第247話 一時撤退

「一時撤退?」

 日本に戻った翌日、ムーンラビットさんから告げられた言葉はそんな予想外のものだった。

「そうよ。最もヒヒノの件があるから最低限の人員は残すが、戦闘の主力は情勢が落ち着くまでは様子見てくれって強い要望を受けた結果やね」

「イネちゃんたちがいなくなるの望んでいる連中の思惑に乗ると。ヒロ君はどうするんです?」

「言及してやったら守りきれるほど責任が持てないとかいいやがってな」

「無責任極まりないですね」

「戦争回避の努力って当人たちは本気で信じてるし国際会議の場で決定しちまった以上は現時点で立場が居候の私らがどうこう言うこともできんかったのがな……まぁ流石にそれは無責任だってことでヒロ坊ちゃんとその親族には一時的なり大陸に移動するかアメリカに避難するか選択する形で説得、それはあちらが全責任を持って説得することは確約させたがな」

「地球に残ることを優先させるように誘導されたら悲劇確定になる予感がするんですが」

「流石にそうならんようにヒヒノ待ちで残るメンツには誘導されないか注意するようには言うが、私を排除しようとしてる時点で望み薄やな。ヒロ坊ちゃんが政治家よりも私らを信用しているところもあるし、イネ嬢ちゃんへの好意が以前よりも誠実な形でもってくれてるからどうにか家族を説得してくれれば大陸に避難の形になると思うんよ」

「以前より誠実って……」

年齢とし相応の純粋な恋愛感情やね。まぁそれ以上に精神的支柱として認識してるからな」

 師匠とか先生とかそういうポジションってことか。

 ヒロ君がイネちゃんの言葉に素直に従っていたことを考えるとムーンラビットさんの言っていることがなんとなく理解できてしまう……イネちゃん、師匠とか先生とかそういう立場なことやれないのになぁ。

「ともあれこっちは今の状態やな。撤退するのは確定だからある程度の整理はするにしても、能動的に居残る動きをするのも煙たがられてバックアップをなくすことになるからな」

「それは……そうなったらヒヒノさんが危ないですね」

「むしろヒヒノを排除する動きになった場合この世界が滅びる危険の方がな。あいつは対魔法とか対概念とか並半端なレベルでやろうとすると逆効果まっしぐらやしな」

「自分を守るって前提でならヌーリエ様制限とっぱらいますもんね」

「そのへんは勇者連中の方が実感できてるだろうから心配はしてないが、この世界の連中がやらかす率の方がな」

「魔法とか全力ファンタジーされるのに慣れてないってのは仕方ないですからねぇ」

「いや、これはイネ嬢ちゃんが育った地球との交渉してたときに実際起きかけた内容よ。その時は鏡対応的に反撃して大国1個をササヤとヒヒノで軍を処理してたからこその抑止が働いていてそれやったからな」

「ってことは……」

「ここから腰を据えての本番ってところやね。しかも難易度はイネ嬢ちゃんの暮らしてた方の地球と比べたらハードモードってところやね」

 つまり年単位で見なければいけないということでもある。

 イネちゃんが暮らしていた地球がまともな交流出来るような形になったのは秘密裏の交渉から数えると10年くらいかかっているから、交渉のエキスパートであるムーンラビットさんがハードモードなんて口にするくらいだからもっと長くなる可能性は十二分に存在する。

「10年は民間交流まで含めてやからな、政治的な解決って点だけなら早くて3年程度、ハードモードだとしても5年くらいやな」

「それでも結構長いですからね?」

「それも含めてどうするかってのは私らの手腕やな」

 ムーンラビットさんたち交渉組はここからが主戦場ということでもあるけれど……実際のところは現状マイナスまであるからこそのハードか。

「ま、そういうことよ。協力を約束してた連中の中にも私らを切れって勢力が強まってきてるしな」

「代表団襲撃の件ですか」

「帰りの便やな。あの時ピンポイントで狙われたってなったからこその流れ、当然ではあるがここで切るリスクも同時にあるからあちらさんでも議論が激しく買わされてて定まっていないんよ。そういう意味でも私らは身動きが取れないな、こっちは既に方針は決まっているがあちらが決まっていない以上は会談を開くにもあちらの思惑が強く出過ぎるんよ。こっちの要望を飲むための条件ってのを出し放題だからな」

「そんなもんです?」

「そんなもんよ。ただこれが逆転するタイミングってのもあるな、何せ相手さんは私らが邪魔ってだけでこの世界に手を出さない、介入しないとは思ってないんやから、私らがいなくなることで戦争とはならなくても大きめの紛争が発生するだろうな。それが発生したらこっちの戦力、抑止力の価値が上がるんでこっちが条件を出しやすくなるからな」

「その見極めですか」

「それをやるのは私とキャリー嬢ちゃんやけどな」

「とりあえず……イネちゃんはやれること無しなのはわかりました」

「すまんな。まぁあれこれなんとか根回しはしておくし、ヒロ坊ちゃんは常駐組に任せるしかない以上は現時点で私らの負けってのは変わらんが」

「耐えるのは慣れてるので」

 こうしてイネちゃんたちは1度この地球を後にすることになった……本当、ブロブが大量に襲撃してきた時に迎撃出来なかった時のリスクは大きいと思うんだけど、シャイニングトラペゾヘトロン無しだからショゴス化無し、ただの魔力爆弾だと考えれば無理してまで居座るリスクを犯す必要はない、か。

 結局被害を被るのは金持ち政治家ではなく民間人だってのは腹立たしいものの今は引くしかないのだった。

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