第244話 空中防衛戦

 機内の戦闘は外で巨大人型ロボットで護衛についているイネちゃんがどうにか対応出来るものではないのでムーンラビットさんが言ってきたようにイネちゃんは外からの攻撃に対して警戒を強める。

 現時点で一定の距離を保ちながら平行飛行している、一応はステルス機能がついているっぽいものの既に肉眼で目視出来る距離だし、架空金属粒子による広範囲センサーとして展開している自前のレーダーには全力で引っかかってるからステルスの意味なんてこれっぽっちも無いけど。

 機内の戦闘に関してもよっぽど変なものでもない限りは問題なく対処出来る面々で固まっているし、ムーンラビットさんも戦闘が苦手って言いながらも純粋に力が強いことがあるし経験の年季も段違いだからリリアと比べた場合ムーンラビットさんの方が戦闘では圧倒的に頼りに出来る。

『イネ、遠方に増えてる』

「目の前のは囮兼用かな。ヘイト集まる分危なくなるのによくやる」

『名誉とかそんなところなんじゃない?もしくは家族にお金とか』

「そういう社会構造かぁ」

 正直滞在中、あの国の現場の人間や一般市民の様子を近くで体験した感じではそんな殊勝な考えを持った人間はごくごく少数に感じたものの、同時に近しい血縁関係に対しての情は厚くも感じたからありえるとすれば遺族に対しての保証金かな。

 最も、こちらの攻撃で戦死させる形にならないように可能な限り頑張りはするけどね、回収した後の処遇に関してはこちらのあずかり知らぬ内容だから別だけど。

<<こっちは一応無力化はしたが……いやぁくっそ面倒な相手を送り込んできやがったな>>

「ムーンラビットさんが面倒って言うのはよっぽどですね」

<<死なない系は想定内だったからまだいいんやけどな、実際来るとやっぱ面倒よ>>

「死なないって……」

<<魔法生物ってところよ。最初に設定された体積に戻るように細胞分裂やら再生を繰り返すタイプで再生よりも早く細胞を跡形もなく消滅させるか、私がやった感じに拘束するかでないと無理なタイプよ。私の古い知り合いはこれに捕食やらまで加えて自動防衛システムとして運用していたな>>

「古い知り合いって、今の名前になる前ってことです?」

<<そうよ。ともあれこっちが撃退成功した時点であちらとしても何かしら次の手を使わざるを得ないだろうからな、注意してくれ>>

「囮っぽいのとは別に部隊展開確認してるので、動きを見せたら警告なしでいきますよ?」

<<そもそも戦闘機が相手にロックオンアラート鳴らした時点で戦闘行為やからな、それで構わんよ>>

「了解、シールドビットからちょっと使わせてもらいます」

 報告だけして飛行機を守っているシールドビットに収納してある攻撃用のビットを追加で展開する。

 これであちらさんが機銃の場合は既に補強してある飛行機の装甲で対処出来るし、ミサイルを撃って来るようなら音速に達する前にシールドビットが反応して防御出来る。

 今展開した攻撃用のものはその攻撃に対して相手の主翼を切断したり推進力を撃ち抜いて脱出せざるを得なくさせるもの。

「さて、どう動くかな」

 こちらが武器を取り出して見せたことで攻撃行動とみなしたのか、まずは囮をしていた奴が減速を始めた。

「減速?」

 このタイミングでの減速は撤退か、そもそもそういう作戦だったのかだけど……こんな危ない囮で1番危ないポジションをやっている人間が攻撃される素振りを見せられただけで腰が引けるなんてことはない……というかそこで腰が引けたら軍人なんてやってられないわけで、明らかに不自然な動きだと言える。

 この減速が自然になるとなると、味方の攻撃に巻き込まれないようにするためか、射線を開けるための行動になるけれど後方にいる編隊には特に動きが見られない。

『上!熱量も高い!』

 イーアの叫びでシューティングスターを動かしつつシールドビットを1基その熱量の方向へと地球の物理慣性を無視した加速力で突っ込ませる。

 シールドビットに直撃したそれの爆発は戦闘機に搭載されているソレよりも威力が高く、核よりはクリーンで安全とされている弾頭。

「ナパーム……」

『他にも盛りだくさんって感じ』

 どうやらこちらの嫌がることはわかっているようで、上空から飛んできた弾道ミサイルは兵器の更新が近い破棄するよりは使った方が安く済むものを全部叩き込んでるんじゃないかって勢いで飛んできている上に、中にはクラスター式のものまで混じっていてこちらのシールドビットの数を遥かに上回ってくれちゃっている。

