第245話 対ブロブ

 ミサイルの雨に紛れて姿を現した見覚えのある機影は、それが引き起こしていた事件を考えるとできれば今の段階で完全消滅まで持っていきたい。

 何せアングロサンの主力艦1隻がコズミックホラーさながらに壊滅させられたってことがあったから、最近になるまで平和だったこの地球ではあの手のコズミックホラーとなると対抗手段を準備するまでの間に世界人口が何割か持っていかれるのが想像できちゃうからね、1機見かけたら100機いると考えた方が無難な手合いだし。

「ブロブと思われる機影を確認したので警告なしで落としていいですか?」

 それでも現場判断で進まないようにムーンラビットさんに連絡を取る。

 何せこの地球に現れていて、人類と共同作戦っぽいタイミングをとってきたのであるのだからこのくらいの警戒は必要だと判断出来る。

<<このタイミングでか?>>

「ついでに言えばお互いを攻撃せずこちらを監視してる感じですよ」

<<実戦テスト的な運用の可能性もあるな>>

「まともに戦闘するのもリスクってのは本当勘弁して欲しい……」

<<どの可能性にしても情報が少なすぎて特定できん以上はイネ嬢ちゃんの判断に任せるしかないな。後で色々不利になったとしてもこっちでケツを持ってやるから心配せず判断してもらってええんよ>>

「それもそれで困るんですけどね。でもムーンラビットさんはその言葉しっかり守ってくれるから現場で判断させてもらいますよ」

 というやり取りをしたものの、あのブロブが戦争行為してきている国の所属なのかどうかも不明だし、迂闊に破壊して以前イネちゃんが戦ったブロブと同じ動力であった場合はそれ自体が危険だからね、実物じゃないとはいえ近い感じの能力を保有しているシャイニングトラペゾヘトロンとかうっかりでも地上に落としてはいけない。

 となればイネちゃんがまずやるべき行動はおのずと決まっているのだけれど……ミサイルの飽和攻撃の隙をつかないと爆発したミサイルの破片を掌握して架空金属粒子に変換しているとは言っても目減りしているから相手の攻撃が後どれだけ続くのかわからないと架空金属粒子を利用した調査もしにくい。

 出来ないわけではないのだけれど防衛目標を危険に晒してまで優先すべき事項かと言われれば、あのブロブの動きを見る限りはそうではないからね、結局のところ現時点では現状維持が最優先事項、状況次第での優先対処にブロブがいる。

 最も、あちらが仕掛けて来た場合はその限りではないけれど、どうにもこちらの防衛能力評価って感じはコックピットからでも感じるくらい露骨だからね、あちらがどう動くのかっていうのはわからないにしても距離感から格闘戦を仕掛けてくるようなことはない。

 地球では標準的な戦法だけどブロブとなれば格闘戦してなんぼだしね、そのブロブが遠距離を維持し続けているってことは運用しているのが相当な馬鹿かブロブの性能をまともに理解してないかのどっちかだからね、ブロブは自律型兵器だけど捜査出来るっぽいことは人工アザトゥースとの決戦の時に嫌というほど見せられたからなぁ。

「牽制兼の調査用アンカー、それで倒せて引っ張れたらラッキーで」

 通信機もONにしたまま記録に残す形で呟きつつ、後部の姿勢制御にも使うワイヤーアンカーを射出する。

 射程って意味では本来届くわけもない距離と思うかもしれないけれど、こっちは巨体を生かした質量戦も戦術に取り込むためにかなり長めに作ってあるし、その素材も勇者の力で制御しているナノマシンで自己修復と自己増殖、戻る時は機体内部で自己崩壊させることでスペースを取らないようにしている……まぁそんな感じに実質イネちゃんが生成可能な分だけ射程を伸ばせるってことなので実質無いのと同じ。

 最も、伸縮と耐久に特化した分命中補正とか全く無いから回避されたらされたで面倒なんだけどさ、そこは勇者の力で制御していることを利用してニアピンなところまで行ったら架空金属粒子にして少しでも調査できるようにするだけ。

 シューティングスター分の資源なら多少目減りしても大丈夫な巨体だからこその強引な手段だけどゴリ押しでも正攻法になるときは多いのでいろんなツッコミされても気にしない精神で実行。

<<注意するんよ、アザたんの気配は感じないからあの時のとは完全に別の存在やからな>>

「イネちゃんの勇者の力なので侵食対決になったらその時はその時で」

<<ゴリ押しだが最適解か>>

「それにあのブロブなら勝った実績有りですしね、違うならすぐにわかりますよ」

 少なくとも現時点ではむしろあのブロブよりも弱いって印象だからなぁ。

 ただ何かしらの手段であれを強引に制御しているだけであればやっぱりシャイニングトラペゾヘトロンの関係で迂闊に処理出来ない、ある意味で核よりも厄介な汚染を広げてしまうから調査は必須。

 さて、どうなるかと思った瞬間ブロブはアンカーを回避することなく直撃してなんの問題もなく引き寄せることに成功してしまう。

 勇者の力による掌握も可能でシャイニングトラペゾヘトロンもなくて動力はイネちゃんが掌握出来ないもの……つまり金属の類や自然好物ではなく神話系物質でもないってことになる。

<<イネ嬢ちゃんそいつリリース!>>

 ムーンラビットさんが叫んだと同時、ブロブが質量に見合わない大爆発を起こした。

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