惑星って……」

「アングロサンの人間が居住する前提でのテラフォーミングしてあるから実質地球型と変わらないよ。違うのは植生や生態系、後は重力かな。放射線に関しては地球の人より過敏だからそっちの心配はしないでいいよ」

 何せ宇宙文明ともなると惑星間航行中に放射線問題を最優先で解決しにいくし、アングロサンに関しては宇宙進出を果たしてから10世紀以上経過しているのだから克服していない方が嘘になる。

 それにアングロサン側の好意もあって大陸とのゲートを安定している既存の物以外にも難民輸送用に新設するかどうかの案が提示されたりしたくらいなのでむしろ問題があるとすればFTL航行輸送艦のチャーターが難航してたりするのかもしれない。

「そんなところまで行く必要、あるのかよ……」

「それを決めるのは難民の人たち。難民の人たちの要望が強ければ太陽系内部で新設することになるだろうからね」

「新設って……どんだけ時間を!」

「いやイネちゃんがあっち行って宇宙空間で作業するだけだよ。資材さえ準備してくれれば後は勇者の力で一晩もあれば結合できるし」

 イネちゃんの労働時間が嫌というほど増えるけれど、必要があるのなら断る理由もない。

「またそうやって……」

「カッコつけてるわけでもなんでもなくて、お仕事ってだけだよ。純粋にイネちゃんにはそれができる能力があって、必要とされて、そこにちゃんとお賃金が発生するから成立するお仕事。これが無給の完全ボランティアだったらカッコつけてるとか言われても仕方ないけど、今回ボランティア参加している人たちだって見返り無しってわけじゃないからね」

「それ、ボランティアじゃなくないか?」

「いや、ちゃんとボランティアだよ。自己向上っていう意味での参加者が大半だから間違いなく彼ら自身はボランティア活動に価値を見出して参加しているからね」

 そうでなくても何かしらの打算を持ってちゃんと成功させようとしているってのはボランティア面接をした管理局の夢魔の人が断言してくれたからイネちゃんもこの部分に関しては断言できる。

「自己向上……」

「興味あるの?」

「いや……」

 ヒロ君の言動から察するにこれは……。

「仕事中じゃなければ特訓やらなんやらに付き合ってもいいから、今はご家族のところに行ってあげな。ついでだから自分の気持ちもご家族に伝えてきな」

「な、そ、そんなんじゃ!」

「違った?」

「……いや。そうする」

「うん、してきな」

 会話が途切れたところでヒロ君は聞こえるかどうかの声量でサンキューとつぶやいてから難民の列に戻っていった。

 さてと……ヒロ君に偉そうなことをのたまった手前こっちはしっかりと今日の分のお仕事は終わらせないとだね。

 イネちゃんは気合を入れ直してから居住区作りのスピードを上げたのであった。

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