「シューティングスターを盾変わりに使う」

『架空金属粒子をまとめて防護フィールドにする。それなら擬似的にアングロサンが使ってるFTL時のフォトンバリアに近い強度を得られる』

「フォトンシールドそのものの生成は……」

『間に合うと思う?結構複雑な上にフォトンバッテリーの生成も時間がかかるのに』

「了解、それでお願い」

 理想はアングロサンの戦闘艦が標準装備しているバリアではあるけれど、ないものねだりをしても仕方ないので今あるもので出来ることをする。

 飽和的に空間攻撃をされるっていうのは毎回イネちゃんがやってたことだからこの状況に文句を言うのは筋違いだしね、それにイネちゃんだって自分が使う戦術である以上はその対応策も日頃からちょくちょくシミュレートしてたのでこういう時の対応が早くできて助かった。

 やっぱり日頃の想定と準備がこういう時にものを言うね、そうそう都合よく秘められた力がーとかレベルやらスキルやら得たいの知れないものを得たいの知れない相手から授かるなんてご都合主義なんて起きるわけがないのだから。

 最も、今回は最善の準備ができたとは言い難いし実際できていないわけだけど……だからといって諦めるのはプロとは言えない。

「こういう戦闘ならイネちゃんがベストだ」

 ココロさんでは手数が足りず、ヒヒノさんでは余波で防衛目標にも影響が大きくなりかねない。

 その点イネちゃんの勇者の力での影響ならそう言った余波を気にしなくていいし、手数が足りない場合は別の手段を使って防衛することが出来る。

 ムーンラビットさんがこれを想定していたわけではないだろうけれど、少なくともこのタイミングでは場当たり的な配置がうまくかみ合ったわけだ。

 とりあえず今攻撃してきているミサイルの雨は現状なんとかなっているし、廃棄予定の余剰兵器だけであればそれほど手数が続くわけでもない上にEEZの外に出てしまえば現時点でも極めてブラックなグレーな状態なのに完全な国際法違反確定になるからね、それが公海上空だとしてもほかの国の政治的代表となれば戦争行為だからね。

<<進路上が見えにくいって苦情が来とるが>>

「クラスターナパームのシャワーを浴びたいなら解除するって伝えてください、相手さん兵器の更新時に廃棄される予定のミサイルで飽和攻撃してきているので部分的な解除でもダメージ確定ですよ」

<<そう伝えてはいるが電波も遮断しちまってるからな、目隠しで航空機を操縦してる彼らも褒めてやって欲しいんよ>>

「こっちの取得してるデータをそっちにも共有するのでそれに従ってもらって」

<<それは分かってるが、あちらさんどうにも現状を正しく理解できてないんで状況把握のデータも送ってもらえると助かるんよ>>

「シューティングスターのコックピットUIに表示されてるのをそのまま送りますって」

 シューティングスターのセンサー類は基本架空金属粒子による電波阻害効果を想定したものだし、一部のアングロサンセンサーやカメラに関しても架空金属粒子のサンプルを渡した結果対応したものを試作開発して大陸で運用するものに優先して配備されて、その恩恵はイネちゃんにもあったのでかなり鮮明……というか必要以上に高解像度の映像データと各種データまであるので航空機が飛行する上で必要な情報は揃っている……と思う、多分。

 どの情報が必要かわかってれば全部渡すとかやらなくていいからね、うん。

<<情報の取捨選択が必要やね>>

「旅客機の飛行に必要なデータがどれがどの程度必要かは知らないですから」

<<まぁ間違いなくイネ嬢ちゃんの乗ってる機体が装備している兵装の残弾やらエネルギー量は必要ない情報よな>>

「そのへんの選別はそっちでお願いします」

<<イネ嬢ちゃんはこのまま防御を頼むんよ。保険まで準備している時点でまだ何かあるだろうからな>>

「飛行機に機械的な爆発物がないことだけは確認してますけど、有機物系でのそれはイネちゃんからは保証できないですよ」

<<そっちは私が魔法方向で確認済みよ。それでも漏れはあったのは間違いないからちょい不安は残るが>>

「機体強度は内部で地球製の小型爆発物で破れないくらいには強化済みですけど、中の人の安全はむしろ減ってますからね」

<<確定死亡じゃなくなってるならどうとにでもしてみせるんよ。そのくらいできなきゃヌーリエ教会の司祭なんてやってられんしな>>

 そういえば忘れがちだけどムーンラビットさんは最高位じゃなくて中間管理職ポジションの司祭だった。

<<それとな、イネ嬢ちゃん状況維持と会話に集中してる場合じゃないっぽいよ>>

 ムーンラビットさんがその言葉を発した直後、シューティングスターのセンサーにエマージェンシーが表示された。

「……あれって」

 見覚えがあるそのエマージェンシーの正体は、人工アザトゥースが運用していたブロブだった。

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