第246話 特攻兵器

「あっ…………ぶな!」

 勇者の力で相手の物質部分は掌握できてたため爆発と同時にイーアが即座に架空金属粒子に変換して防護フィールド化したおかげで護衛目標に被害が出ることはなかった。

<<魔力的な爆発やな。となればイネ嬢ちゃんの能力の限界を調べるための襲撃とストーキングってところか>>

「イネちゃんが離れれば安全です?」

<<それはそれで都合の悪い存在を処理出来るならやるやろ。既に戦争行為してる以上はあの国も戦争になるのは覚悟の上で作戦行動していると考えていいからな、イネ嬢ちゃんはこのまま護衛してくれた方が安心出来るんよ>>

「やっぱ戦争ですか」

<<代表団の乗った専用機にミサイルの雨を降らした時点で先制攻撃よ。こちとら出発から関係各所にリアルタイム中継してやったからもうそろそろ遺憾の意とか言い出してるんじゃないかね>>

「遺憾の意だけで止めれるライン超えてますよねぇ」

<<アメリカ側は既に在日米軍を海兵として太平洋艦隊を差し向けてるっぽいな。事前察知していたのなら既にいておかしくないからアメリカ側もだましうちされたってところやろ>>

「なる程……ところであのブロブなんですけど、戦闘機編隊とは別の機影群が確認出来るんですが」

<<今の爆発で魔力の感じも掴んだからそれはこっちでも確認できるな。術式まではわからんがイネ嬢ちゃんが引き寄せたタイミングで魔力が膨れ上がったことから近接発動が起爆条件ってところか>>

「近接信管の砲弾みたいなところですかね」

<<もしくは仕掛けた相手が確認しながら手動で起爆しているかのどっちかやね>>

「魔力系、イネちゃん苦手なんですけど」

<<こっちから魔力は飛ばせるが正確性に問題が出るぞ>>

「ピンポイントにこちらがやられたくない手法してきたわけか……」

<<たまたまの可能性はあるが、事前情報でイネ嬢ちゃんが直接的な魔力攻撃への対応が弱いってのは流れてる可能性も否定できんな。その上でこの件の実戦データでアップデートした戦略戦術が後日改めてくるのが確定したんよ>>

「どうします?特攻兵器みたいにしてくれちゃった編隊に対して攻撃していいですかね」

<<イネ嬢ちゃんの判断に任せるって言ったからな、EEZ上空を抜けるまで維持するか今すぐ迎撃するかはお好みよ>>

「……後少しで抜けますしチャフっておきます。架空金属粒子の濃度を濃くするだけですけど」

 架空金属粒子でなら電波やロックオンレーザーをはじめとした探知を遮断だけじゃなく実際に破壊力を有した現象に対しても防護フィールドとして機能するからね、純粋な魔力の攻撃にどれほど有効なのかっていう不安要素もなくはないけれど、ヌーリエ様の加護の部分を強めにしておくことで対魔力もある程度確保出来る。

 おかげでイネちゃんはヒロ君との一騎打ちで攻撃を無効化出来ていたわけだし少なくとも完全にだましうち奇襲の爆発から飛行機を守れてるしで有効な手段であることは証明できたわけだし……いやそれならそれで相手はイネちゃんがいてもゴリ押せるような作戦戦術を立ててくるんだろうが。

<<後10分程度で公海上空に出るな。待ち伏せの可能性もあるが……>>

「現時点で離れるとアウトなんでアングロサン側に通信届けられませんかね」

<<イネ嬢ちゃんとの通信でも結構危ない橋やからなぁ>>

「じゃあこっちでちょっと試します。公海上空ならアングロサンの面々が待機しても大丈夫ですからね、国際航空法的にはグレーもいいところだけど背に腹はってことで」

 航空法もだけどそれ以上に兵器を国境ギリギリに待機させるってこと自体がグレーもいいところなんだけどね、そこはまぁ既に戦争行為してきている相手に遠慮することはない。

 何せアングロサンの通信方式ならってことで航空機で致命的になるかもしれない部分のシステムは使わずにずっと現状を録画生配信って形で世界の皆様にお届けしているのでいつものお得意な俺は悪くない悪いのは自分以外の全人類だ!みたいな言い訳をするのは流石に無理であるからこそ、こっちも多少無茶出来るってところ。

 ただこっちとしても戦争がしたいわけではないからなぁ、公海に出て相手が引いてくれればそれはそれでいい……けどブロブは特攻してきても不思議ではないのが現状としての最大の問題かな。

<<こっちは抜けたが、後ろどうなってるかわかるか?>>

「あ、アングロサンに連絡入れようとしてて言葉選んでたらまだやってないんですけど……後ろはまだ一定距離保ったまま追跡してますね。前の方に待ち伏せもいなかったから通信用にほんの少しフィールドに穴を作ります」

<<リスクだが仕方ないか。イネ嬢ちゃんは考え事するのはいいがちょっと気を抜きすぎよ。護衛目標がいるならいつもみたいな攻撃誘導スタイルはあまりやらんほうがええしな>>

「複数の対策準備しすぎてた感は自覚してます」

<<取捨選択が難しかったのは……まぁあるな。魔力系の攻撃ってなるとイネ嬢ちゃん側も専用対策必要になるからわからんでもないが、優先順位で言えば護衛最優先でな。迎撃とかはその次でええんよ>>

「護衛任務の難しい点ですよね……」

<<特に今回は先に相手を無力化って手段を使いにくいからな>>

 専守防衛は相手よりも圧倒的な力を持っていないと実現は難しいからね、特にイネちゃんたち異世界の人間は立場的に国際的な抑止力がない分己の実力で抑止としなければいけない。

 幸いと言っていいのか難しいところだけど、イネちゃんたちはそれが実現出来るだけの力を持っていたのでこんな感じに面倒な状態になっているわけだけど、なかったらそもそも蹂躙されてたと考えると今の面倒くささは必ず通るものだったと言える。

 とりあえず今回は相手の領域を抜けてようやく公海に出て、すぐに日本領海上空にまで移動するルートが申請してある航空ルートなのでできれば急ぎたいところだけど……。

<<イネ嬢ちゃん、あちらさんも公海に出たことでどの国にも所属してない連中が動いたっぽいんよ>>

 ムーンラビットさんが指摘するように後方でブロブ編隊が徐々に速度を上げてこちらを追走し始めてきている。

「公海上で仕掛けてくるなら迎撃します」

<<離れずに、だが近づけずにな>>

「普通なら曲芸ですね」

 ただ攻撃可能になったのならそれはイネちゃんの勇者の力なら得意にするところでもある。

「ビームビットで全部叩き落とす!」

 シールドビットに格納されている砲塔となるビットを全部展開してこちらに特攻してくるブロブを接近前にビームの網を広げるような形で全機迎撃して撃墜。

 攻撃さえできればシャイニングトラペゾヘトロンによる特殊効果のないブロブに苦戦する余地はないからね、ビームは現象で言えば純粋な超高密度の超質量攻撃なので防ぐにしても重力操作や空間操作、もしくはビームの圧縮率を理解していて最適な同程度のエネルギーを使えば防ぐことが出来る程度のもの。

 魔法で防ぐとしたら前2つが1番無難だからそれを実行できるかどうかの問題は大きい……やってこられたらどうしようってなるけど別にそれはそれでレーザーか単純物理の攻撃で対処すればいいから今は考えないでいいか。

 ともあれかなり神経を使った護衛任務はここでの迎撃で一区切りがついた……課題は山盛りだけどね、うん。

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